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第11話 新たなる力
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「ほらっ!! もっと頑張りなさい!!」
「もっ……もう無理ニャ……限界ニャ……」
ダークマター基地内の訓練場で俺は怪人ネコキャットの訓練を行っている。
取り合えず一周500メートルのトラックを10周させている所だが、ネコキャットはたった2周でへばってしまった。
「あんたそれでも怪人!? 人間のアスリートの方がよっぽど体力あるわよ!?」
「そんなこと言われましてもニャ、私はまだ怪人になりたてで……」
「泣き言は聞きたくないわ!!」
「ニャッ!!」
俺が地面を打ち付ける鞭の音にネコキャットは震えあがった。
悪く思うなよネコキャット、お前に頑張ってもらわなければ俺やタソガレの立場が危うくなるんだ。
あの憎くきアンコック将軍め、後から出張ってきたあいつにこれ以上大きな顔をされてたまるか。
必ず目にもの見せてくれる。
だが俺一人ではヒカリオン相手に闘うには限界がある、そこで戦隊物のセオリーに則り怪人を軸に作戦を立てようと思う。
ただこれもお約束なのだが、怪人は原則一人しか一度に登場しない。
だからこのネコキャットが存命なうちは次の怪人が生み出されないのだ。
たまに変則的に二人怪人が出る会とかもあるにはあるが大抵どちらかが先にヒーローに倒されるんだよな。
そういうことでこの弱っちいネコキャットをどうにかヒカリオンと渡り合えるくらいに強くしたくて猛特訓中なのであるがこれでは短期間でどうこう出来るレベルでは無かった。
まさかここまで使い物にならないとは……正直絶望している。
俺としてもあまりもたもたしていられない訳がある……俺自身が女性化しヤミージョと同化しかけているというのもあるが、問題はそれだけでは無い。
これも特撮のお約束の一つなのだが、悪役に新幹部が登場すると決まって戦場に現れ自身のお披露目をしてしまうというものだ。
そして大抵初登場時は圧倒的な強さを見せつけてヒーローを圧倒してしまう。
そこでアンコックに手柄を上げられてしまうと益々奴の尊大な態度が増長する可能性がある、これは俺にとって面白くないし身の危険でもある。
昨晩、初対面であるにもかかわらずあいつは俺の唇を奪いやがった。
俺の可愛さ、美しさに魅了されたのは無理からぬことだが、今思い出しても身の毛もよだつ羞恥心と怒りが込み上げてくる。
要するにアンコックはヤミージョに一目惚れして自分のモノにしたい訳だ。
その後のペット発言がそれを裏付けている。
だからそのお披露目対戦でアンコックがヒカリオン襲るるに足りずと判断した場合、今までヒカリオンに手を焼いていた俺たちを更に見下すようになる。
そうなるとアンコックは無理矢理にでも俺を自分の女にしようと迫ってくるはずだ。
だがそれだけは絶対に阻止しなければならない、降りかかる火の粉は自ら払わなければ。
勿論3号の行方も大いに気になるが、今の俺にそれを知る由が無い。
だがこのままにしておく気も無い、なにせ奴は佐次さん本人若しくは佐次さんの中身が誰かと入れ替わった存在であるかもしれないからだ。
だがその前にやらなくてはならない事がある。
すでに日比野さんにはアンコックの情報はリークしてあるので何かしらの手を打ってくれると信じてはいるが果たしてどうなるのやら。
そして目の前で50キロのバーベルも持ち上げられないネコキャットを見て俺は深い溜息を吐く。
「お困りの様ですな」
「ドクター真黒以蔵……」
ニタニタと笑みを浮かべながらご老体がこちらにやって来る。
「こいつはお前が造ったのだろう、もっとどうにかならなかったのか?」
「ベースになったダークマンはかなりの怪人化適正を持っていたんですがいざ改造手術が終わってみるとこのざまですじゃ、正直ワシも首を傾げざるを得なかったのですじゃ」
「要するに失敗作ということか?」
「いえいえ、まだそうと決めつけるには早いですじゃ、それを改善するためにこれをお持ちしました」
真黒以蔵は白衣の袖から一本の棒状のものを取り出した。
先が細く途中から太くなっている透明の筒、中には毒々しい緑色の液体が詰まっている……注射器か? それにしては針が無い様だが。
「浣腸器?」
「違います!! あなた様の様なうら若き乙女が何と言う事を言いますかな!!
