ビキニアーマーは俺が着る!~冴えない弱小冒険者(♂)、伝説の女勇者を目指す~

美作美琴

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第1話 邂逅、ビキニアーマー

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 「来るわよみんな!! 気を付けて!!」

 美しいブロンドのロングヘアを靡かせながら迫る火の玉を次々と叩き切る女戦士。
 五つ首のドラゴン、魔王四天王の一角、五頭巨竜ドグラゴンと対峙し女勇者ルシアンは叫ぶ。
 
「おう!! 任せな!!」

 眉間でクロスするバツ印の傷を持つ鋭い目つきの男、ギロードが得意の大剣を振り回しドグラゴンの右足脛に切り掛かった。
 しかし大剣はいとも簡単に弾き返されギロードの手に強い痺れをもたらす。

「くそっ……何て硬さだ!! まるで岩石に切り掛かったみたいだ!!」

『フッハッハッ……身の程を知れ小さき者よ……その程度の攻撃が通用するとでも思うてか?』

 身の丈は悠に人間の背丈の三倍はあろうかと言う巨躯を誇るドグラゴン。
 背中には骨ばった翼、全身を茶褐色の鱗が覆っている。
 五つある頭は右から桃色、青、赤、黄色、深緑の五色に彩られそれぞれ鱗の色が違う。
 中心の赤い竜頭、その鱗まみれの硬そうな顔の表皮から牙を剥き出し口角をわざわざ吊り上げさせドグラゴンがギロードを蔑む。
 ドグラゴンの人間の物とは違う発声器官から発せられる声色は重低音に加えて金属的な甲高い音色が混ざり酷く耳障りだ。

「ならば魔法はどうです!? エクストリームファイアボルト!!」

 眼鏡に紫のマントの優男、魔術師のローガンが両手を前に突き出し、開いた両掌の中心から激しく滾る灼熱の業火を球状に纏めた火球をドグラゴンに向けて放った。

『ほう、これは美味そうだな』

 ドグラゴンの真ん中の赤い竜頭が舌なめずりし、あろう事か大きく口を開きエクストリームファイアボルトの火球を待ち構える。
 そしてそのまま火球はドグラゴンの口に収まり、口を閉じると同時に口元から黒煙が立ち昇った。

『ゲプッ……中々の美味であったぞ、褒めて遣わす……ゲプゥ』

 わざとらしく腹をさする動作をするドグラゴン。

「馬鹿な!! 私の使用出来る魔法で最上位のエクストリームファイアボルトを食っただと!?」

 唖然とするローガン。

『馳走の礼にこちらからも何かお見舞いせねばな……そうだな、上には上がいる事を教えるのもまた一興かな?』

 ドグラゴンがそう言うと奴の赤い竜頭の喉元が内側から徐々に赤らんでいく。
 そしてまるで溶岩でも内包しているかのような赤い喉元が徐々に白色を帯び始める。

「何なの? この暑さは……?」

 既に周囲は気温が上昇しておりルシアンをはじめパーティーメンバーは大汗を掻き始めていた。

「いけません!! 奴がこれから放つ攻撃は私の魔法など比べ物にならない程の熱量です!!」

『その通り!! これが本物のドラゴンのファイアブレスというものだ!!』

 大きく後ろへ仰け反らした後、しなうように頭を前方に振り下ろす。
 開口した口から先ほどのローガンの魔法の火球など足元にも及ばない程の太陽のプロミネンスの様な業火の滾りがパーティーに向け放たれた。

「なんの!! わたくしのホリーバリアで防いで見せます!!」

 白装束を着た修道士が両手を大きく伸ばし聖なる言葉を唱えると彼の前方に眩い光を放つ純白の壁が出現する。
 これは彼、僧侶サンファンの防御魔法であった。
 そのホーリーバリアに先ほどのドグラゴンのファイアーブレスが激突する。

