大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
上 下
2,006 / 2,021
外伝

副隊長のお小言

しおりを挟む
「何してくれたんですか隊長……国の士気を上げる話なのに、半分以上の人が黙っちゃったじゃないですか。引いてますよ。あれ」
「うるさいな。覚悟しろって言っただろ?一言」
「それだけで隊長が何をするか全て分かる訳がないじゃないですか……!!どうするつもりなんですか!?」
彼女の演説の後、場は地獄のような無言の空気に包まれた。
その後、僅かにざわざわとした空気が湧き、徐々にゆっくりと加速。彼女が剣を叩きつける前の歓声と大差ない程の騒音にまで上がって行った。確かに盛り上がりはしたが、一人ひとりの言葉はどちらかと言うと否定的なものばかり。
周りが求めていたような盛り上がり方とは全く逆ベクトルの声は、今からパレードをする者を祝福するようなものではなかった。
「別に?どうもする気は無いさ」
アベルが彼女の演説中、乱雑に脱ぎ捨てられてしまった衣服を多少繕ったのだろう。少しは見栄えが良くなったそれを何の気もないように受け取りつつ、彼女がそう言う。
わずかな時間でボロボロになってしまった豪奢な衣服を適当に黒コートの上から羽織り直した彼女は、そう言ってからパレード用の前が大きく開いた馬車に乗る。
「なっ……!?」
思わずそう言ったアベルは、何かを思い出したかのようにハッとなった直後、彼女の隣に飛び乗る。
「……おいおい、俺のためのパレードだろ?なんで《英雄お前》が乗るんだよ。効果半減じゃねぇか」
「今《勇者隊長》の株はとんでもない勢いで落ちているんですよ!その事を自覚してください!たった今からメッセージが届いて、僕に隊長のカバーをしろと命令が下されたんです!!」
「ふぅん、そういう事──待て、メッセージ?手紙が届いたのか?」
何気なく頷きかけた彼女が、違和感を覚えて確認すると、アベルが「何言ってるんですか」と呆れて返す。
「近距離なら音声を飛ばすことが出来るようになる魔法ですよ。かなり前に開発された魔法──あ、そうか。隊長は情報が一年分…」
「なるほどな、そう言う便利な魔法が開発されたのか……後でここ一年分の話、全部聞かせてもらうからな」
その一言でアベルの顔が明らかにげんなりとする。自ら仕事を増やしてしまったと気づいたようだ。
「で、俺は何をすればいい?副隊長殿よ」
「笑顔で手を振っていてください。と言うか、それ以外はしないでください。お願いしますから」
「はいはい。わかりましたよ」
馬車が小気味いい音を鳴らしながら進み始めた。
しおりを挟む

処理中です...