大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

文字の大きさ
57 / 2,040
本編

背中と聖女様

しおりを挟む
目が覚めると、再びベッド。
違うのは、起きた時間が夜中だってこと、服を上下しっかり着せられてるってことと、起きた時に誰かがいるってことぐらいか。
「よう、アーネ」
「目覚めはどんな気分ですの?」
風呂での一件は何もなかったみたいな感じで接してくるアーネ。
そういや、飯を食いっぱぐれたな。
にしても、服を着せてあるってことは…。
「…見た?」
「貴女の貧相な体とナニのことですの?安心してくださいまし。水着もどきは着せたままですわよ」
「そうか、そっちじゃないんだ」
ちょっとシリアスな場面だから、ツッコミは無しな?
「…背中のことですの?」
やっと核心に触れたな。
「そうだよ。知ってるってことは見たってことだよな?」
返事は返ってこないが、どちらにせよ同じことだ。
自分の背中、普段は髪で隠れて絶対に見えないし、見えないようにガードもしてる。無意識でもな。
だから多分、腹切ったときは髪が邪魔で着せれなかったんだろう。けど、今回はそのガードすらとけるほど深く気絶してたらしい。
よっぽどだなおい。
「あれは――」
「他言無用で頼む」
知られたら、大騒ぎなんてもんじゃない。
自分の背中には…とある紋章が刻まれてる。
ラウクムくんに昨日髪を洗わせなかったのは、これが理由だ。
まぁ、今日ラウクムくんに許した理由は彼は目を背けて、ろくに自分の背中を見ないだろうと考えたからだが、今はその話は置いておこう。
まるで、一画一画を一々別の何かで彫った、切った、抉った、縫ったような跡。
けれど、実はこれは後から刻まれたものじゃなくて、生まれた時からあるものだ。
……少し、聖女様の話をしようか。
聖女というのは、この世界で唯一、『外、内の同時に作用する結界を張れる能力』と、『生物に対しての強化魔法』を使える人のことを指す。
最初の聖女様が『出現』したのは、約五十年前。
魔族に侵攻されたショボい村にいた彼女は、蹂躙される村の様子を見て、そこで『神』を見たらしい。
そして、その神に契約し、聖女となったらしい。
これは、ヒト族なら誰しも知っている話だ。
その時以来、聖女と呼ばれる女性が、前の聖女が死ぬ度に生まれた。
彼女達には共通する点があった。
一つ、女性であること。一つ、金髪に碧眼であること。一つ、生まれた時は普通の女性であること。
そして最後、体のどこかに必ず『聖女紋』と呼ばれる紋章が体に刻まれていること。
もちろん、自分はよく女性に間違われるが、れっきとした男だし、白髪に黒目だ。
そして、自分の背中にあるソレは、『聖女紋』とは明らかに違うものだ。けど、どこか似ている。
悪意を限りなく注ぎ込んだ『聖女紋』。どこかそんなイメージを持つ一方で、神々しいような気すらする。…らしい。
いや、背中とか基本見えないからね?
最初に見つけてくれたのは故郷の友達だし、それを隠すように言ってくれたのもその友達だ。
「他言、無用で頼む」
力強くアーネに頼み込む。
これを見られたら、恐らく非常に面倒なことになる。
具体的に、聖女様を祭り上げる勢力である『教会』に狙われたりだとか。
そんな暇は今ない。自分は聖女様に仕えたい。それも、五人いる英雄を全員引きずり下ろして、たったひとりの英雄に。
「…わかりましたわ」
渋々と言った感じのアーネの返事。そりゃそうだろうな。こんな面倒事、誰だって好き好んで抱えたくはないだろう。
「けれど、条件がありますの」
風呂やベッドならいくらでも譲ってやるつもりだ。だけど、アーネの条件は全く違うものだった。
「自分以外の回復魔法を受け付けないでくださいまし。これは一つの安全策ですわ」
確かに、この事を知っている人にしてもらった方がいいだろう。
「わかった、それでいい」
その一言を聞いた途端、アーネが顔を伏せ、何かを呟いたが、その声は自分には届かなかった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

聖女のはじめてのおつかい~ちょっとくらいなら国が滅んだりしないよね?~

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女メリルは7つ。加護の権化である聖女は、ほんとうは国を離れてはいけない。 「メリル、あんたももう7つなんだから、お使いのひとつやふたつ、できるようにならなきゃね」 と、聖女の力をあまり信じていない母親により、ひとりでお使いに出されることになってしまった。

主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから

渡里あずま
ファンタジー
安藤舞は、専業主婦である。ちなみに現在、三十二歳だ。 朝、夫と幼稚園児の子供を見送り、さて掃除と洗濯をしようとしたところで――気づけば、石造りの知らない部屋で座り込んでいた。そして映画で見たような古めかしいコスプレをした、外国人集団に囲まれていた。 「我々が召喚したかったのは、そちらの世界での『学者』や『医者』だ。それを『主婦』だと!? そんなごく潰しが、聖女になどなれるものか! 役立たずなどいらんっ」 「いや、理不尽!」 初対面の見た目だけ美青年に暴言を吐かれ、舞はそのまま無一文で追い出されてしまう。腹を立てながらも、舞は何としても元の世界に戻ることを決意する。 「主婦が役立たず? どう思うかは勝手だけど、こっちも勝手にやらせて貰うから」 ※※※ 専業主婦の舞が、主婦力・大人力を駆使して元の世界に戻ろうとする話です(ざまぁあり) ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...