死に戻り聖女ですが、4回目の人生では魔王を選んでみようかと思います。

2回目の人生

2回目の人生は「簡単」

魔王との激しい戦いの末。
何とか魔王を倒して、世界に平和をもたらすことが出来たと思ったのですが……

「我が愛しき娘、セシリア。お前に命じる。勇者と共に、魔王を倒す旅に出なさい。魔王を倒して、この世界に平和をもたらすのだ」
「…………え？」

……どうして私は、旅立ちの日に戻ってしまっているのでしょうか？

目の前には、久しく会っていなかったはずのお父様がいます。
ここは……魔王城でなく、ルルパージュ王国の王城？

「初めまして、セシリア王女。俺は勇者、グレンだ！　一緒に頑張ろうなっ！」

さっきまで一緒に魔王と戦っていたはずの勇者様も、まるで初対面かのように、自己紹介をしています。
いったい何がどうなっているのでしょうか？

「貴様っ！　王女殿下に対して、なんて口の利き方を！！」
「ひっ！　す、すみません！　俺、田舎から出てきたばっかりで、マナーとかよく分からなくて……」
「貴様が聖剣に選ばれた勇者でなければ、不敬罪で首を落としているところだぞ！」
「騎士団長、そのくらいにしてやれ。世界の平和は、聖剣に選ばれたこの者に託されておるのだから」
「……はっ」

勇者様が怯えた様子で謝って、騎士団長が余計に怒って。
見かねたお父様が宥なだめるところまで、昔に見た記憶のまま。

これはいったい……？
私は夢でも見ていたのでしょうか？

三人のやり取りをぼんやり見ながら、私は自分の頬を引っ張ってみました。

ーー普通に痛いです。

お腹を貫かれるよりはずっとマシですが、普通にジンジンと痛いです。
……そう言えば私、魔王の攻撃でお腹を貫かれたんですよね。

ちらりと見たお腹は、当然ですが穴は開いていません。
それどころか、最近は着ていなかったはずのドレスに包まれていました。

淡い緑色の、繊細なレースで飾られた綺麗なドレス。
このドレスは、昔の私の一番お気に入りの物でした。

ですが魔王討伐の旅の中では、動きにくいドレスなんて邪魔でしかありません。
最近は着る機会なんてなかったはずなのにどうして……？

「セシリア？」
「セシリア王女？」
「王女殿下？」

頬をつねりながら、ぼうっとドレスを眺めていた私は、お父様と勇者様と騎士団長に問いかけられて、慌てて頬を離しました。

「ご、ごめんなさい。ええっと……その……私が勇者様の旅に着いて行けるなんて光栄で……あんまりにもびっくりしてしまい、つい夢かと思ってしまいました」
「そ、そうか？　光栄ということは……旅に同行するのは、行ってくれるということか？」
「はい、お父様。お役目を頂けたこと、嬉しく思います。ルルパージュの名に誓って、世界に平和をもたらすことを誓います」

なんとか誤魔化して、私は「よろしくおねがいします」と勇者様に向かって頭を下げます。

「足手まといにならないように頑張ります。勇者様、よろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いします、セシリア王女」
「セシリアと呼んで頂いて大丈夫ですよ？　これから魔王を倒すまで、一緒に旅をする仲間ですから」

遠い記憶に残っている勇者様とのやり取りを繰り返しながら、やっと私はこれが夢ではなく、現実だと自覚してきました。

ーー私は魔王に殺されたはずです。でも、今は生きてる……？
ーーこれが夢ではないとしたら、さっきまでの光景が夢？

夢だったとしたら、酷くリアルな夢でした。
お腹を貫かれた痛みまで、今でもはっきりと思い出せます。
……それに、妙なことがもう一つあります。

ーー魔法の知識がすごく増えていますね。

魔王討伐の旅を開始した時点では知らなかったはずの魔法の記憶が、私の記憶の中にはっきりと残っています。

ーーさっきまでの光景が夢でないとしたら……時間が巻き戻った……？

いくら考えても、凡才の私には何が何だか分かりません。
けれど……

「……この記憶があれば、前回よりも完璧に魔王が倒せるかもしれません」