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第9章
3 通じ合えること①
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「はいはーい。あ、終わった? あー、じゃあ、私達がいるお店に来てよ。URL送る。はーい。……正樹達、話終わったみたいです」
実華ちゃんがスマホを操作しながら言った。
思ったより長かった。
話が弾んだのか、話が進まなかったのかわからないけど、いずれにしても、これだけ時間があったなら、それなりに聞きたいことは聞けただろう。
「優子さん、二人が来る前に、私も確認したいことがあるんですけど」
「何?」
「優子さんにとって、正樹ってどんな存在なんですか? こうして会っても、好きって気持ちは蘇らないんですか?」
「え……」
「二人が来ちゃうので、手短にお願いします」
それならもっと早く聞けば良かったのに、と私は思ったけど、実華ちゃんの真剣な表情から、聞くのに勇気が要ったらしいことをなんとなく察した。
「それじゃ、手短に答えるね。正樹は、昔大好きだった人で、今は実華ちゃんの旦那さん。顔合わせたら、懐かしいなとは思うけど、それだけかな」
「じゃあ、もし正樹が、私と離婚するから結婚してほしいって言ったら、どうします?」
「ないと思うけど……」
「わかんないじゃないですか」
「うーん、でももし正樹がそんなこと言ったら、渾身の力で頬をひっぱたく」
「えっ」
実華ちゃんはギョッとして顔を引きつらせた。
「優子さんが暴力を……?」
「だって、そんなくだらないこと考えて実華ちゃんを裏切ったら、許せるわけないじゃない」
「なんか思ってた答えと違う……」
「え、だって、他にどんな答えがある?」
「少しは迷うかも、とか、私はちゃんと断るよ、とか」
「そんな生易しいこと言ってられないよ。ひっぱたいて、一生口聞かない」
「優子さん……」
それに、私には亮弥くんがいる。
一緒にいて幸せだと思える人がいるのに、他の男性に心が動くわけがない。
実華ちゃんも亮弥くんもどうしてそれに気づかないのか、不思議で仕方ない。
「それじゃ、私、もう考えないことにします。もし正樹が裏切る時が来ても、優子さんは裏切らないって信じます!」
「いやいや、先に正樹を信じてあげて……」
「アハハ、そうですね。正樹が裏切るはずないですもんね。正直、いつまでもそんな心配してるのも嫌だったんですよね~。いっそ正樹と優子さんが同じ部署とかになって、毎日顔合わせても何も起こらないみたいな状態になったほうが、安心できるのかなとか思っちゃったり……」
「それはまた、荒療治だね」
「やー、でも、不安が実現しないことを知るって、大事だと思うんですよ。起こるかもしれないって思ってるから、いつまでも不安なわけで」
「たしかに……」
実華ちゃんらしい考え方な気がする。
でもそのとおりだ。
だから亮弥くんも正樹と会うという決断をしたんだろう。不安を長引かせないために。
あんまり不安になることなく生きてきたから、そんな解決法があるなんて考えたことがなかった。
まだまだ知らないことや、教えられることがあるものなんだな。
「あ……、それじゃ実華ちゃんてきには、もし私が正樹と同じ部署になったとしても大丈夫なの? 私、ずっとそれが気がかりで……」
「は? そんなこと優子さんが気にしても仕方ないじゃないですか」
「仕方ない?」
「だぁって、人事のことは私達にはどうにもできないですもん。なるようにしかならないですよ」
目が覚めた思いだった。
私は自分が希望しさえしなければ、異動は避けられると思い込んでいた。
実際、希望しなければ動かしてもらえないし。
でも、普通は、希望しなくてもトップダウンで決まるのだ。
私が正樹の部署に行ったとしても、それは会社が決めたことで仕方のないこと。そう受け止めてもらえるんだ。
そう思うと、ふっと気が楽になった。
実華ちゃんがスマホを操作しながら言った。
思ったより長かった。
話が弾んだのか、話が進まなかったのかわからないけど、いずれにしても、これだけ時間があったなら、それなりに聞きたいことは聞けただろう。
「優子さん、二人が来る前に、私も確認したいことがあるんですけど」
「何?」
「優子さんにとって、正樹ってどんな存在なんですか? こうして会っても、好きって気持ちは蘇らないんですか?」
「え……」
「二人が来ちゃうので、手短にお願いします」
それならもっと早く聞けば良かったのに、と私は思ったけど、実華ちゃんの真剣な表情から、聞くのに勇気が要ったらしいことをなんとなく察した。
「それじゃ、手短に答えるね。正樹は、昔大好きだった人で、今は実華ちゃんの旦那さん。顔合わせたら、懐かしいなとは思うけど、それだけかな」
「じゃあ、もし正樹が、私と離婚するから結婚してほしいって言ったら、どうします?」
「ないと思うけど……」
「わかんないじゃないですか」
「うーん、でももし正樹がそんなこと言ったら、渾身の力で頬をひっぱたく」
「えっ」
実華ちゃんはギョッとして顔を引きつらせた。
「優子さんが暴力を……?」
「だって、そんなくだらないこと考えて実華ちゃんを裏切ったら、許せるわけないじゃない」
「なんか思ってた答えと違う……」
「え、だって、他にどんな答えがある?」
「少しは迷うかも、とか、私はちゃんと断るよ、とか」
「そんな生易しいこと言ってられないよ。ひっぱたいて、一生口聞かない」
「優子さん……」
それに、私には亮弥くんがいる。
一緒にいて幸せだと思える人がいるのに、他の男性に心が動くわけがない。
実華ちゃんも亮弥くんもどうしてそれに気づかないのか、不思議で仕方ない。
「それじゃ、私、もう考えないことにします。もし正樹が裏切る時が来ても、優子さんは裏切らないって信じます!」
「いやいや、先に正樹を信じてあげて……」
「アハハ、そうですね。正樹が裏切るはずないですもんね。正直、いつまでもそんな心配してるのも嫌だったんですよね~。いっそ正樹と優子さんが同じ部署とかになって、毎日顔合わせても何も起こらないみたいな状態になったほうが、安心できるのかなとか思っちゃったり……」
「それはまた、荒療治だね」
「やー、でも、不安が実現しないことを知るって、大事だと思うんですよ。起こるかもしれないって思ってるから、いつまでも不安なわけで」
「たしかに……」
実華ちゃんらしい考え方な気がする。
でもそのとおりだ。
だから亮弥くんも正樹と会うという決断をしたんだろう。不安を長引かせないために。
あんまり不安になることなく生きてきたから、そんな解決法があるなんて考えたことがなかった。
まだまだ知らないことや、教えられることがあるものなんだな。
「あ……、それじゃ実華ちゃんてきには、もし私が正樹と同じ部署になったとしても大丈夫なの? 私、ずっとそれが気がかりで……」
「は? そんなこと優子さんが気にしても仕方ないじゃないですか」
「仕方ない?」
「だぁって、人事のことは私達にはどうにもできないですもん。なるようにしかならないですよ」
目が覚めた思いだった。
私は自分が希望しさえしなければ、異動は避けられると思い込んでいた。
実際、希望しなければ動かしてもらえないし。
でも、普通は、希望しなくてもトップダウンで決まるのだ。
私が正樹の部署に行ったとしても、それは会社が決めたことで仕方のないこと。そう受け止めてもらえるんだ。
そう思うと、ふっと気が楽になった。
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