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第6章
3 不都合②
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「違うんですか?」
「全然違うよ~。まず、顔だけが取り柄じゃないし。素直で真っすぐで、本当にいい子なんだから。愛美ちゃんもそこは認めてたし。漫画は好きみたいだけど、普通にデートでいろんなとこ行くし、漫画だけしか興味ないわけじゃないよ。あとオタク感は一切ない」
「えー。話と違う。仕事は? まさか無職じゃないでしょうね? 優子さんが養ってるんじゃないでしょうね!?」
「なんでよ。ウェブコンサルの仕事してるよ」
「え~。じゃあ、顔よし、性格よし、収入よしで、優良物件じゃないですか。え、いくつ? 二十代って言ってましたよね」
「今二七かな? もうすぐ誕生日来るけど」
「めっちゃ良いじゃないですか。さすが優子さん……!」
「良すぎるのよ、むしろ。何も私みたいなおばちゃんじゃなくても良さそうなのに……。実華ちゃん、その子と会ったらほんとビックリするよ。私とは不釣り合い過ぎて……」
「何言ってるんですか! だって向こうから言い寄られたんでしたよね!? なら自信持たなきゃ!」
「そうねぇ……」
そうありたいと思ってはいる。
でも、亮弥くんと二人でいる時は気にならなくても、第三者が絡むと、どう見られるか気になってしまうものなのだ。
「でも、そっか~。愛美の弟だったんだ。それならまあ、しょーがないか。良かった、相手が誰かわかって」
ご機嫌になった実華ちゃんを見て、私はようやく安心してコーヒーを飲んだ。すると、実華ちゃんもつられてカップを口につけた。
「でも、それならどうして私に言えなかったんですか?」
「それなのよ」
誤解がとけてすっかり油断してしまっていたことに気づく。
よかった、質問してもらえて。相手が愛美ちゃんの弟だとバレてしまった以上、そこをキチンと話しておかないといけないのだ。
「あのね、実華ちゃん」
「なんですか?」
「実華ちゃん、私に彼氏ができたら紹介してって言ってたじゃない? 相手が社内の人ならまだ良かったんだけど、愛美ちゃんの弟となると、会わせられないのよ」
「なんでですか? むしろ愛美も含めて皆で会えばいいじゃないですか」
「そしたらどうなると思う?」
「え?」
「愛美ちゃん、大した接点もない実華ちゃんと私がどうしてそんなに仲良しなんだろう、って思うでしょ」
「あっ……」
「そういうこと。実華ちゃんとのことが、愛美ちゃんや弟さんに知られると困るのよ。私の元カレが社内にいる上に奥さんと仲良しだなんて知ったら、彼氏としてはいい気はしないだろうし、最悪正樹にも実華ちゃんと私の交流がバレちゃうでしょ。そしたら正樹と実華ちゃんもギクシャクしちゃうと思うし……」
「そうですね……」
実華ちゃんは目を逸らしながら、ちょっと口元を緩ませた。
なんか変な反応だなと思っていると、
「いや、実はですね……。正樹は、私と優子さんのこと、もう知ってるんです……」
「ええー!? 言っちゃったの?」
「だって、私としては、優子さんが正樹と会ったり話したりしないでくれればそれで良かったから、もう、言っちゃったほうが気が楽だと思って。正樹にも優子さんとは仕事以外の接触禁止って言ってあるし」
まあ、そう言われると、そうかもしれない。
黙ってて二人が気まずくなるよりは、話して了承し合えるならその方が当然いいわけだし。
正樹が知ったことで私に影響があるとしたら、何でもペラペラ喋ってると思われないかくらいだけど、まあ、正樹の不利益になることは言ってないし、それをどう思おうと彼の自由だ。
交流を止められてないということは、大丈夫なのだろう。多分。
