ヒアラ・キュアー

るろうに

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1章

22話 ノノの分岐点

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俺は一体どうなってしまったのだろう…
両腕に抱いていた探索者の2人は気を失ったまま目を覚まさない。

「この壁は…確かマホロさんだよな?」

すごく強固な壁だ。透明なので龍の手の中が丸見えで怖いが、亀裂どころか軋む音すら感じられない

俺はどうなってしまうのだろう。逃げるのに必死であまり見えなかったがこの龍はとてつもなく大きな龍だった気がする。俺がこの中でどうしようと何も出来ないだろう。

「大人しく助けを待つしかないか…」

その時、どこからか声が聞こえた気がした

「ん!?誰だ!」

声にならないような遠くからの声…?
いや、耳を塞いでも聞こえるこれは…

「頭の中に直接ってやつか…?さすがにビビるぞ」

でもなにか大事なことを伝えてるような気がする。

「目を閉じて集中すればなにか聞こえるか…?」

そっと目を閉じて耳を澄ます。
すると心を落ち着かせるにつれてその声は次第に大きく聞こえるようになった

「…あなたはまだ死ぬ時じゃないわ。この龍を倒すためにも…あなたの力が必要なの」

「…君は誰なんだ?俺の心に直接語りかけてくるなんて回りくどいやつだな」

「仕方がなかったの。私には言葉を発する事が出来ないから…」

はっきり声が聞こえだすとその声の主の姿が自然と脳内に浮かび上がってくる。それは小柄な女性だった

「ん…?君はもしかして…」

「うん。幽霊だよ。かつてこの覇王龍に挑んで負けちゃった人達の1人。」

「幽霊…そちらからコンタクトされたのは初めてだな」

「生前に強い力を持っていると幽霊になっても意志を持つことがあるらしいんだよね。一般人は未練や呪いを意思のない霊体として残すだけなんだけど」

「そうなのか…君は、どうして俺に話しかけてきたんだ?」

「君の存在を他より強く感じたんだ…多分それは天啓の繋がりが関係しているんだと思う」

「繋がり?君は俺が産まれる前、速さの天啓の先代的な人なのか?」

「いや、天啓が被ることは無いよ。どんなに有名な名称だとしても一生に1度、ただ1人が宿したらどんなに能力が似ていてもそれは似て非なるものだよ。私の天啓は。刹那の天啓さ。君と同じ速さの分類に入るんだ」

「速さの分類か…なるほど。」

「おっと…ごめんね、まだ話したいことは沢山あるんだけど、とりあえず今はこの状況をなんとかしたい。そのために君の力をもっと引き出すことが必要なんだ。」

「俺の力を…もっと?」

「うん。正直君の能力はまだ2割も真価を発揮していない。練度もだけど君、この能力や自分のことを信用出来てないでしょ」

「そ、そんなことないと思うけど…俺は普通に頑張ってるぞ」

「隠しても無駄だよ。君と一緒にいる2人にも、まだ本当の君を見せられていないよね。何かを恐れて、それなりのことをそれなりにやって問題なく済まそうとしてる。何が君をそうさせてしまったの?」

「……」

「君に、その過去を乗り越える機会を与えるよ。私の天啓、刹那はその一瞬の時間、相手に対してあらゆる攻撃、効果を与えることを可能にする。刹那を発動した瞬間に君を精神世界に飛ばす。その中では現実の時間はほぼ止まってるから、ゆっくりでいい。過去と決別して、強くなって戻ってきてほしい。頼んだよ。ノノ」

「待ってくれ…!俺は!」

「ごめん、今はまだ寝起きみたいな状態だけどこの覇王龍がほんとに覚醒してしまったら誰も止められないんだ。その前に倒すためには時間が無い。だからもう飛ばすね。…刹那、解放。」

女性の霊が囁くと一瞬のうちに知らない世界が周りに広がっていた。

「ちょ、ちょっと!あまりにも強引だな…どこだ?ここ」

辺りを見回すと閑静な住宅街、子供達の笑い声、そうか。俺は、この場所を知っている…。

「あぁ…やっぱりここが俺の分岐点だったのか」

少し歩いたところにある公園で遊んでいる少年がいた。小学生低学年程のその男の子は、幼少期のノノだった。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

幼い頃のは、厳しい親に育てられた。探索者の家庭では無かったけど、裕福な親故に、幼い頃から英才教育を受けさせられ、厳しい生活指導を受け、真っ当な子供の扱いはされてこなかった。しかし…裕福、英才教育という形だけの環境を妬まれ小学校に入学してからはなかなか友達が出来ずに悩んでいたんだ。

そんなある日、1人の女の子が僕に声をかけてくれたんだ

「ねぇ!きみもあそばない?」

その少女はクラスの中でも人気者で、ひとりぼっちの僕に話しかけるメリットなんて何もなかった。でも他の誰とも違う真っ直ぐな目で僕を見てくれたんだ

「なんでぼくにこえをかけるの?みんなぼくのこときらだから、きみもきらわれちゃうよ!」

ただ僕は、それまでのことが原因で誰かを信じられなくなっていて、その子のことですら、自分から離れるように接してしまったんだ。

…でも、その子は諦めなかった。1年が終わり2年生になる頃、その子が僕に初めて話しかけてから半年程が経った頃、初めは週に1回程度だった声かけも次第に頻度が増え、その頃には毎日のように声をかけて来るようになっていた

「ノノくん!あそびましょ?」

「しつこいよ!なんでそんなにあそびたいの!?」

ある日、ついに僕は面と向かって思っていた事をぶつけてしまった。小学2年なんてまだ子供なのに、なんであんなこと言ったんだろうな。でもその子はニコッと笑って手を差し伸べてきた

「だって、ともだちになりたいから!」

その笑顔は自分とは全く違う、どこまでも明るく元気で純粋な笑顔。

その笑顔に、心を打たれた。

家に帰っても習い事、家庭教師、作法などを押し付けられ、頑張っていい成績を出しても褒めることすらされない。無機質だった日々、学校に登校しても誰からも話しかけられず、こちらから寄っても逃げられる白黒の日々、それらをその笑顔は全て消し去り、僕に手を差し伸べてきた

「ぼくとともだちになったら、ほかのひとにきらわれるよ…?」

「それでもいいの!ノノくんとともだちになりたいの!」

「ぼくとともだちになってもなにもたのしいことないよ?」

「それはわたしがきめるの!つまらなくてもたのしくしてあげる!」

…全てを、その少女は受け止めてくれた。

「…もう、しらないからね!ぼくもうかえるから!」

「じゃあ、いっしょにかえりましょ!…私の名前はハナ!よろしくね!」

その日、初めて2人で帰った。人生で初めての友達が出来た瞬間だった
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