これはアンプルです!!」
「アンプル? 何のだ?」
「これは怪人の力を更なる高みにまで引き上げる薬品ですじゃ、これを絶命した怪人に垂らす事によりそれまでとは比べ物にならない力を発揮するのです」
「怪人が死んでから使うのか? 生きているうちに使う事は出来ないのか?」
これも特撮物ではよくある展開であるが、流石にそれをいざ自分がやるとなると人道的な面で色々と抵抗がある。
「はい、既に実験済みでして、生きている怪人に投与すると逆に薬品の効力に耐えられずに身体が崩壊してしまいます」
試したのか……やはり悪の組織のマッドサイエンティスト、人の心なんて持ち合わせてはいなかったか。
そしてここから真黒以蔵は声を潜め俺に耳打ちしてきた。
「ですからこのアンプルを使うためにはネコキャットに早めに死んでもらう方が良いのですよ……それなら怪人の性能は関係ありませんし難しい作戦も必要ない……」
真黒以蔵はネコキャットを完全に捨て駒にする気満々の様だ……更に腹黒さが増したな。
「分かった、これは貰っていく」
「ええ、是非に」
これを受け取ってしまった時点で俺ももう普通の人間の道徳観から逸脱してしまったか……だが手段を選んでいられる段階はとうに過ぎているのだ、やるしかない。
これ以上の特訓は既に不要となった、ぐずぐずしているとアンコックが動きだしてしまう。
「行くわよネコキャット!! ダークマン共も出撃準備!!」
「ニャッ!!」
「キーーーッ!!」
奇声と共にいつの間にか俺の後ろにダークマンが20人ほど並んでいる。
意を決し市街地へと赴いた。
「さあダークマン共!! 街を滅茶苦茶にしてしまえ!!」
俺の命令でダークマンたちが待ちゆく人々を襲い、建物のガラスを割っていく。
実にしょぼい作戦だが、これはヒカリオンをおびき出す為だけのものなので特に問題は無い。
「そこまでだ!! ダークマター!!」
そら来なさった、ヒーローのお出ましだ。
事前に出現場所を日比野さんにメールしてあったのでいつもより登場の早い事。
「今日こそは負けないニャ!!」
ネコキャットが威勢よくヒカリオンに突進していく。
「ニャッ!?」
しかし道路のタイル地につま先を引っかけ盛大に倒れ込んでしまった。
唖然とする一同、情けなくなって俺は目元を覆った。
「何なのこの怪人、物凄いドジっ子なんだけど?」
「ピンク殿、この者は昨日幼稚園バスをジャックした猫怪人でござるよ」
「へえ、それじゃあ楽勝だな!!」
ヒカリピンク、グリーン、レッドが次々とネコキャットに向かって攻撃をしてきた。
彼らの振るうヒカリソードに滅多切りされるネコキャット。
「食らえ!!」
「ニャアッ!!」
剣撃の合間にヒカリブルーの狙撃でさらに追い打ち、堪らず背中から倒れ込んだ。
それにしても複雑な気分だ、普段なら怪人が一方的にやられるのなんて特に気に留める事は無いのだが、自分が悪の側に立ってみると腹立たしいことこの上ない。
ネコキャットは能力は低いかもしれないが、弱音を吐きながらもこの俺のシゴキに文句も言わず耐えていたんだぞ。
それを一方的にいたぶるなんてやはり俺には耐えられなかった。
「ニャ……アアア……」
遂に力尽きストップモーションで倒れるネコキャット。
ヒカリオンも必殺攻撃は必要なしと判断したのかグリッターフォーメーションは使用せず、レッドがヒカリソードを手にジャンプ一番、倒れたネコキャット目がけ剣を振り下ろした。
これで止めを刺されれば俺が持っているアンプルを使える。
それによって蘇りパワーアップしたネコキャットが逆襲をするという筋書き通りになる訳だ。
「覚悟!!」
いや、やっぱりダメだ、このまま見捨てるなんて。
キイイイイイン……!!
