大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
868 / 2,040
本編

補給と血

しおりを挟む
「やっぱりアレだな、四人もいると楽だな」
「あぁ。しかしやはり気になるのが魔獣達の質だな…私が思っている以上に質が高い」
「そんなにか?何か不味いことでもあるのか?」
「あるに決まっているだろう。七夜の時点で質的に言えば八夜、あるいは九夜並の質だぞ?それが終夜にまで続いてみろ。最後にはどんな化物が来るか想像もつかんぞ」
「そりゃまぁ…そうだが…少し早く終わる可能性はないのか?」
「それは──」
「あ、あの…ですの…」
「「なんだ?」」
第七夜が明け、結界の穴が一気に収縮、魔獣の数が激減。
だから俺とヤツキはこんなに気軽に話し合っていたのだが…
「どちらかその、ま、魔力を分けて欲しいのですけれど…」
「あぁ、ンなこと言ってたな。昨晩あんなにハッスルするからだ」
「………アーネ、すごかっ、た」
「しかしペース配分ぐらい出来てもよかっただろう…」
「ヤツキ、お前魔力をアーネに渡せるか?」
たしか、それなりに難易度は高いが魔力譲渡の魔法…というか術式があったはずだ。
元勇者だから魔法に明るくないのは承知で聞いてみるが、ヤツキは当然首を横に振る。
「アーネは出来ないのか?」
「あれは使用者から対象者への一方通行ですのよ。私がすれば本当に魔力が枯渇してしまいますわ」
あぁ、そんな魔法だったのか、あれ。そりゃ横取りすれば何が起こるかわからない…クードラル先生が前に滅茶苦茶俺を叱った理由が今更わかった。
『あれはないのか?ほら、お前の血から作った魔力回復薬マジックポーション
あぁ、あれ?一個作るのだって結構手間だから一本しか作ってなかったんだが──
『それやれよ。出し惜しみするな』
いや、マキナが魔力足りないって言った時にぶっかけた。もう手元にない。
『…まぁ、仕方ないか』
となると方法は限られてくる。
「しゃーない。アーネ、ちょいと悪い」
ブツッ、と前歯で唇を噛み、それを強めに抉って強く血を溢れさせる。
「えっ」
唐突に始めた自傷行為にアーネが目を白黒させている間に、血が入り混じった唾を直接アーネの口元に運ぶ。
「!?!!!!!??!?」
男の俺が背伸びしなきゃならんというのが地味に屈辱的、そんでもって嫌いな相手に口付けされるのはアーネも嫌だろうが、背に腹は代えられん。我慢してもらう。
唾を受け取ろうとしないアーネの口に俺の舌が割って入り、強引に飲ませる。俺の体内の魔力を顔付近に意図して集めているため、それなりに魔力の濃度は高いはずだが…
それでもアーネの顔には疲労の色がやや濃い。俺の魔力も大して減っていないのが感覚的に分かる。
仕方ないので唇を繋げたまま、さらに魔力の注入を試みる。
が、既に唇の傷からは早くも血が流れにくくなっていた。
内頬を軽く噛み、血を吸い出して唾と共に再び流し込む。その際アーネの唇も一緒に吸ってしまい、痛かったのかアーネの身体が震える。だが、ようやくアーネも俺の意図を汲んだらしい。自分から舌を俺の口の中に運んできた。
それを何度か繰り返すと、強めの脱力感が出始める。これ以上は俺も危険か。
「──っ、これでいいか?」
唾液で汚れた口元を拭い、傷つけすぎた口内の痛みで僅かに顔をしかめる。
「──っ、えぇ、その、あの、ありがとう、です、の…」
顔を真っ赤にし、汚いと言っていた地面にへたり込むアーネ。
「…?足りなかったか?もう少しだけならやっても──」
「いえ!いいですわ!!」
と、力強く否定するアーネ。
「二人でお熱いところ悪いが──」
ヤツキが不機嫌そうな顔と声音でこちらに呼びかける。
「少ないながらも、そろそろお客さんが来るぞ。構えろ朴念仁」
「あぁ悪い。…アーネは寝てろ。そんでもって魔力を早く回復しろ」
「そ、そうしますわ」
まだ顔赤いな、あいつ。もしかしてまた風邪でも引いたか?
『そう言ってるうちは一生分からねぇだろうよ』
シャルにまで文句を言われた。何故だ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...