悪役令嬢だそうですが、攻略対象その5以外は興味ありません

千 遊雲

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番外編~

巨人は、異国の民に振り回される1

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「誰もアタシの生死なんて、興味もないさ」

 そう言う彼女は笑っていた。
 「パチリ」と、暗闇の中で燃える焚火が音を立てる。
 彼女の瞳の色と同じ赤色を眺めながら、ガストンは掛ける言葉を探していた。

「…………」

 不器用なガストンは彼女に、どんな言葉を掛ければ良いのか分からなくて……
 黙り込んでしまったガストンに、彼女は一瞬だけ目を伏せてから口を開いた。

「まぁ、気楽なモンだよ。アタシが死んだところで、悲しむヤツだって居ないからね」

 なんでもない事のように笑っていて。なのに、彼女はどこか寂しそうな表情をしていた。


  ◇  ◆  ◇


「……あ」

 の存在を、ガストン・ロックスは前から知っていた。
 隣国である光華という国特有の服……着物キモノに身を包み、どこか浮いた存在感を放ちながら、それでも凛と背筋を伸ばす女性。
 漆黒の髪に、燃える炎のような赤眼の……名前は確か、「リンドウ」だったか。

 異国の名前を覚えるのを、ガストンは少し苦手としていた。
 少し考えて、竜胆りんどうという文字を頭に浮かべる。確かそんな名前だった筈だ。
 他人にあまり興味のないガストンが、どうして竜胆のことは知っていたかと言えば……

「アァン? 他国の人間が、ユーフォルビアの王都で冒険者だァ? 冗談じゃねェ!」

 彼女が少し、有名人だったからである。
 ……あまり、良い意味では無く。

 他国からやって来た人間が冒険者になることを、良しとする者は多くない。
 他の冒険者から因縁をつけられている竜胆の姿を見たガストンは、思わず「あ」と、小さな声を漏らしてしまったのだった。

 冒険者は基本的に、自己責任。
 それはギルドの中でも変わりはなく、揉め事にギルド職員が入ってくることは滅多にない。
 竜胆が他国の人間だからと言う訳ではなく、冒険者のスタンスがそういうものだから、それは仕方のないことだろう。
 故にガストンは、今回の揉め事も仲裁されることは無いだろうと考えた。

 ――他国の人間だからと言っても、女にまで喧嘩を売るのは見境が無い。

 そう考えたガストンは、竜胆を助けに入ろうと立ち上がって……

「ハッ! アタシよりも弱い奴に、何を言われたって痛くも痒くもないね」
「ンだとこのアマァ!!!」
「弱い奴を弱いって言って、何が悪いんだい。……あぁ、アンタのちっぽけなプライドを傷つけちまって悪かったね」

 ……見事に舌戦を繰り広げ始めた竜胆の姿に、思わず足を止めてしまった。

 確かに竜胆は気の強そうな見た目をしていたが、まさか積極的に喧嘩を買うなんて。
 ガストンは見た目こそ恐怖されるような厳ついものだったけれど、性格は穏やかな人だったから予想すら出来なかったのだ。

「テメェ…!!」

 ガストンが竜胆の事をまじまじと眺めている間に、冒険者の男が剣を抜いた。
 恐らく銅製の剣だろう。あまり上等なものとは言えない剣を見る限り、男の実力はそれほど高くないと予想出来た。

「女だからって容赦はしねェぞ!!」

 男はほとんど戦闘慣れをしていないのだろう。
 剣を抜いたまま、竜胆に斬りかかるでもなく棒立ちで。本気で人を斬るつもりならば、剣を抜いた後の行動を躊躇うなんて悪手でしかない。
 ガストンは何をしているんだと、呆れて少し目を細めた。

「容赦はしないって? それはアタシの台詞だよッ!」

 そんな男に対して、竜胆は腰に下げていた特殊な形の剣……光華国で言うところのカタナの柄に手をかけて、一瞬も躊躇うことなく鞘に収まったままの刀で男を殴った。

 見事な一撃だった。
 見ていたガストンが、思わず感心してしまう程には。

 恐らく、対峙していた男には目で追うことも出来なかっただろう。
 斬撃……というよりも、最早打撃だったが……それを食らった男は、勢いよく地面に転がって意識を失った。

「フン。アタシが刀を抜かなかったことに感謝しな」

 威勢よく言い放った竜胆の姿に、見物をしていた冒険者の一人が「ヒュウ」と口笛を吹いた。
 仲間内の喧嘩で誰かが倒れるなんて、冒険者ギルドの中では珍しくもない光景である。
 竜胆を咎める者はどこにも居なかった。
 結局のところ、冒険者の行動は自己責任。のされてしまったとしても、それは変わらないのだから。

 彼女も気にした様子もなく、木製のボードから依頼書を一枚剥ぎ取って去って行く。
 竜胆が通り過ぎて行った時、洞窟の最奥の、しんと静まった暗闇の様な黒色の髪が、ガストンの目の前でさらりと揺れた。

「何を見ているんだい?」
「……いや」

 綺麗な漆黒に目を奪われていたガストンの視線気が付いた竜胆は、ギッと鋭い視線を向けて、刀の柄に手を置いた。
 「やるつもりなら受けてたつ」と、赤い瞳が告げていた。
 争う意思は無いとガストンが視線を逸らせば、竜胆はそれ以上何も言わず、冒険者ギルドの外へ出て行った。



 ――それが、ガストンと竜胆の出会いだった。



 それよりも前に、すれ違ったりしていたかもしれないけれど、お互いがお互いを認識したのは初めてのことだった。

 まるで化け物のように怖がられることの多いガストンに、物怖じしない竜胆の姿が物珍しくて……
 腫れ物扱いされる竜胆のことを、助けに入ろうとしていた人物が居たなんて気が付かなくて……
 ……けれど二人とも、そんな出会いの記憶は直ぐに薄れていってしまった。
 忙しい日々の中で、そんな事もあったかと、思い出すことも無くなっていき……


  ◇  ◆  ◇



「風魔法<風刀ふうじん>、一刀両断!!!」
「………土魔法<岩の巨拳ジャイアントロックフィスト>」

 ……二人が再会をしたのは、ガストンが冒険者を引退した後。
 魔物が王都に攻めてきた、そんな戦いの最中の事だった。


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