大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

治癒と暇潰し

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とんでもない事が発覚した。
ヤツキの怪我がパレード終了時より悪化していた。
左の肩と肘、胃袋と肺をやらかしていたヤツキだったが、それらがより深刻なダメージになっており、自然治癒では中々治らないような怪我がになっていた。
それに加えて右の膝、脇腹にそれなりに大きな怪我を負っていた。
…これは悪化と言うか…追加?
「おいヤツキ、てめぇ一体何してやがった?」
「別に」
ンなわけあるか。
ヤツキの自室にて、ベッドの上で強制的に寝かされたヤツキを松葉杖で軽く小突く。
お陰でアーネが疲労困憊になりつつも治癒魔法と回復魔法を使う緊急事態になったんだぞ。ヤツキの怪我はとりあえず一通りほぼ治った形となったが、骨の継ぎ目は弱いし肺や胃も最小限しか治していない。脇腹や膝の怪我は回復魔法で軽く治して、上から包帯と薬草湿布で処置してある。 
ちなみに
「痛いな。私は怪我人だぞ?もっと労わったらどうだ。罰は当たらんぞ」
「俺も怪我人だからセーフだな」
「『どういう理屈だ。それ』」
どうでもいいだろ。
「で、怪我が悪化したり怪我が増えた理由は?」
「…何でもないと言っているだろう」
明らかに目を逸らし、不自然に天井を眺め始めるヤツキ。
………はっはーん、予想はついた。
「シエルー、ちょっとおいでー」
「………ん!よん、だ?」
ドダダダダッ!!と勢いよく階段を駆け上がる音が扉を勢いよく開け、ヤツキの部屋に飛び込んでくる。
「ちょっとこの間の結界の境界線のところ行ってきてくれないか?」
「………おかあさん、は?」
「俺はちょっとな…この足じゃ遠出は難しいからお預けだ。かわりにマキナをつけるから。それで勘弁してくれ」
やや不機嫌な顔をしつつ、それでもシエルはこくりと頷いてくれた。
「ほれ、外は寒いからな。少し大きいが俺のコート貸してやる。あと、念の為に武器を忘れるなよ?」
「………ん!」
着せてやると、やはり大きい。アーネ達の持ち物は武器とほんの少しの応急キットだけだし。替えの服すらない。後でアーネから詳しく話を聞こう。アーネがある程度回復したら。ちなみにそのアーネは今頃、部屋でぐったりとしている事だろう。
「………いってき、ます!」
『行って参ります・マスター』
「いってらっしゃーい…と」
大きなコートを来た小さな彼女と、片腕を失った魔法の彼女が出ていったのだろう、バタンと音がして家が静かになる。
「多分結界の近くの死体を片付けてたんだろ?それでついでに魔獣と戦ってきたか?その身体でよくやる」
「…まぁ、そういう事だな。分かっておきながらシエル達を外に送った理由は?」
「念の為の確認と、暇を持て余していたあの子を遊ばせるためだよ。大して深い意味は無い」
さて、家も静かになったし。
俺も寝るか。
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