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第9章
2 元カレの人格④
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「あ、じゃあもう一つ理由言っとこうかな。優子はね、優しすぎて、相手のために何でも融通しちゃうし、自分が嫌な思いしても我慢しちゃうんだよね。だからこっちも気づけなかったりして、知らず知らず無理させてたのかなぁって、後になって反省しちゃってさ。俺もけっこう鈍いほうだから、言われなきゃわからないとこあるし。でも実華子は、嫌なことは嫌、したくないことはしたくない、気になることは気になるって、全部言ってくれるの。だから、安心して一緒にいられるっていうか……。見えてる安心? みたいなのがあるんだよね」
「見えてる安心……」
「同じことを優子に求めても、それは無理だろうし、まあ、人によっては実華子みたいなハッキリした子は苦手だったりもするのかもしれないけど、俺は実華子タイプが合ってたみたい。そういう意味でも、やっぱり実華子と出会えて良かったなって思ってる。だから、優子に戻ることはないよ」
「なるほど」
そうか、優子さんが必ずしも全ての人と相性抜群なわけじゃないんだ。
あんまりオールマイティー過ぎるから、そんな当たり前の可能性すら忘れてたけど……。
「あー……、でも俺、本当に何も考えないで一緒にいるかもしれないです。優子さんが幸せそうに笑ってるから、それだけで安心しちゃって……。でも、けっこうちゃんと言ってくれますよ。これは苦手とか、できればこうしたいとか」
「えっ、ほんと?」
「はい。わりと最初から……つき合う前からそうですね。俺もできるだけ優子さんの意向を優先するようにしてるし……、あ、今回のことは、お願いって押し切っちゃったけど……」
「そうなんだ……」
正樹さんは感嘆するように言った。
「だから優子は君と居ようと思ったのかも。優子が本心を見せられる相手が、君だったのかもね」
「な、なのかな……」
「なんか、負けた理由がわかってきた」
「負けって、そんな……」
「いやいや、俺、君と真逆で、今日は負けに来たからね。だって俺は優子にキッチリと振られた身だし、君は今優子に愛されてる人だし、もう最初から負け戦だもん。だから最初にちょっと悪あがきしたけど、ゴメンね。そういう根性だから俺、優子に振られたんだな」
そう言って笑う正樹さんを見て、俺もつい吹き出してしまった。
「なんすか、それ」
「あ! やっと笑ってくれた!」
「はぁ?」
いきなり少女漫画みたいなことを言われて、俺は更に笑ってしまった。
「いや~、笑顔もすごく綺麗だね。これは男でもやられちゃうな」
「やめてください、気持ち悪いこと言うの」
「ごめんごめん。でも亮弥くん、もっと自信持っていいと思うよ。いくら顔が良くてもね、中身がマズイとそれがにじみ出ちゃうものなの。でも君は、とても目が澄んでいるし、笑顔が柔らかい。それは君の内面も含めた、財産だよ。顔だけなんてこと、絶対に、無いから」
確信を帯びた穏やかな声に、グッと胸が詰まる思いがした。
この人はちゃんと中身を見てくれた―そう感じて、不覚にも涙が込み上げそうになるのを、俺は喉に力を入れてこらえた。
そういえば、一番最初にデートした時、優子さんは俺を顔だけじゃないと思ってくれた。
自信を持っていいって言ってくれた。
記憶の奥底の宝箱が開いたみたいに、そのことが頭の中を走り抜けた。
「優子もそれはわかってるよ。絶対わかってる。だから君を好きになったんだよ。ね、自信持ってね」
正樹さんは俺の肩に手を回して、優しくさすった。
その温かさに、本当に涙が零れそうになって、俺はそっぽを向いた。
「そんなの、言われなくてもわかってます……」
「アハハ。いいね、ホントかわいいな」
ダメだこの人。ベタベタに包容力がある。
俺みたいな、わざわざ元カレに会いに来るようなめんどくさいやつを、やっぱり尊重してくれて、ちゃんと向き合ってくれて、認めてくれた。
マジで優子さん、なんでこんな人を手放したんだろう。
絶対お似合いなのに。
きっと幸せになれたはずなのに。
やっぱり聞いておこうか。
この際だから、聞いてしまおうか。
「正樹さん、あの……」
「なに?」
「これは、もしかしたら失礼にあたるかもしれないと思って、聞いていいかすごく迷ったんですけど……」
「いいよ、何?」
俺はちょっと唇を噛んで言い淀んだ。
でも、本当に最初で最後のチャンスかもしれない。聞かなければ。
「……二人が別れた原因って、何だったんですか? 優子さん、正樹さんに何かを言われたことがキッカケで、気持ちを戻せなくなったって言ってました。何を言ったのか、覚えてますか?」
「え……」
「あの、別に、失敗を掘り返そうってワケじゃなくて……ただ、もし俺も同じことをしてしまったらと思うと、気になって……」
