出撃!特殊戦略潜水艦隊

ノデミチ

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驚異の潜水空母

14.

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 潜水母艦迅鯨。
 大正12年に竣工した日本海軍初の本格的な潜水母艦だ。それまでは商船の改造や旧式巡洋艦で代用してきた。14センチ連装砲2門を主兵装とし、最大速力16ノット、排水量5,610tと軽巡洋艦並の能力を持つ潜水戦隊旗艦として最初から設計・建造された迅鯨は、昭和14年に老朽艦として予備役となったが、対米戦に備えて現役復帰した。

「おお、よく来たな、南田君」
「古湊閣下、ご無沙汰しております」

 迅鯨の会議室。
 前原先任と共に呼び出された南田は、そこで第4艦隊第7潜水戦隊司令古湊少将と作戦参謀田中中佐、それにイ- 500の柴司令に山崎艦長、小島先任、イ- 401の有田司令と日高艦長と合流する。

「本来ならイ-501の真田艦長等もなのだが、501はもう作戦行動中でね」

 古湊少将の言葉を継いで、田中中佐が作戦を説明する。

「実は12月6日にアメリカと国交を断絶する旨通達する事になっています。これが実質上の戦線布告です。で、翌日か翌々日…、多分8日になるでしょう、501がニューヨーク沖に浮上し砲撃します。先ずはアメリカの玄関口たる自由の女神を破壊してアメリカの戦意を挫くのです」

 特殊戦略潜水戦隊が先陣をきる!

「この後南雲機動部隊の航空戦力が真珠湾を攻撃、太平洋艦隊を殲滅します。この時、第1目標は空母、ついで戦艦となります。機動部隊の空母赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴の6空母全ての航空戦力を使っての大攻勢を機動部隊航空参謀源田実中佐が立案、淵田美津雄中佐指揮の攻撃隊がこれを実施します」
「その真珠湾に先行して401と402には晴嵐で偵察を敢行、空母への空爆・雷撃を行って欲しい」
「イ- 500は?」
「空襲の後真珠湾に浮上し、軽傷の敵艦及び地上設備への砲撃を行います。基地諸共太平洋艦隊を消し去る、これが本作戦の概要です」

 山本五十六司令長官の短期決戦構想。
 その為には早めにアメリカを叩いて厭戦気分を増大させる事が肝要。

「そしてイ- 400ですが、パナマ運河を攻撃し封鎖して下さい」
「パナマ運河を?」
「そうです。太平洋艦隊を殲滅しても、アメリカには大西洋艦隊がいます。これらが太平洋側へ来られては元の木阿弥です。パナマを封鎖し、太平洋を此方のテリトリーとする必要があるのです」
「その為の潜水空母だ。これは潜水空母でなくては出来ない戦略爆撃となる。南田君、責任重大だぞ」

 短期決戦の為の大攻勢。
 その作戦の全てに特殊戦略潜水戦隊が関わっている。

「君達は山本司令長官付きの独立戦略艦隊だが、今回は第7潜水戦隊がバックアップする形になる。必要と思われるモノを今日中に申請してくれ」

 いよいよ開戦。
 司令部を出た南田と前原を、後ろから有田司令が呼び止める。

「402は一緒じゃなかったのか?」
「途中、色々不具合が起こりまして、早い段階で一旦横須賀へ戻りました。明日には到着出来る筈と聞いております」
「そうか」
「いささか突貫工事過ぎたのではないでしょうか」

 アメリカとの関係が不穏になり「開戦やむなし」の雰囲気のせいと言えばそれまでなのだが、新造艦らしからぬ不具合が多過ぎた。
 それは有田も感じていたのだろう。前原の非難する様な口振りに素直に頷いたのだ。

 この間、柴は何も口を挟まなかった。
 基本、戦略砲撃潜水戦隊司令であり、特殊戦略潜水戦隊司令兼任ではあるものの、潜水空母は有田の指揮下にある艦船だからである。

「柴司令。場合によっては402は使えないかもしれません」
 振り向きざま有田が言い、柴も只頷くだけ。
 だが、作戦行動にそれ程齟齬を来たす訳でも無い。

 それぞれの艦に戻り、補給及び作戦準備に入ったのである。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

「パナマ運河封鎖ですか」

 イ- 400に戻った南田と前原は、当直で残っている幹部士官を集めると作戦内容を伝えた。

 矢上航海長、神田機関長、井上通信長、岸和田飛行長が当直で残っており、平松砲術長は当直ではなかったが、夕刻上陸すればと艦に留まっていた。

「確かに、潜水空母でなければ出来ない作戦ですね」
「やっと飛行隊の出番って訳ですね」
「そうだな。もう少し組立や発艦の訓練をしたかったが」
 南田艦長にとっては多少不安が残る。

 トラック環礁に着くまで、何回か発艦及び着水訓練をしたのだが、組立時間がまだまだ及第点をつけられない上に、2番機操縦士の笠原飛行曹長の技量が低く、着水地点が下手すれば300mほどズレてしまう。こうなると回収も難しい。

 また組立発艦が1機あたり2時間近くかかるのも問題で、3機だと単純に6時間以上掛かる話となる。夜半の出撃でも夜明けまでかかってしまっては哨戒艇等に見つかってしまう。
 せめて4時間半で終わらせられる様特訓を重ねたかった。南田には忸怩たる思いがあった。

「だが、もう待ったなしだ」
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