「何!?」
俺は間に入り鞭を横にして両手で持ちレッドの剣を防いでいた。
あ~~~あ、これで作戦は水の泡だ。
「ニャミージョ様、どうして……?」
「部下を見殺しにするのの何が作戦だ!! そんなものクソ食らえだ!!」
「私が死んだ後にその薬を使えばヒカリオンに勝てるんじゃなかったんですかニャ?」
「お前、知っていたのか?」
「エヘヘ、私は耳だけは良いんですニャ」
こいつ、初めからやられるのが目的で突っ込んでいったのか?
狂っている、みんな狂っていやがる。
「ああああああっ!!」
俺は出鱈目に鞭を振るいヒカリオン達に襲い掛かった。
もうどうにでもなれ!! そもそも俺は悪役だ、ここでやられてしまっても問題ないはずだ、どうだ俺たちを眺めている謎の存在!! 俺を殺してみろ!!
「ヤミージョのヤツどうしちまったんだ?」
「いつもの余裕が感じられない……」
ヒカリイエローにヒカリブルー、いや岩城さんに青葉さん……お前らにヤミージョの、俺の何が分かるっていうんだ!!
あんたがたはお気楽に与えられた役を無意識に演じていればいいかも知れないが、俺は元の記憶を持ったままで性別さえ違う役柄を背負って戦っているんだぞ!!
「きゃあっ!!」
「これは堪らんでござる!!」
ヒカリピンクにヒカリグリーン、麻実ちゃんに葵ちゃん……あんた達だってそうだ。
自分たちが変身前だけでは無く変身後もスーツを着て戦っていることに疑問を持たないのか!?
そう、これは八つ当たりだ……だが日比野さん以外にも記憶を思い出してくれてもいいじゃないか!! いい加減目を、目を覚ましてくれっ!!
「ヤミーーーージョーーーー!!!」
ヒカリレッドの渾身の一撃が俺の胸当てにヒットした。
「きゃああああっ!!」
飛び散る火花、弾き飛ばされ地面に転がる。
物凄い痛みと衝撃が俺の胸に伝わって来る。
この痛み、本物だ……やはり俺たちは命のやり取りをしている。
「くそっ……」
手を突き立ち上がろうとするが思いのほかダメージを受けたようで身体の自由が利かない。
万事休すか……。
だがここで空から幾条もの落下物がこの一帯を襲った、それは隕石だ。
「ハッハッハッ!! 貴様らが噂に聞くヒカリオンかーーー!!」
げっ、この声はアンコック将軍か? 空を浮遊し戦場を見下ろしている。
やれやれ、よりによって一番助けられたくない奴に助けられてしまった。
「貴様は何者だーーー!?」
「フフフッ、我こそはダークマターの将軍アンコックだ!!」
始まったな新幹部初登場時のアピールタイムが……だがこれはチャンスだ。
ヒカリオンがアンコックに気を取られている今の内にここを離れなくては。
俺は不自由な身体に鞭打ち、ネコキャットの所まで這っていった。
しかしこんなとき女は不便だ、大きな胸が邪魔をして中々前に進めなかった。
「おい、生きてるか? しっかりしろ!!」
「ニャミージョ様こそご無事で?」
爆発音が聞こえる、どうやら戦闘が始まったようだ。
ネコキャットに肩を貸し、近くにあった児童公園まで避難した。
「お前はここに居なさい、いいわね?」
ゾウを象った滑り台の中にネコキャットを隠す。
「ニャミージョ様はどうなさるんです?」
「私はアンコック将軍とヒカリオンの戦いを見てくる、お前は体力が回復したら先に基地に戻っていなさい」
「ニャミージョ様!!」
再び戦場に戻り、遠巻きに戦況を見守る。
やはり思ったっ通りアンコックが優勢だった。
ヒカリオンは隕石攻撃に逃げ惑うばかりで防戦一方だ。
このままではまずいな……そうだ日比野さんに連絡をしてみよう。
彼女の事だ、何か秘策を思いついているかもしれない。
「日比野さん、日比野さん、聞こえていますか?」
