大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
672 / 2,021
本編

群衆と笛吹男

しおりを挟む
どよめく場外は、ようやく俺の意図を理解したらしい。
俺が《雷光》の代わりに戦う、という事が。
「ふ…ふざけるなあっ!!」
外から一際大きな声が俺に向かって発される。
声がした方を見るが、人が多すぎてよく見えない。
「大体貴様はどこの誰なんだっ!!何の権限を持ってこの場にいる!これは聖学の二つ名持ちと西学の生徒達がこの場所を取り合う戦いだぞ!貴様のような部外者がこの場を荒らしていいものではないっ!!」
それでも尚探してみると──いた。
グレーの髪に同じ色の瞳、男にしては小柄なそいつはその小さな肩を精いっぱいいからせて俺にそう叫んでいた。
まぁ、男からしたらそう見えるのだろう。
それに。
必死に巡らされた作戦を、たった一人の闖入者に壊されるのかもしれないのだ。それは阻止したいに決まっている。
でもな。
俺達だって。
三日かけて用意してきたんだよ。
忙しいクラスとの合間をぬって。
それを──こんなにも簡単に潰されそうになって。
『………。』
怒らない訳が無いよな?
だから俺はそれに答える。
簡単に。
こつ、こつ、と。
自分の額とこめかみの間、そこを軽く左手で叩く。
俺の反応リアクションはそれだけ。
しかし答えはそれで充分なはずだ。
「白い狼の……面?」
男がポツリと呟くのが辛うじて聞こえた。
そしてその声が、水面に落とした石が描く波紋の如く、ゆっくりと──しかし確実に伝わり、どよめきが消えてゆく。
俺がつけているのは、初日の大戦の時に貰った仮面。それが偶然残っていたので、そのまま使わせてもらった。
そして次はひそひそと、小さな小さな声たちが一つの塊に──一つの単語を口々に零す。
すなわち──《緋眼騎士》の名を。
「う…狼狽えるなっ!」
灰色の目を揺らしながら男が叫ぶ。そして司令官のような人影へと一度視線を向け、頷いた後にそのまま群衆の方へと向く。
「相手は変わらず二つ名だが、一人だけなのも変わっていない!それに、私のスキルで視た限り──」
男は俺の方を指差す。
「相手もまた手傷を負っている!倒せない事は無い!」
チッ、バレたか。
その情報は隠しておきたかったんだがな…面倒なスキルだ。司書さんの視覚版か。
『あの男…《笛吹男ハーメルン》だな』
ハーメルン?
『戦いにおいて…と言うより群衆に対して、都合のいいように事が運ぶように扇動する奴のことだ。こういう時のハーメルンは手練の戦士よりも面倒だ』
…なるほど。
確かに向こうはやる気を出している。面倒な事になりそうだ。
「変わらず五人一組で隙を突け!見ろ!お前達はあの《雷光》を倒したのだ!やれない事は無い!!」
しおりを挟む

処理中です...