プリンセス王子と虹色騎士団

美作美琴

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序章 16歳のカミングアウト

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 ここは大陸の中央にあるエターニア王国。

その王城の前の大広場…そこには国民が大挙として押し寄せていた。
いや国民だけではない、近隣の国々からも大勢の人々が訪れているのだ。
この人だかりの原因は…この王国の国王シャルル・ド・エターニア3世の一人娘、シャルロット・エターニアの16歳の誕生日を祝した式典が開かれるからである。

シャルロット姫と言えば近隣の国々はもとより大陸から海を渡った遠方の国々にまでその名が知れ渡っている人物だ。
透き通る様に白い肌、顔立ちは見眼麗しく大き目な瞳は湖の様に蒼く澄んでおり小さな唇は花の蕾の様に可憐であった。
美しいブロンドの髪は先端にいくほど桃色にグラデーションが掛かった神秘的なもので、これは染めたりしていない天然の色だ。
性格は明るく天真爛漫で人当たりがよく身分に捉われず誰とでも気さくに話し、時にお城を抜け出して街に繰り出すなどそのギャップも魅力なのか国民からの人気もすこぶる高かった。
当然それだけの姫君を各国の王族や貴族たちが放っておくはずも無く、引っ切り無しに求婚の話がきていたがシャルロット姫はそのすべてを丁重に断っていた。
この人気の姫が今日、この誕生日式典で何か重大な発表をすると言う噂が流れた。
その重大発表を聞くためだけに数万人の人間が集まり、姫の登場を今か今かと待ち構えているのだった。
暫くののち観衆がどっと沸いた、城のテラスにピンクのドレスを着たシャルロット姫が満面の笑顔で手を振りながら男女二人の騎士を連れ立って現れた。

「姫様!!シャルロット姫様~~~!!!」
「お誕生日おめでとうございます!!姫様ーーーー!!!」
「キャーーーーッ!!姫様素敵ーーーー!!!」
「姫姉様----!!」

大歓声が瞬く間に大広場中の観衆に拡がっていく。
老若男女の大歓声、どれだけシャルロット姫が王国中の国民に愛されているのが分かるだろう。
程なくして姫がテラスの中心に立ち、右に青い軍装の男の騎士、左に赤いメイド服の女の騎士が立った。
姫が観衆に対して両手の平を下に向けると歓声が徐々に治まっていく。
そしてシャルロット姫はおもむろに口を開いた。

「愛すべき国民の皆さん、遠方から来てくださった皆さん、今日はわたくしの16歳の誕生日にお集まりくださりありがとうございます」

スカートを両手で掴み上げお辞儀をするシャルロット姫。
優雅で煌びやかなその姿に広場に居る全員がその美しい姿に目を奪われ、ため息を吐く者すらいた。

「我が国では子供は16歳を迎えると大人の仲間入りなのは皆さんご存知の事と思います…わたくしもそのしきたりに則り大人に成るにあたって重大な発表をしなければなりません…」

静まり返る大広場。
すでに広まっていた姫の重大発表の噂もあり観衆たちは固唾を呑んで見守っている。

「おいお前…本当に発表するつもりなのか?」

姫の右側に立つ青の騎士、『蒼き閃光』の二つ名を持つランスの使い手…
ハインツ・サザーランドが顔を正面に据えたまま横目で姫を見やりつつ小声で話し掛ける。

「もちろん、これは僕が生まれた時から決まっていた事だからね…」

シャルロット姫はハインツにいたずらっぽい笑顔でウインクして見せた。
その仕草に赤面するハインツ…慌てて視線を姫から逸らす。

「シャル様は一度言い出したらきかないのは昔から…兄上だって知っているはずだろう…もう諦めて覚悟を決めろ…」

左側に立つ赤いメイド衣装の女騎士、『灼熱の暴風』の異名を持つレイピア使い…グロリア・サザーランドが深いため息を一つ吐いた。
その表情には多分に諦めと疲労の色が滲み出ていた。
名前からお察しの通りハインツとグロリアは兄妹である。
しかもこの二人はシャルロット姫とは幼少時から兄弟同然に育てられた、いわば幼馴染みなのだ。
先程のハインツの姫に対しての無礼な物言いも彼らにだけ許された特権と言っていい。
二人の賛同を得、満面の笑みを浮かべた後、姫は大きく深呼吸した後こう叫んだ。

「わたくし…いいえ、僕…実は男の子でしたーーーーー!!!
国民のみんな~~~今まで騙していてごめーーーーん!!!」

「「「「えええええええええええ!!!!!!!????」」」」

まるではるか離れた隣国にまで響くのではなかろうかと言う程の大音量でどよめきが起こる。
それも無理もない…美しさに於いて大陸随一とまで謳われた可憐な姫君がまさか男であったとは…嘘だ、信じられない等の声もそこかしこから聞こえてくる。

「え~~?信じられない?もう…しょうがないな~~~」

シャルロット姫改めシャルロット王子は屈みこみスカートの裾を両手で掴んだ。
そしておもむろに立ち上がろうとする。
まさかこの体勢は…スカートをまくり上げ男性のシンボルを見せ付けようと言うのか?

「やめろ!!この馬鹿!!恥を知れ!!」
「シャル様!!それだけは!!それだけは成りません!!」

慌てて手持ちの武器を捨てハインツとグロリアがシャルロットを両側から羽交い絞めにする。

「え~~?いいじゃない手っ取り早く証明出来て…まさに説明不要!!」
「「いい訳あるか~~~~~!!!この馬鹿王子!!」」

さすがにこれは国家の恥…いや人としても大変恥知らずな行為に他ならない。

「みんなごめんね!!今日はもう撤収するから…バイバ~~イ!!」

ブンブンと両手を振りながら、そのままシャルロット王子は後ろ向きで城内へと引きずられて行った。
しかし王子が去った後も大広場のざわめきは収まらない。
この歓声は王国への罵声や抗議の声と思われたが実はそうではなかった。

「シャルロット様~~~~俺はあんたが男でも女でも構わね~ぞ~!!」
「シャルロット様万歳!!プリンセス王子万歳!!」
「こんな可愛らしい姫が女の子なはずないだろう!!俺は詳しいんだ!!」
「キャーーーーッ!!シャルロット様素敵---!!結婚してーーー!!」
「今度から姫兄さまって呼ぶねーーーー!!」

何とその殆どがシャルロット王子を讃えたり応援したりする物であったのだ。
この国の国民性なのか…はたまたシャルロット王子の人柄のお蔭なのかは定かではないが…。
これだけは言わせてもらいたい…もうやだこの国…。
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