「でも、愛美とか他の人には何も言ってませんよ! 正樹が優子さんの元カレって社内に知れたら、私もちょっと嫌ですし……」
「それは、そうだよね……。まあいいよ、正樹のことは。実華ちゃん達の間で問題ないなら私は構わないし。ただね、あの子のことは傷つけたくないから……」
「うんうん、わかりますよ!」
「もちろん、ずっと黙ってるのがいいことなのかっていう疑問はあるんだけど……、とりあえず今はまだ、秘密にしておきたいの」
「わかりました。誰にも言いません! ま、愛美の弟なら結婚式とかで見られるかもしれないし! でも、もし彼氏に話したくなったら言ってくださいね。その時は私も、愛美にくらいはバレる覚悟しますから」
「うん、わかった。ありがとう」
「イヤ、こっちこそ、勝手に正樹に話してスミマセンでした……」
「いいよ、もう。むしろちょっと気が楽になったかも」
「ほんとですか?」
「うん」
そう言うと、実華ちゃんは安心したように笑顔を見せた。
「実華ちゃんのほうは、変わりない?」
「そうですね、ふふ、実は……」
「え、どうしたの?」
実華ちゃんははにかみながら、少し考え込むように視線を落とした。
「実は、まだわからないんですけど、もしかしたら妊娠したかも……」
「えっ! ほんと!?」
「まだ、生理が遅れてるだけで、検査薬も試してないんですけど……、今週末まで来なかったら、検査薬買ってみようと思って」
「すごい、良かったね……!」
「まだわかんないですけどね、そうだといいなと思います」
「うん、そうだね。正樹にはもう言ったの?」
「ぬか喜びさせてもいけないし、検査薬で陽性が出たら、と思ってるんですけど……」
「そっか、それがいいかもね。わかったらまた教えて」
「はい!」
実華ちゃんの、妙に慎ましやかな話し方を見て、幸せなんだなと思った。
子供が出来たかもしれない、その気持ちが、実華ちゃんをこんなに幸せそうな顔にするんだな。
正樹と実華ちゃんが、無事にパパとママになれますように、と私は心の中でそっと祈った。
「全然違うよ~。まず、顔だけが取り柄じゃないし。素直で真っすぐで、本当にいい子なんだから。愛美ちゃんもそこは認めてたし。漫画は好きみたいだけど、普通にデートでいろんなとこ行くし、漫画だけしか興味ないわけじゃないよ。あとオタク感は一切ない」
「えー。話と違う。仕事は? まさか無職じゃないでしょうね? 優子さんが養ってるんじゃないでしょうね!?」
「なんでよ。ウェブコンサルの仕事してるよ」
「え~。じゃあ、顔よし、性格よし、収入よしで、優良物件じゃないですか。え、いくつ? 二十代って言ってましたよね」
「今二七かな? もうすぐ誕生日来るけど」
「めっちゃ良いじゃないですか。さすが優子さん……!」
「良すぎるのよ、むしろ。何も私みたいなおばちゃんじゃなくても良さそうなのに……。実華ちゃん、その子と会ったらほんとビックリするよ。私とは不釣り合い過ぎて……」
「何言ってるんですか! だって向こうから言い寄られたんでしたよね!? なら自信持たなきゃ!」
「そうねぇ……」
そうありたいと思ってはいる。
でも、亮弥くんと二人でいる時は気にならなくても、第三者が絡むと、どう見られるか気になってしまうものなのだ。
「でも、そっか~。愛美の弟だったんだ。それならまあ、しょーがないか。良かった、相手が誰かわかって」
ご機嫌になった実華ちゃんを見て、私はようやく安心してコーヒーを飲んだ。すると、実華ちゃんもつられてカップを口につけた。
「でも、それならどうして私に言えなかったんですか?」
「それなのよ」
誤解がとけてすっかり油断してしまっていたことに気づく。
よかった、質問してもらえて。相手が愛美ちゃんの弟だとバレてしまった以上、そこをキチンと話しておかないといけないのだ。
「あのね、実華ちゃん」
「なんですか?」
