大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
2,021 / 2,040
外伝

開発部の中

しおりを挟む
扉の奥は雑然とした物置じみた部屋。驚くほど広いくせに、その広さを狭いと感じるほど物を雑多に積まれた部屋は、お世辞にも綺麗とは言えない。
「………きたな…」
「本音出てるぞアベル。分かってるとは思うが、絶対触れるなよ」
「はい。崩れると困りますからね」
どうやったらここまで高く詰めるのか。見るからに重そうな、そして一目見ただけで用途が分かるような剣や槍、鎧などから始まり、ベルトのような鞭、あるいはその逆のような物、龍の置物にしか見えない何か、時たま明るく発光する鏡や「予算寄越せ馬鹿野郎」と彫りこまれた鉄板などと、訳が分からないものも大量にある。
共通していることと言えば、どれも雑に積まれていることと、何かしら張り紙が貼られている事だろう。「失敗作」や「未完成」、「俺のモン」………中には「差し押さえ」などと貼ってある。
「……あぁ、お前はここに入るの初めてか。しかし誰もいないな…」
「?」
足の踏み場もないような部屋の惨状だが、慣れた様子でひょいひょいと部屋の奥へと進む少女。
仕方なくアベルもその後を追い、部屋の奥へと進んで行く。
「どこに行くつもりですか?兵装開発部長はどうもいらっしゃらないようですし、早く戻りましょう。パレード明日なのですから、色々と決めなければならないことがありますよ」
「どこに行くってお前、言ったじゃないか。兵装開発部長の所だって。ここは物置なんだから、開発部長がいるわけないだろ?」
「……じゃあなんで僕にノックさせたんですか」
「前はここが開発部長室だったからな」
「はい?」
「その前は実験場、そのさらに前は廃棄場、さらにさらにその前はまた物置だった」
「……どういうことですか?」
「仕組みは知らんが、兵装開発部は毎回扉を開くたびに部屋の位置がシャッフルされるんだと。何代か前の部長が『どこにでも通じる扉』を作ろうとして失敗したとか聞いた。ほら、扉だ。開けろ」
再び示された鉄の扉を、アベルがノックをして扉を開く。
「はーい、ってあれ、黒鎧の副隊長さん?お久しぶりです」
人がいる部屋に当たったのはさらに扉を四つ開けてからだった。
「クララ……だったか?一年半ぶりだな。その様子だと、前に会ってから一度も出れてないのか」
「はい。あぁいえ、出れてないんじゃなくて、出てないんですよ?ここはご飯もありますし、少しだけですけど娯楽もあります。別に不自由はしません。住めば都って奴ですよ」
グルグル眼鏡に三つ編みと白衣の少女が、湯気のたったコーヒーを一度下ろし、笑いながらぽてぽてと近づいてくる。
「あの……隊長、この方は?」
「クララ。兵装開発部の職員の一人だ」
「あ、初めまして。あなたがアベルさんですか?お話は前に少しだけ副隊長さんから聞きましたよ」
ぺこりと頭を下げるアベルと、それをほぼ完全に無視したクララ。黒鎧の彼女はそのまま話を続ける。
「こんな奴ばっかりだから兵装開発部は変人の集まりだって言われてるんだろ。あと俺はもう副隊長じゃない。一個上に上がって黒鎧隊長だ」
「それはそれはおめでとうございます。ところで右腕は付け外し可能でしたっけ?兵装開発部ウチ全自動戦闘機オートマタなんて作ってたっけなー?」
「俺は生身の手足しか持ってないよ。今回はそれに関しての話でな。開発部長はどこだ?ずっと迷ってて困ってるんだ」
「部長ですか?真面目に仕事をしてるなら部長室ですね。してないなら、こっそり抜け出して街に繰り出してるんじゃないでしょうか」
「そうか。それじゃあとりあえず部長室まで繋げてくれるか?」
「はーい。この扉の扱い、慣れないと難しいですもんね」
クララがそう言うと、手近な扉をノックしてから一言「失礼します、お客様です」と言ってから開ける。
「どうぞ」
「ほらアベル、行くぞ」
「え、あっ、はい」
さっさと行ってしまう彼女を、アベルが慌てて追いかけ、扉の向こうへと進む。
パタリと閉じた扉を見、クララが一人でコーヒーを啜り、小さく呟く。
「ぬるくなっちったな」
視線じっとそのまま、扉の方を向いたままで。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

処理中です...