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陞爵、そして…

16.

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 帝都へ出向きます。

 陞爵である以上、帝国貴族に賞与を授けられるのは皇帝陛下のみが実行できる訳で…。
 雲の上の方と思っていたんだけど…。オレが平民だったらギルマスや場合によってはランバー辺境伯が、って事で終わったと思う。

 母さんメーヴが騎士爵位を持ってる貴族である以上、オレも貴族の端くれなんだと。帝国貴族に1代限りとかは無いし、例え片親だけで有ろうとも貴族の子は貴族、という事らしい。
 貴族の証たる姓は、何と法皇家と同じクロノなんだと。騎士爵位を得た時に家名をどうするかと聞かれた母さんメーヴは『どうでもいいかな?それじゃ、エフィと一緒で』と言ったとか。帝国官僚は焦ったみたいだけど、当の法皇様エフェメラさんが『ならウチの親戚ね』と安直な同意をなされて、末席傍流の家系になったらしい。いいのか?ホントに。
 ただ、それくらいの交流と友情は母さんメーヴ等には確かに存在していて、2人が有無を言わせなかったと。そうなると皇家すら文句を言うのは難しいみたいで…。
 だからオレの本名はロディマス=レノ・クロノと言うらしい。今回陞爵する事によって、騎士階級たる称号のレノが外れ、下位爵位を表すパイルになるみたいだけど、一般的にはこう言う称号まで名乗る事はないみたい。

 ホント、どうでもいい。


 皇宮にて陛下から陞爵を告げられ、無事に?オレは准男爵となった。ロディマス=パイル・クロノ准男爵、通称『クロノ准男爵ロディマス』。
 勿論領地とかは無い法衣貴族。只貴族年金が僅かだけど貰える事になった。
 で、オレと誼みを結びたい貴族もろもろが誘いを持ってこようと、謁見の間から出て来るのをギラついて待っていたみたいだけど、助かった事にオレはリスティア皇女殿下から呼び出しを受けた。
 別室で待つ事数十分。入って来たのは皇女殿下と、その兄君2人。つまりルシアン皇太子殿下とその兄なのに第2皇子であるルキアル殿下も一緒。
 マヂ?准男爵位じゃ皇太子と同席なんて有り得ないよ。慌てて席から立つと下座に下がり跪く。

「構わない、准男爵。ここだけの話にしたい。着座してくれ」
 椅子に掛けながら笑い掛けるのは皇太子殿下。って、ナニコレ?どんな状況だよ?
 半信半疑のままオレは席に着く。
「まずは感謝を。妹の恩人なのだからね」
「滅相もございません。それに皇女殿下は率先して街を守ろうとしておりました。であればそこに居た冒険者として当然の事と」
 慣れない口調、うん、まだ噛んでない。けどボロ出そう。
「そして頼みがあるんだ、准男爵」
 頼み?そう言ったのはルキアル皇子?

 兄なのに第2皇子なのは、生母が皇后じゃないから。とは言え男子を産んでいるから嫡妃の地位。これは皇后に次ぐ妃の位。以下側妃と続く。俗に言う側室ね。陛下の妻は全て妃だから。

「私達の境遇、他醜聞は耳にしていると思う」

 太子としてルシアン殿下が立っているのに後継者問題が燻ってる。武力的は兎も角、政治家としてはルキアル殿下の方が遥かに優れてるんだと。皇帝としての威厳カリスマも。
 ルシアン皇太子は、その人の良さが面に出過ぎてるんだ。だから威厳に欠けると言う声も多く、結果ルキアル殿下を担ぎ出そうとする一派が暗躍しているとか。
 リスティア皇女殿下は自由人過ぎてそもそも皇家処か貴族らしからぬという風聞があり、権力闘争からはかけ離れてる。確かに皇位継承権は持ってるみたいだけど。

「皇帝陛下も我等を競わせそうとしていてね。が、実際の我等はとても仲の良い兄弟なんだ。私は皇帝よりも宰相としてルシアン皇太子が即位された時に腕を奮いたいんだが、中々そうもいかなくてね」
「だから、不本意だけど我等の互いの派閥に属する貴族等が君を取り込もうと必死なんだ。何せ英雄級ランクA相当のテイマーなんて前代未聞だ。従魔がフェンリルにグリフォンだと言うのも。だからこのまま、と言うのも君に不本意かもしれないが妹の派閥の1貴族としていて欲しいんだよ」

 うわぁ。思ってる以上に面倒くさくないか?
 いや、顔には出さないけど。

「不本意とは言いませんが、オ…私は皇女殿下の派閥の一員と目されているのですか?」
「それについても謝罪させて下さい。四天騎士のマゼールが流した噂が、もう取り消せない程の信憑性をもって広まってしまっていて」

 やっぱ、あの人相当な策士だ。

「その上で、どちらかと言えば弟寄りに、皇太子派に近い存在でいて欲しいのだ」
「兄上?それは?」
「私を担ぎ出されても困る。なので少しパワーバランスを変えたく思うのでね」

 ちょっと黒笑なのが気になるなぁ。

「兄様、彼の存在は少しとは言えませんよ?」
「ならばこそリスティアの派閥なのだよ。確かにお前は中立であろう。が派閥の者は必ずしもそうではない。我等兄弟の顔色を見て日和っているのではないのか?」

 マヂで政治の話になってるよ、コレ。でもオレとしてはルキアル皇子にかなり好感を持てた。帝国の未来、かなり先迄見通してないか?

 秘密会談?は中々団欒的に終わって、オレは皇宮の皇家通用門からコッソリと出た。宮殿正門には各貴族使用人がオレを手ぐすね引いて待っているらしかったそうな…。

 宮中では正装とも言うべき服装だったオレも、出てくる前にいつものカッコに戻っておいた。そう、テイマーとしてのオレの姿に。
 ハードレザーアーマーにロングソード。肩にピクシー。まだ子供と言える容貌のオレは見た目だけは駆け出し冒険者だ。オレのコンプレックス兼トレードマークの波眼は童顔に見えて一層容姿を幼くしている。だから多分貴族の使用人達は全く気付かない。

 帝都中心街に繰り出した時には、もうその他大勢モブとも言える存在にオレはなっていた。串焼きに喰らいつつ街の喧騒の中を歩いていると、何やら酔っ払いの起こした様な騒ぎが。

 メイドが酔っ払いに絡まれている?
 その後ろにいるのは?街娘?じゃないよね、あの子。格好は庶民的なんだけど、何で言うか雰囲気?振る舞い?が貴族っぽい。メイドもどうやら護衛兼任みたいだし。うん、格闘慣れした雰囲気があるんだよね。酔っ払いは気付いてないみたいだけど。

 と、振り向いたその娘と目が合っちゃった。
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