俺はダークチャンジャーに呼び掛ける。
『あら、ひろみ……どうしたの?』
「どうしたのじゃないでしょう!? 今ヒカリオンが件の将軍と戦闘中で劣勢なんですよ!?」
『なるほど、そんなに強いんだその将軍』
「そうですよ!! それより何か無いんですか!? この状況をひっくり返せるような新兵器とか!!」
その為に日比野さんには前もって情報を伝えてあったのだから。
『ふっふっふーーー、よくぞ聞いてくださいました……あるわよ新兵器』
「そうですか!! じゃあ早速それでヒカリオンの救援を……」
『でもね、少し時間が掛かるのよ……あなた、少し時間を稼いでくれないかしら?』
「時間!? この俺がヒカリオンに手を貸せるわけないでしょう!? 何考えてるんですか!!」
そうとも、俺ことヤミージョがヒカリオンに手を貸そうものなら問答無用でアンコックは俺をヒカリオンごと抹殺してしまうだろう……そうでなかったとしても最悪、アンコックのペットが確定してしまう。
『最後まで話しを聞きなさい、ちゃんと考えてあるわよ』
「どうするんです!?」
『あなたの左腕、ダークチェンジャーを見て』
「あっ、何か光ってますね」
ダークチェンジャーの今まで使っていないボタンが赤く明滅している。
『その光っているボタンを押しながらこう言いなさい……ヒカリチェンジ、ヴァイオレットと』
「日比野さん、それってまさか……」
『んふ、そう……そのまさかよ』
日比野さんがチェンジャー越しに微笑んでいるのが分かる。
そうか、遂に俺にもこの時が来たか。
俺は仁王立ちになりチェンジャーのボタンを押し叫ぶ。
『ヒカリチェンジ!! ヴァイオレット!!』
「もっ……もう無理ニャ……限界ニャ……」
ダークマター基地内の訓練場で俺は怪人ネコキャットの訓練を行っている。
取り合えず一周500メートルのトラックを10周させている所だが、ネコキャットはたった2周でへばってしまった。
「あんたそれでも怪人!? 人間のアスリートの方がよっぽど体力あるわよ!?」
「そんなこと言われましてもニャ、私はまだ怪人になりたてで……」
「泣き言は聞きたくないわ!!」
「ニャッ!!」
俺が地面を打ち付ける鞭の音にネコキャットは震えあがった。
悪く思うなよネコキャット、お前に頑張ってもらわなければ俺やタソガレの立場が危うくなるんだ。
あの憎くきアンコック将軍め、後から出張ってきたあいつにこれ以上大きな顔をされてたまるか。
必ず目にもの見せてくれる。
だが俺一人ではヒカリオン相手に闘うには限界がある、そこで戦隊物のセオリーに則り怪人を軸に作戦を立てようと思う。
ただこれもお約束なのだが、怪人は原則一人しか一度に登場しない。
だからこのネコキャットが存命なうちは次の怪人が生み出されないのだ。
たまに変則的に二人怪人が出る会とかもあるにはあるが大抵どちらかが先にヒーローに倒されるんだよな。
そういうことでこの弱っちいネコキャットをどうにかヒカリオンと渡り合えるくらいに強くしたくて猛特訓中なのであるがこれでは短期間でどうこう出来るレベルでは無かった。
まさかここまで使い物にならないとは……正直絶望している。
俺としてもあまりもたもたしていられない訳がある……俺自身が女性化しヤミージョと同化しかけているというのもあるが、問題はそれだけでは無い。
これも特撮のお約束の一つなのだが、悪役に新幹部が登場すると決まって戦場に現れ自身のお披露目をしてしまうというものだ。
そして大抵初登場時は圧倒的な強さを見せつけてヒーローを圧倒してしまう。
そこでアンコックに手柄を上げられてしまうと益々奴の尊大な態度が増長する可能性がある、これは俺にとって面白くないし身の危険でもある。
