上 下
2 / 158
第1章

1 出会い➁

しおりを挟む
「優子さんって、彼氏いるんですか?」
 会場はカジュアルなイタリアンレストラン。
 若い女の子達の集まりだから勝手にワイワイ盛り上がってくれるだろうと、傍聴気分で出掛けたのだけれど、なぜか真ん中の席に座らされ、五人の女の子にぐるりと囲まれてしまった。
 中でもこの"彼氏"というワードが飛び出した時は、みんなの視線が一斉にこちらに集中した。

 質問してきたのは向かいに座っている、愛美ちゃんと同い年の桜井実華子さん。
 パーマヘアをハーフアップにして、ぱっちり大きな目が印象的なかわいい子だ。
「彼氏はいないです」
 わざとにっこり作り笑いをすると、「え~っなんで!?」「意外」「ウソ~」という反応が驚きの表情とともに返ってきた。
「イヤイヤ、いないって言っても、今いないってだけで優子さんいつもモテモテでひっきりなし……」
「あいみちゃん、余計なこと言わない」
 私は隣の席の愛美ちゃんの腕をつまんだ。
「イタイ」
「えっ、じゃあ今募集中なんですか? うちの先輩にも優子さんのファンがいるんですけど~」
「あー、うん、募集もしてないかな……」
「えっどうしてですか?」
「う~ん、どうして。どうしてって……」
「何か嫌な別れ方したとか?」
「忘れられない人がいるとかですか?」
 いくつものキラキラした目がこちらを向く。

 正直、自分の過去のことを明け透けに話すのは苦手だ。
 私はけっこう多くの恋愛を経験してきた部類に入るらしい。
 たしかにあまり間が空いたこともなく、これまで両手分くらいの男性と恋愛してきた。
 周りの人達に聞くと、二、三人目で結婚していたり、何年も恋愛をしていなかったりで、私みたいな女は"とっかえひっかえ"と言われるケースらしいのだ。
 もちろん、こちらはそんなつもりはなくて、一人一人にちゃんと誠実に向き合ってきたし、それなりの恋愛を重ねてきたと思っている。
 そして決してモテた訳ではなく、選り好みせずいろんな人と恋愛してみたというだけなのだ。正直、なんとなく側にいたからつき合い始めたような恋愛もいくつかあった。
 で、そうして恋愛を重ねた結果、恋人も結局はただの他人だなという結論にたどり着き、「もう別に要らないや、面倒だし」となったのがここ一年ほどの話。
 でもそれを言うと、なぜか決まって怒られるのだった。

 結局その場はなんとなく答えを濁して、話題が他の子に移るのを待った。というか無理やり彼女らに振って、ごまかした。
 恋愛の話題に目を輝かせて、希望に満ちた彼女らを、純粋に愛しいと思う。
 どうか私のようにならず、素敵なパートナーと出逢ってほしいと心から思う。
しおりを挟む

処理中です...