異世界で俺はチーター

田中 歩

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{第百三話} おじさんが作った物が牙を剥く

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シャッターを殴り壊して現れたのは、キャタピラで動くアームとドリルを持った大きなロボットだった。
ヤツの3本の爪で構成された右アームと、つかまれたらひとたまりもないであろうペンチの様になっている左アームの2本で壊したシャッターをキャタピラで踏み潰して進んでくる姿はまるで戦車の様だ。
「なんだあれは!」
「あれは京一様が作ったロボットの1つで人が中に乗って操作するタイプの物です。名前はフロスト」
またおじさんだよ、簡便してくれ。
そんなことを嘆いていると、フロストはアームを使ってこちらに攻撃を仕掛けてきた。
右アームを高速で回転させて金属同士が擦れる様なモーター音を立てている物は、もう立派な大型のドリルだった。
図体が大きいせいで、動きは早くないため避けるのは簡単だが、ドリルが突き刺さった床の壊れ具合を見るに対物用で対人用ではない事はサルにでも分かるだろう。
フロストの頭部には目の様な形をした部分があり、そこにカメラが内臓されているに違いない。
カメラで昌達の姿を見て攻撃してくるならカメラを潰してしまえば良い。
人が中に乗っているなら尚更だ。
一応念のため、閉まってしまったシャッターの元へ行き、自力で上に上げられるか試してみたが一切動く気配は無い。まぁ分かってはいたが。
シャッターに気を取られている間に、フロストはゆっくりしかし確実にシャッター際にいる昌達との距離を詰めて来ていた。

「あいつらが、スパイ!あいつさえ居なくなれば私の会社は再建出来るんだ!」
フロストの中でカメラからの視覚情報を映し出しているモニターを見ていたケティングは怒りをあらわにして左右にある操作レバーを強く握り締め、歯を食いしばった。
レバーを力強く前に倒すと、昌達を大きなキャタピラで踏み潰す勢いで前へ進め、それでだめならと右アームを回転させて構え突いて来た。

フロストの動きは遅いのでもちろんかわしたが、アームで付いた床には小さなクレーターの様な凹みが出来ていた。
昌はアームの上を走って上ると、フロストの顔と思われる部分がこちらに向いたかと思うと、アームを大きく振って上っていた昌を振り飛ばした。
飛ばされた昌は壁に強く背中を打ちつけたが、アーマーがダメージのほとんどを吸収してくれたため、昌の体にはまったくと言ってダメージは入っていないが、多少の衝撃はあるため痛い。
背中を中心に体全体に広がる衝撃を味わいながら、ゆっくりと起き上がるころにはフロストは昌に向かって進み、攻撃範囲内に入れた。
まさか異世界ファンタジー感の全く無いロボットを相手にするとは思わなかった。

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少し時間を戻して、昌達がオイラーの工場に侵入した時、一方マスターとソアリンが居るブルーキャッツでは。

ソアリンはおじさんが失踪した事で心配そうに自分と会話していた昌を思い出していた。
「少ししゃべりすぎたか...」
後悔した様子でカップのコーヒーに映る自分の顔を見つめていた。
「今更考えても仕方がないだろう」
「そうだな」
マスターの言葉を聞いてソアリンは顔を上げ、コーヒーが入ったカップを口元に傾けふとデバイスの電源を入れた。
基本的に異世界に電子的な機械等は存在しないのだが、おじさんが関わった場所や人物は存在を知っているし、所有して使っている者いる。
便利だと使っている者も居るが、中には自分の意思で使わないという選択を選んだ者もいる。
ソアリンは前者の使っている者の1人で電源を入れたデバイスはPCの様な物だった。
そのPCの様なデバイスでソアリンはオイラーの工場内に設置された防犯カメラにハッキングを掛け、自分のPCにもリアルタイムで送るように設定しており、前々から警備員の動きや作業員達のシフト等の情報を収集し、おじさんの救出に向けて準備をしていたのだが、そんな防犯カメラの映像には昌達の姿が映っていた。
それを見たソアリンは思わずコーヒーを噴出し、噎せた。
「昌達がオイラーの工場に居るぞ!」
「何!?」
ソアリンの発言にマスターも急いで防犯カメラの映像が映し出された画面を覗き込んだ。

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吹き飛ばした昌がゆっくりと体中の痛みを感じながら立ち上がる様子を見て、恨みを更に募らせていた。
そこにはオイラーに吹き込まれた話しも重なり、ヒートアップした彼が行動は手段を選ばなかった。
「忌々しいガキ共め!」
両腕のアームを高く上げて、勢い良く振り下ろした。
相手のフロストはロボットだが、人が乗れるタイプだからかとても外装が硬い。
フロストのボディーにGOSの剣で切りつけたが、細い線状のキズが入る程度でヤツの動きを止められるほどのダメージは望めない。
硬さはボディーに限った話しではなく、アーム部分やキャタピラ部分も変わらない。
そんな大きな図体で暴れまわるものだから、昌達が戦闘を繰り広げる部屋はそこらじゅうキズや凹みといった外傷にとどまらず、部屋の隅に置かれたコンテナは使い物にならないどころか原型すらとどめていなかった。
取り合えずコンテナが大量につまれた一角に逃げ込んだ。
コンテナ同士の隙間は人一人が通れる程のスペースしかなく、コンテナ自体も背が高いため昌達の様子がフロストからは一切見えなくなってしまった。
フロストはコンテナが置かれた一角に近づき、辺りを見回すが昌達の様子が見えるはずも無い。
それに対してフロストが取った行動はレーザーだった。
フロストの頭部を人間の頭部で例えると、眉間の辺りからレーザーを発した。
このレーザーはとても強力で、コンテナを貫通して簡単に切った。
貫通したのはコンテナの表面にあたる壁だけではなく、反対側の壁も貫通するほどの威力を持っていた。
それを証拠に、斜めにレーザーが入ったコンテナは切られた線にそって上部が斜めに滑っていた。
切断面は赤くなっており、コンテナを着色していたペンキと思われる物が焼き焦げていた。
「そんなのありかよ!」
「レーザーも京一様がフロストに搭載した機能の一つです」
「だろうな」
少しおじさんに苛立ちを覚えてきそうだった。
異世界に来たからとはいえ、色々自由にやりすぎなのは明白だ。
現に今、おじさんの作った物が昌達に牙を剥いている。
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