「実華ちゃん、私に彼氏ができたら紹介してって言ってたじゃない? 相手が社内の人ならまだ良かったんだけど、愛美ちゃんの弟となると、会わせられないのよ」
「なんでですか? むしろ愛美も含めて皆で会えばいいじゃないですか」
「そしたらどうなると思う?」
「え?」
「愛美ちゃん、大した接点もない実華ちゃんと私がどうしてそんなに仲良しなんだろう、って思うでしょ」
「あっ……」
「そういうこと。実華ちゃんとのことが、愛美ちゃんや弟さんに知られると困るのよ。私の元カレが社内にいる上に奥さんと仲良しだなんて知ったら、彼氏としてはいい気はしないだろうし、最悪正樹にも実華ちゃんと私の交流がバレちゃうでしょ。そしたら正樹と実華ちゃんもギクシャクしちゃうと思うし……」
「そうですね……」
実華ちゃんは目を逸らしながら、ちょっと口元を緩ませた。
なんか変な反応だなと思っていると、
「いや、実はですね……。正樹は、私と優子さんのこと、もう知ってるんです……」
「ええー!? 言っちゃったの?」
「だって、私としては、優子さんが正樹と会ったり話したりしないでくれればそれで良かったから、もう、言っちゃったほうが気が楽だと思って。正樹にも優子さんとは仕事以外の接触禁止って言ってあるし」
まあ、そう言われると、そうかもしれない。
黙ってて二人が気まずくなるよりは、話して了承し合えるならその方が当然いいわけだし。
正樹が知ったことで私に影響があるとしたら、何でもペラペラ喋ってると思われないかくらいだけど、まあ、正樹の不利益になることは言ってないし、それをどう思おうと彼の自由だ。
交流を止められてないということは、大丈夫なのだろう。多分。
「でも、愛美とか他の人には何も言ってませんよ! 正樹が優子さんの元カレって社内に知れたら、私もちょっと嫌ですし……」
「それは、そうだよね……。まあいいよ、正樹のことは。実華ちゃん達の間で問題ないなら私は構わないし。ただね、あの子のことは傷つけたくないから……」
「うんうん、わかりますよ!」
「もちろん、ずっと黙ってるのがいいことなのかっていう疑問はあるんだけど……、とりあえず今はまだ、秘密にしておきたいの」
「わかりました。誰にも言いません! ま、愛美の弟なら結婚式とかで見られるかもしれないし! でも、もし彼氏に話したくなったら言ってくださいね。その時は私も、愛美にくらいはバレる覚悟しますから」
「うん、わかった。ありがとう」
「イヤ、こっちこそ、勝手に正樹に話してスミマセンでした……」
「いいよ、もう。むしろちょっと気が楽になったかも」
「ほんとですか?」
「うん」
そう言うと、実華ちゃんは安心したように笑顔を見せた。
「実華ちゃんのほうは、変わりない?」
「そうですね、ふふ、実は……」
「え、どうしたの?」
実華ちゃんははにかみながら、少し考え込むように視線を落とした。
「実は、まだわからないんですけど、もしかしたら妊娠したかも……」
「えっ! ほんと!?」
「まだ、生理が遅れてるだけで、検査薬も試してないんですけど……、今週末まで来なかったら、検査薬買ってみようと思って」
「すごい、良かったね……!」
「まだわかんないですけどね、そうだといいなと思います」
「うん、そうだね。正樹にはもう言ったの?」
「ぬか喜びさせてもいけないし、検査薬で陽性が出たら、と思ってるんですけど……」
「そっか、それがいいかもね。わかったらまた教えて」
「はい!」
実華ちゃんの、妙に慎ましやかな話し方を見て、幸せなんだなと思った。
子供が出来たかもしれない、その気持ちが、実華ちゃんをこんなに幸せそうな顔にするんだな。
正樹と実華ちゃんが、無事にパパとママになれますように、と私は心の中でそっと祈った。
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