「うわああああああっ……!!」

 しかしサンファンのホーリーバリアは数秒と持たずに突き破られ着弾したファイアブレスの威力によってパーティーメンバーは全員吹き飛ばされてしまった。

『愚かな、そんな紙の如き防除魔法で我のブレスを防げると思うたか? 笑止!!』

「何て事なの……奴はまだ一つの首だけしか戦闘に使っていないというのに……」

 ルシアンがやっとの事でうつ伏せの姿勢から上体を起こす。
 既に身体中火傷と擦り傷だらけだ。

「くそったれ……身体が動かねぇ……」

 仰向けに倒れているギロードは身体全体が麻痺しているらしく首をもたげるのが精一杯だった。

「ここで終わるのか……?」

 悔しさの余り地面に突っ伏したまま拳を打ち付けるローガン。
 僧侶のサンファンは大やけどを負い気絶してしまった。

『なあ、お前ばかり楽しんでないで俺たちにもやらせろよーーー』

 赤い竜頭の右隣り、青い竜頭が口を開いた。
 どうやら各々の竜頭ごとに人格が違うのでは、と推測できる。

『そうだぜ炎の、水の、の言うとおりだ、俺様にも一枚噛ませろ!!』

 左端の深緑も会話に参加してきた。

『そうよ、私達だってさっきから人間をいたぶりたくてうずうずしてたってのに』

 黄色い竜頭も賛同する。
 この頭部は女性的な言葉を使っているのでもしかすると雌の人格が宿っているのかもしれない。

『………』

 桃色の頭部は特に何も話さなかった。
 無口な性格なのだろう。

『分かった分かった、じゃあ水の、後は任せる』

『おっ、そう来なくっちゃな!!』

 青い頭部は俄然やる気の様だ。

『次は俺様の番だからな? 少しは残しておけよ?』

『約束は出来ないな土の、まあ少しでも残るのを期待するんだな』

 深緑の頭部を差し置き青い頭部がこちらへ顔を突き出し口を開く。
 すると口内に向けて周囲から水滴が集まり大きな水の球が出来上がった。

「まさか……あれを我々に放つつもりか……?」

 ローガンが目を見開く。
 ルシアンのパーティーメンバーは誰一人まともに動けない、あの水球の攻撃を食らったら今度こそ終わりだ。

「やべぇ……ルシアン……お前だけでも逃げろ……」

「ギロードの馬鹿!! そんな事出来る訳ないでしょう!?」

 ルシアンは身体に残った力全てを振り絞って何とか立ち上がり剣を構えた。

『へぇ、君がこの攻撃に挑もうっての? 面白いね、じゃあ行くよーーー!!』

「……来なさい!!」

 青い頭部に対して一歩も引かないルシアン。
 巨大水球は青い頭部の口元から発射され超高速でルシアンに迫る。

「やあああああっーーー!!」

 上段に構えた剣を振り下ろし水球に切り掛かるルシアン。
 見事に一刀両断、水球を構成していた水分は力なく流れ落ちた。

「やった……」

 力を使い果たしよろけるルシアン、しかしそこに向かって一条の稲妻が迫る。

「危ないルシアン!!」

「あっ!!」

 横っ飛びでルシアンに飛びついた影があった。
 それは身体の線が細い少年だった。
 そのお陰でルシアンは稲妻を回避する事が出来たのだった。

「ブライアン!? どうして!? 危ないから隠れてなさいって言ったのに!!」

「幼馴染みの君がピンチなんだ、能力が低いからって黙って隠れているなんて出来ないよ!!」

 ブライアンと呼ばれた少年は背も低く体格もお世辞にも良いとは言えない筋肉が殆ど付いていない貧相な身体つきであった。
 ルシアンのパーティーに所属してはいるものの主に荷物運び、ポーターとクエスト中のキャンプ時に料理の担当をするなど、言ってしまえば雑用係、非戦闘員である。
 普段の戦闘中はその場から離れ、物陰などに隠れている筈なのだが、ルシアンのピンチに居ても立ってもいられなくなり出て来てしまったのだ。