昨晩、初対面であるにもかかわらずあいつは俺の唇を奪いやがった。
俺の可愛さ、美しさに魅了されたのは無理からぬことだが、今思い出しても身の毛もよだつ羞恥心と怒りが込み上げてくる。
要するにアンコックはヤミージョに一目惚れして自分のモノにしたい訳だ。
その後のペット発言がそれを裏付けている。
だからそのお披露目対戦でアンコックがヒカリオン襲るるに足りずと判断した場合、今までヒカリオンに手を焼いていた俺たちを更に見下すようになる。
そうなるとアンコックは無理矢理にでも俺を自分の女にしようと迫ってくるはずだ。
だがそれだけは絶対に阻止しなければならない、降りかかる火の粉は自ら払わなければ。
勿論3号の行方も大いに気になるが、今の俺にそれを知る由が無い。
だがこのままにしておく気も無い、なにせ奴は佐次さん本人若しくは佐次さんの中身が誰かと入れ替わった存在であるかもしれないからだ。
だがその前にやらなくてはならない事がある。
すでに日比野さんにはアンコックの情報はリークしてあるので何かしらの手を打ってくれると信じてはいるが果たしてどうなるのやら。
そして目の前で50キロのバーベルも持ち上げられないネコキャットを見て俺は深い溜息を吐く。
「お困りの様ですな」
「ドクター真黒以蔵……」
ニタニタと笑みを浮かべながらご老体がこちらにやって来る。
「こいつはお前が造ったのだろう、もっとどうにかならなかったのか?」
「ベースになったダークマンはかなりの怪人化適正を持っていたんですがいざ改造手術が終わってみるとこのざまですじゃ、正直ワシも首を傾げざるを得なかったのですじゃ」
「要するに失敗作ということか?」
「いえいえ、まだそうと決めつけるには早いですじゃ、それを改善するためにこれをお持ちしました」
真黒以蔵は白衣の袖から一本の棒状のものを取り出した。
先が細く途中から太くなっている透明の筒、中には毒々しい緑色の液体が詰まっている……注射器か? それにしては針が無い様だが。
「浣腸器?」
「違います!! あなた様の様なうら若き乙女が何と言う事を言いますかな!!
これはアンプルです!!」
「アンプル? 何のだ?」
「これは怪人の力を更なる高みにまで引き上げる薬品ですじゃ、これを絶命した怪人に垂らす事によりそれまでとは比べ物にならない力を発揮するのです」
「怪人が死んでから使うのか? 生きているうちに使う事は出来ないのか?」
これも特撮物ではよくある展開であるが、流石にそれをいざ自分がやるとなると人道的な面で色々と抵抗がある。
「はい、既に実験済みでして、生きている怪人に投与すると逆に薬品の効力に耐えられずに身体が崩壊してしまいます」
試したのか……やはり悪の組織のマッドサイエンティスト、人の心なんて持ち合わせてはいなかったか。
そしてここから真黒以蔵は声を潜め俺に耳打ちしてきた。
「ですからこのアンプルを使うためにはネコキャットに早めに死んでもらう方が良いのですよ……それなら怪人の性能は関係ありませんし難しい作戦も必要ない……」
真黒以蔵はネコキャットを完全に捨て駒にする気満々の様だ……更に腹黒さが増したな。
「分かった、これは貰っていく」
「ええ、是非に」
これを受け取ってしまった時点で俺ももう普通の人間の道徳観から逸脱してしまったか……だが手段を選んでいられる段階はとうに過ぎているのだ、やるしかない。
これ以上の特訓は既に不要となった、ぐずぐずしているとアンコックが動きだしてしまう。
「行くわよネコキャット!! ダークマン共も出撃準備!!」
「ニャッ!!」
「キーーーッ!!」