膝の上で、両手を握りしめた。
原因はお前にあると突きつけてるようで、心が痛んだ。
今度こそ本当に、気分を害されてしまっても不思議じゃない。
でも、聞いておきたい。
俺は思い切って顔を上げ、驚いたような正樹さんの瞳を見据えながら、ダメ押しの一言を投げた。
「正樹さんは優子さんに、いったい何を言ってしまったんですか――?」
「見えてる安心……」
「同じことを優子に求めても、それは無理だろうし、まあ、人によっては実華子みたいなハッキリした子は苦手だったりもするのかもしれないけど、俺は実華子タイプが合ってたみたい。そういう意味でも、やっぱり実華子と出会えて良かったなって思ってる。だから、優子に戻ることはないよ」
「なるほど」
そうか、優子さんが必ずしも全ての人と相性抜群なわけじゃないんだ。
あんまりオールマイティー過ぎるから、そんな当たり前の可能性すら忘れてたけど……。
「あー……、でも俺、本当に何も考えないで一緒にいるかもしれないです。優子さんが幸せそうに笑ってるから、それだけで安心しちゃって……。でも、けっこうちゃんと言ってくれますよ。これは苦手とか、できればこうしたいとか」
「えっ、ほんと?」
「はい。わりと最初から……つき合う前からそうですね。俺もできるだけ優子さんの意向を優先するようにしてるし……、あ、今回のことは、お願いって押し切っちゃったけど……」
「そうなんだ……」
正樹さんは感嘆するように言った。
「だから優子は君と居ようと思ったのかも。優子が本心を見せられる相手が、君だったのかもね」
「な、なのかな……」
「なんか、負けた理由がわかってきた」
「負けって、そんな……」
「いやいや、俺、君と真逆で、今日は負けに来たからね。だって俺は優子にキッチリと振られた身だし、君は今優子に愛されてる人だし、もう最初から負け戦だもん。だから最初にちょっと悪あがきしたけど、ゴメンね。そういう根性だから俺、優子に振られたんだな」
そう言って笑う正樹さんを見て、俺もつい吹き出してしまった。
「なんすか、それ」
「あ! やっと笑ってくれた!」
「はぁ?」
いきなり少女漫画みたいなことを言われて、俺は更に笑ってしまった。
「いや~、笑顔もすごく綺麗だね。これは男でもやられちゃうな」
「やめてください、気持ち悪いこと言うの」
「ごめんごめん。でも亮弥くん、もっと自信持っていいと思うよ。いくら顔が良くてもね、中身がマズイとそれがにじみ出ちゃうものなの。でも君は、とても目が澄んでいるし、笑顔が柔らかい。それは君の内面も含めた、財産だよ。顔だけなんてこと、絶対に、無いから」
確信を帯びた穏やかな声に、グッと胸が詰まる思いがした。
この人はちゃんと中身を見てくれた―そう感じて、不覚にも涙が込み上げそうになるのを、俺は喉に力を入れてこらえた。
そういえば、一番最初にデートした時、優子さんは俺を顔だけじゃないと思ってくれた。
自信を持っていいって言ってくれた。
記憶の奥底の宝箱が開いたみたいに、そのことが頭の中を走り抜けた。
「優子もそれはわかってるよ。絶対わかってる。だから君を好きになったんだよ。ね、自信持ってね」
正樹さんは俺の肩に手を回して、優しくさすった。
その温かさに、本当に涙が零れそうになって、俺はそっぽを向いた。
「そんなの、言われなくてもわかってます……」
「アハハ。いいね、ホントかわいいな」
ダメだこの人。ベタベタに包容力がある。
俺みたいな、わざわざ元カレに会いに来るようなめんどくさいやつを、やっぱり尊重してくれて、ちゃんと向き合ってくれて、認めてくれた。
マジで優子さん、なんでこんな人を手放したんだろう。
絶対お似合いなのに。
きっと幸せになれたはずなのに。
やっぱり聞いておこうか。
この際だから、聞いてしまおうか。
「正樹さん、あの……」
「なに?」
「これは、もしかしたら失礼にあたるかもしれないと思って、聞いていいかすごく迷ったんですけど……」
「いいよ、何?」
俺はちょっと唇を噛んで言い淀んだ。
でも、本当に最初で最後のチャンスかもしれない。聞かなければ。
「……二人が別れた原因って、何だったんですか? 優子さん、正樹さんに何かを言われたことがキッカケで、気持ちを戻せなくなったって言ってました。何を言ったのか、覚えてますか?」
「え……」
「あの、別に、失敗を掘り返そうってワケじゃなくて……ただ、もし俺も同じことをしてしまったらと思うと、気になって……」
膝の上で、両手を握りしめた。
原因はお前にあると突きつけてるようで、心が痛んだ。
今度こそ本当に、気分を害されてしまっても不思議じゃない。
でも、聞いておきたい。
俺は思い切って顔を上げ、驚いたような正樹さんの瞳を見据えながら、ダメ押しの一言を投げた。
「正樹さんは優子さんに、いったい何を言ってしまったんですか――?」
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