上 下
5 / 158
第1章

2 一目惚れ②

しおりを挟む
 優子さんは長い黒髪でパーマをかけていて、清楚さと大人っぽさを兼ね備えていた。
 化粧も濃くなくて若作りしている感じもなく、それでも大学の派手な女子よりもよっぽど綺麗だった。
 でも滲み出るオーラ? みたいなもの? は、たしかに、同世代にはない、穏やかさというか……上品な感じ? うまく言えないけどとにかく、俺の周りにはいないタイプだった。
 話し方も落ち着いていて、言葉使いも綺麗だったし、声も可愛くて、丁寧語とタメ口が混ざってるのがすごく可愛かった。
 背は姉ちゃんより低くて、一七〇センチしかない俺をいい感じで見上げてくれて、そのまま笑った顔もすごく可愛かった。

 ……というようなことを、あの夜から何度も何度も思い返しながら週末を過ごした。

 月曜の夜、夕食と風呂を終えて部屋でゴロゴロしながら漫画を読んでいたら、姉ちゃんが入ってきた。
「優子さんが、弟さんイケメンだねって言ってたよ」
「えっ、マジで!?」
 俺は反射的に起き上がった。
「まぁ、あんた顔だけが取り柄だしね」
「うるさいわ」
「でもねぇー」
 はぁ、とため息をついて、俺の肩にポンと手を置き、
「全っ然、脈なしだわ。残念だったね」
 そう言って同情の眼差しを向けた。
「そんじゃ」
「いやちょっと待て、お前優子さんに何言ったんだよ!?」

 まさか「弟が一目惚れしちゃったらしくてェ~」とか言っちゃってないだろうな!?
 こいつなら言いそうだ。
 そしたらもう、顔合わせらんない!

「もしかして意外と好感触かなと思って、"弟も優子さん綺麗って言ってましたよ~"って言ったらさ、"あはは、いい子だね"だって。あれは完全に子供扱いしてたね」
「そ、そう……」

 子供扱い。
 それはなかなかショックな一言だった。

 三十歳から見たら十八ってどう映るんだろう。
 そんなに子供なのかな?
 逆に俺から見て十二歳年下だと……六歳じゃん。ヤベェ。
 えっ待って、俺が小学生の頃には優子さんもう大人だったの? マジか。
 たしかに、たしかにその差はデカすぎるかもしれない……。

「ま、そういうことだから、諦めな。短い恋だったな」
 そう吐き捨てて部屋を出る姉ちゃんに、お前はいったいなんなんだよと心の中で大声でツッコんだ。
しおりを挟む

処理中です...