奇声と共にいつの間にか俺の後ろにダークマンが20人ほど並んでいる。
意を決し市街地へと赴いた。
「さあダークマン共!! 街を滅茶苦茶にしてしまえ!!」
俺の命令でダークマンたちが待ちゆく人々を襲い、建物のガラスを割っていく。
実にしょぼい作戦だが、これはヒカリオンをおびき出す為だけのものなので特に問題は無い。
「そこまでだ!! ダークマター!!」
そら来なさった、ヒーローのお出ましだ。
事前に出現場所を日比野さんにメールしてあったのでいつもより登場の早い事。
「今日こそは負けないニャ!!」
ネコキャットが威勢よくヒカリオンに突進していく。
「ニャッ!?」
しかし道路のタイル地につま先を引っかけ盛大に倒れ込んでしまった。
唖然とする一同、情けなくなって俺は目元を覆った。
「何なのこの怪人、物凄いドジっ子なんだけど?」
「ピンク殿、この者は昨日幼稚園バスをジャックした猫怪人でござるよ」
「へえ、それじゃあ楽勝だな!!」
ヒカリピンク、グリーン、レッドが次々とネコキャットに向かって攻撃をしてきた。
彼らの振るうヒカリソードに滅多切りされるネコキャット。
「食らえ!!」
「ニャアッ!!」
剣撃の合間にヒカリブルーの狙撃でさらに追い打ち、堪らず背中から倒れ込んだ。
それにしても複雑な気分だ、普段なら怪人が一方的にやられるのなんて特に気に留める事は無いのだが、自分が悪の側に立ってみると腹立たしいことこの上ない。
ネコキャットは能力は低いかもしれないが、弱音を吐きながらもこの俺のシゴキに文句も言わず耐えていたんだぞ。
それを一方的にいたぶるなんてやはり俺には耐えられなかった。
「ニャ……アアア……」
遂に力尽きストップモーションで倒れるネコキャット。
ヒカリオンも必殺攻撃は必要なしと判断したのかグリッターフォーメーションは使用せず、レッドがヒカリソードを手にジャンプ一番、倒れたネコキャット目がけ剣を振り下ろした。
これで止めを刺されれば俺が持っているアンプルを使える。
それによって蘇りパワーアップしたネコキャットが逆襲をするという筋書き通りになる訳だ。
「覚悟!!」
いや、やっぱりダメだ、このまま見捨てるなんて。
キイイイイイン……!!
「何!?」
俺は間に入り鞭を横にして両手で持ちレッドの剣を防いでいた。
あ~~~あ、これで作戦は水の泡だ。
「ニャミージョ様、どうして……?」
「部下を見殺しにするのの何が作戦だ!! そんなものクソ食らえだ!!」
「私が死んだ後にその薬を使えばヒカリオンに勝てるんじゃなかったんですかニャ?」
「お前、知っていたのか?」
「エヘヘ、私は耳だけは良いんですニャ」
こいつ、初めからやられるのが目的で突っ込んでいったのか?
狂っている、みんな狂っていやがる。
「ああああああっ!!」
俺は出鱈目に鞭を振るいヒカリオン達に襲い掛かった。
もうどうにでもなれ!! そもそも俺は悪役だ、ここでやられてしまっても問題ないはずだ、どうだ俺たちを眺めている謎の存在!! 俺を殺してみろ!!
「ヤミージョのヤツどうしちまったんだ?」
「いつもの余裕が感じられない……」
ヒカリイエローにヒカリブルー、いや岩城さんに青葉さん……お前らにヤミージョの、俺の何が分かるっていうんだ!!
あんたがたはお気楽に与えられた役を無意識に演じていればいいかも知れないが、俺は元の記憶を持ったままで性別さえ違う役柄を背負って戦っているんだぞ!!
「きゃあっ!!」
「これは堪らんでござる!!」
ヒカリピンクにヒカリグリーン、麻実ちゃんに葵ちゃん……あんた達だってそうだ。
自分たちが変身前だけでは無く変身後もスーツを着て戦っていることに疑問を持たないのか!?
