大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

補給と血

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「やっぱりアレだな、四人もいると楽だな」
「あぁ。しかしやはり気になるのが魔獣達の質だな…私が思っている以上に質が高い」
「そんなにか?何か不味いことでもあるのか?」
「あるに決まっているだろう。七夜の時点で質的に言えば八夜、あるいは九夜並の質だぞ?それが終夜にまで続いてみろ。最後にはどんな化物が来るか想像もつかんぞ」
「そりゃまぁ…そうだが…少し早く終わる可能性はないのか?」
「それは──」
「あ、あの…ですの…」
「「なんだ?」」
第七夜が明け、結界の穴が一気に収縮、魔獣の数が激減。
だから俺とヤツキはこんなに気軽に話し合っていたのだが…
「どちらかその、ま、魔力を分けて欲しいのですけれど…」
「あぁ、ンなこと言ってたな。昨晩あんなにハッスルするからだ」
「………アーネ、すごかっ、た」
「しかしペース配分ぐらい出来てもよかっただろう…」
「ヤツキ、お前魔力をアーネに渡せるか?」
たしか、それなりに難易度は高いが魔力譲渡の魔法…というか術式があったはずだ。
元勇者だから魔法に明るくないのは承知で聞いてみるが、ヤツキは当然首を横に振る。
「アーネは出来ないのか?」
「あれは使用者から対象者への一方通行ですのよ。私がすれば本当に魔力が枯渇してしまいますわ」
あぁ、そんな魔法だったのか、あれ。そりゃ横取りすれば何が起こるかわからない…クードラル先生が前に滅茶苦茶俺を叱った理由が今更わかった。
『あれはないのか?ほら、お前の血から作った魔力回復薬マジックポーション
あぁ、あれ?一個作るのだって結構手間だから一本しか作ってなかったんだが──
『それやれよ。出し惜しみするな』
いや、マキナが魔力足りないって言った時にぶっかけた。もう手元にない。
『…まぁ、仕方ないか』
となると方法は限られてくる。
「しゃーない。アーネ、ちょいと悪い」
ブツッ、と前歯で唇を噛み、それを強めに抉って強く血を溢れさせる。
「えっ」
唐突に始めた自傷行為にアーネが目を白黒させている間に、血が入り混じった唾を直接アーネの口元に運ぶ。
「!?!!!!!??!?」
男の俺が背伸びしなきゃならんというのが地味に屈辱的、そんでもって嫌いな相手に口付けされるのはアーネも嫌だろうが、背に腹は代えられん。我慢してもらう。
唾を受け取ろうとしないアーネの口に俺の舌が割って入り、強引に飲ませる。俺の体内の魔力を顔付近に意図して集めているため、それなりに魔力の濃度は高いはずだが…
それでもアーネの顔には疲労の色がやや濃い。俺の魔力も大して減っていないのが感覚的に分かる。
仕方ないので唇を繋げたまま、さらに魔力の注入を試みる。
が、既に唇の傷からは早くも血が流れにくくなっていた。
内頬を軽く噛み、血を吸い出して唾と共に再び流し込む。その際アーネの唇も一緒に吸ってしまい、痛かったのかアーネの身体が震える。だが、ようやくアーネも俺の意図を汲んだらしい。自分から舌を俺の口の中に運んできた。
それを何度か繰り返すと、強めの脱力感が出始める。これ以上は俺も危険か。
「──っ、これでいいか?」
唾液で汚れた口元を拭い、傷つけすぎた口内の痛みで僅かに顔をしかめる。
「──っ、えぇ、その、あの、ありがとう、です、の…」
顔を真っ赤にし、汚いと言っていた地面にへたり込むアーネ。
「…?足りなかったか?もう少しだけならやっても──」
「いえ!いいですわ!!」
と、力強く否定するアーネ。
「二人でお熱いところ悪いが──」
ヤツキが不機嫌そうな顔と声音でこちらに呼びかける。
「少ないながらも、そろそろお客さんが来るぞ。構えろ朴念仁」
「あぁ悪い。…アーネは寝てろ。そんでもって魔力を早く回復しろ」
「そ、そうしますわ」
まだ顔赤いな、あいつ。もしかしてまた風邪でも引いたか?
『そう言ってるうちは一生分からねぇだろうよ』
シャルにまで文句を言われた。何故だ。
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