『あっ!! 雷の!! 貴様抜け駆けしやがったな!?』

『あら、何の事かしら?』

 深緑の頭部に詰め寄られるも明後日の方向に視線を逃がす黄色の頭部。
 先ほどの雷は黄色い頭部が放ったものだったのだ。

『あの速さに反応した……? 侮れないわ……』

 誰に聞かせるでもなく桃色の頭部が呟く。
 こちらも黄色頭部同様女性的な語り口だ。

『あーーー!! 面白くねぇ!! そんなんだったら俺様も好きにやらせてもらうぜぇ!!』

 深緑の頭部の意思でドグラゴンが相撲の四股のような動作を始めた。
 それにより地面が激しく揺さぶられる。

『おい待て土の!! それでは……』

『うるせぇ!! アースシェイカー!!』

 青の頭部の制止を聞かず深緑の頭部がそう言うとドグラゴンの足踏みに呼応して地面に無数のひびが入った。
 それは次々と伝線していきルシアン達の居る場所まで到達したのだ。
 そして地面が割れ激しい隆起と陥没を起こす。

「きゃああああっ!!」

「ルシアン!!」

 ブライアンとルシアンは縺れながら割れた地面の隙間から落下し奈落へと落ちて行った。
 他のメンバーの安否も不明だ。

『だから言ったのに……』

『うっ……うるせーーーよ、そもそも順番抜かしをした雷のが悪いんだ……』

 あくまで非を認めないスタンスの深緑だったが、流石に責任を感じたのか口籠っている。

『まあ良いではないか、そもそも冒険者を駆除するのが我らの仕事だ、仕事を全うした、それだけの事だ』

『流石炎の、言う事が違うねェ』

『茶化すな水の』

 落下していった土塊を見届け、ドグラゴンは翼を羽ばたかせその場を飛び去るのだった。



「う~~~ん……はっ!! ここは!?」

 薄暗く冷たい地面の上でブライアンは目覚めた。
 一体どれくらい気を失っていたのか分からない。

「そうだ!! ルシアンは!? みんなは!?」

 がばっと跳ね起きる。
 辺りを見回すが一切の人影は見えない、ただゴロゴロとした岩が転がっているのみだ。

「いつつつっ……あちこちぶつけたんだな、骨は折れていないみたいだけど」

 一度落ち着こうと深呼吸をし辺りを見回す。
 そこはある程度開けた洞窟になっているらしい。
 しかしどうした事か、地下深くだというのに薄っすらだがある程度目が効く。

『おう、起きたか?』

「えっ!! 誰だ!?」

 突然誰かに話しかけられビクンと身体が跳ね上がるブライアン。
 それは聞いた事のない男の声だ。

『どこを見ている? こっちだこっち』

 見当はずれの所をキョロキョロしているブライアンを見かねて謎の声が彼を誘導する。
 言われるがままブライアンは外壁に手を付きながら恐る恐る洞窟内を進む。

「こっ……ここは?」

 辿り着いた先はドーム状にくりぬかれた部屋になっており、そこはランプも何もないのにとても明るかった。
 そして一番奥には金や赤、青を使用した派手なカラーリングの女性用の鎧がトルソーの様な台座に鎮座している。
 胸部と腰部が分割されている鎧……俗にビキニアーマーと呼ばれている女性用装備だ。

「この鎧……美しい……きっと物凄い力を秘めているに違いない……」

 まるで魅入られたかのように虚ろな瞳でその鎧を眺めるブライアン。
 
『よく来たな少年』

「この声はさっきの……誰? どこに居るの?」

『さっきから少年の目の前にいるじゃないか、オレだよこの、よ・ろ・い♪』

「へっ……?」

 何と目の前の女性用鎧から声がするではないか。
 女性用の装備のくせに野太い男の声なので違和感が半端ではない。

『少年、名前は?』

「ブライアン……です」

『そうかブライアンか……オレは四元徳が一つ、リビングアーマー知恵ウィズダムだ、お前は実に運がいい……なぁブライアン、オレを着てみる気は無いか?』

「はい……?」

 ブライアンは鎧が何を言っているのかすぐには理解できなかった。

 これこそブライアンと命ある鎧、リビングアーマー|知恵の出会いであった。
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