そう、これは八つ当たりだ……だが日比野さん以外にも記憶を思い出してくれてもいいじゃないか!! いい加減目を、目を覚ましてくれっ!!
「ヤミーーーージョーーーー!!!」
ヒカリレッドの渾身の一撃が俺の胸当てにヒットした。
「きゃああああっ!!」
飛び散る火花、弾き飛ばされ地面に転がる。
物凄い痛みと衝撃が俺の胸に伝わって来る。
この痛み、本物だ……やはり俺たちは命のやり取りをしている。
「くそっ……」
手を突き立ち上がろうとするが思いのほかダメージを受けたようで身体の自由が利かない。
万事休すか……。
だがここで空から幾条もの落下物がこの一帯を襲った、それは隕石だ。
「ハッハッハッ!! 貴様らが噂に聞くヒカリオンかーーー!!」
げっ、この声はアンコック将軍か? 空を浮遊し戦場を見下ろしている。
やれやれ、よりによって一番助けられたくない奴に助けられてしまった。
「貴様は何者だーーー!?」
「フフフッ、我こそはダークマターの将軍アンコックだ!!」
始まったな新幹部初登場時のアピールタイムが……だがこれはチャンスだ。
ヒカリオンがアンコックに気を取られている今の内にここを離れなくては。
俺は不自由な身体に鞭打ち、ネコキャットの所まで這っていった。
しかしこんなとき女は不便だ、大きな胸が邪魔をして中々前に進めなかった。
「おい、生きてるか? しっかりしろ!!」
「ニャミージョ様こそご無事で?」
爆発音が聞こえる、どうやら戦闘が始まったようだ。
ネコキャットに肩を貸し、近くにあった児童公園まで避難した。
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ゾウを象った滑り台の中にネコキャットを隠す。
「ニャミージョ様はどうなさるんです?」
「私はアンコック将軍とヒカリオンの戦いを見てくる、お前は体力が回復したら先に基地に戻っていなさい」
「ニャミージョ様!!」
再び戦場に戻り、遠巻きに戦況を見守る。
やはり思ったっ通りアンコックが優勢だった。
ヒカリオンは隕石攻撃に逃げ惑うばかりで防戦一方だ。
このままではまずいな……そうだ日比野さんに連絡をしてみよう。
彼女の事だ、何か秘策を思いついているかもしれない。
「日比野さん、日比野さん、聞こえていますか?」
俺はダークチャンジャーに呼び掛ける。
『あら、ひろみ……どうしたの?』
「どうしたのじゃないでしょう!? 今ヒカリオンが件の将軍と戦闘中で劣勢なんですよ!?」
『なるほど、そんなに強いんだその将軍』
「そうですよ!! それより何か無いんですか!? この状況をひっくり返せるような新兵器とか!!」
その為に日比野さんには前もって情報を伝えてあったのだから。
『ふっふっふーーー、よくぞ聞いてくださいました……あるわよ新兵器』
「そうですか!! じゃあ早速それでヒカリオンの救援を……」
『でもね、少し時間が掛かるのよ……あなた、少し時間を稼いでくれないかしら?』
「時間!? この俺がヒカリオンに手を貸せるわけないでしょう!? 何考えてるんですか!!」
そうとも、俺ことヤミージョがヒカリオンに手を貸そうものなら問答無用でアンコックは俺をヒカリオンごと抹殺してしまうだろう……そうでなかったとしても最悪、アンコックのペットが確定してしまう。
『最後まで話しを聞きなさい、ちゃんと考えてあるわよ』
「どうするんです!?」
『あなたの左腕、ダークチェンジャーを見て』
「あっ、何か光ってますね」
ダークチェンジャーの今まで使っていないボタンが赤く明滅している。
『その光っているボタンを押しながらこう言いなさい……ヒカリチェンジ、ヴァイオレットと』
「日比野さん、それってまさか……」
『んふ、そう……そのまさかよ』
日比野さんがチェンジャー越しに微笑んでいるのが分かる。
そうか、遂に俺にもこの時が来たか。
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相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
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