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急転
29.
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「イ- 501と2艦での作戦ですか?」
「柴少将は兎も角、有田大佐がよく納得したものだ」
「艦長への信頼と、ある意味の…」
「遠慮は要らんよ、岸和田大尉」
苦笑する南田艦長につられて、幹部も苦笑いが溢れる。
厄介払い。
有田大佐の不況を買っている艦長2人が南田と真田なのだから。
と、そこへ。
「こちらでしたか、艦長。実は石川聴音長が艦隊規模のスクリュー音を捉えたと」
艦長付き士官でもある航海士官斉藤少尉が伝令として来る。
「ひょっとして『ホーネット』ですかね?」
「だとすれば、とんでもない幸運だがな」
今回、イ- 400はとんでもなくついていた。
特殊戦略潜水戦隊が必死の捜索を続けているアメリカ太平洋艦隊最後にして唯一の空母ホーネットを捉えたのである。
「少し遠いな」
「艦長、ここは我々飛行隊の出番だと思います」
岸和田飛行長が、少し意気込んで具申してくる。
「戦術的にはそうだろうが」
機動艦隊への空襲。
たった3機の水上戦闘機では、それは死地に赴くと言っていい。
「3機とも雷装で出ます。艦長、やらせて下さい」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
空母ホーネットに座乗するフレッチャー提督は勿論、艦長サイモン大佐も、ホーネットが唯一稼働中の空母だと言う事で細心の注意を払っていた。
その為、艦載機の数機を上空警戒索敵機として上げていたのだが、そろそろ日没も近付いてきていた。
「提督」
「そうだな。薄暮での着艦も厳しい。上空警戒機を戻せ」
どうしても常識で判断してしまう。
アメリカ人にとって、無理なモノは不可能だと。
最後の機が着艦した後だった。
不幸なタイミングとはこの事。この時のホーネットはとことんついてなかった。
「て、敵機襲来!」
レーダーが3機の飛行機を捉える。
そして哨戒中の駆逐艦より連絡が…。
「敵機は水上機です!」
「総員!非常態勢‼︎ 迎撃せよっ!」
ズガガガーン!ドガガーン!ドドーン‼︎
哨戒中の駆逐艦が吹き飛ぶ。
そして、艦尾からの衝撃が。
「敵魚雷着弾!艦尾被弾‼︎」
「被害状況は?」
「左舷スクリュー大破。舵も損傷している模様」
「敵潜は何処から撃ってきたんだ」
「敵機!魚雷発射‼︎」
3機の晴嵐はホーネットのみを雷撃すると、そのまま一目散に飛び立っていったのである。
そして…。
ズガガガーン!ドガガーン!ドドーン‼︎
左舷に3発とも喰らってしまった。
「被害状況は?」
「ダメです。艦が傾きます」
「やむを得ない。右舷注水。敵機は戻って来ないな!あの方角は?」
「クェゼリン諸島と思われます」
「あそこは日本軍の…、そういう事か。この薄暮、いや、もうすぐ宵闇となる時間では着艦収容は不可能だが、駐屯地ならば話は別だ」
「日本軍は、無茶をすると思ってましたがね」
「それだけ、発艦させた艦長、いや司令か?優秀な男なんだろう。攻撃が続くと思うかね?艦長」
「こんなノロノロのスピードしか出せないのでは、例の潜水空母がどれだけの速力があるかは分かりませんが、おそらくは」
「それにしても、何処から敵潜は撃ってきたのでしょうね」
ロングランスと呼ばれた日本軍の酸素魚雷の航送距離は、アメリカの想像を超えている。
ホーネットは右舷スクリューしか稼働していない。理屈としても、馬力は半減したのだ。
「やむを得ない。残った駆逐艦は何隻いる?その内の2隻で曳航させろ」
艦尾から浸水し、平衡の為に逆側にも注水したホーネットを曳航するのは、船体に見合わぬ馬力の機関を持つ駆逐艦とは言え、かなり厳しい。
「これでは只の射的だな。やむを得ない」
何度目かの「やむを得ない」だったろうか?
フレッチャー提督は、ホーネットの自沈を決意する。
「空母の死守が至上命令だった筈です」
艦長や参謀も反対する。だが。
「優先するのは人命だ。兵だよ。我が合衆国の工業力は空母の数隻、直ぐに造り出せると私は信じる」
「ですが」
「考えてもみよ。敵機はそのまま帰投した。クェゼリンは然程遠くない。じきに敵艦が押し寄せて来るぞ。結果は同じだ。いや、兵を損なう分尚悪い」
勇猛果敢な海賊と称されるフレッチャーではあるが、決して猪突猛進な好戦的軍人と言う訳ではない。これは怒れる猪とまで呼ばれたハルゼーにしても同じだ。その様な単純な者を、アメリカ海軍は将に、艦隊司令にはしない。
避難退艦終了後、味方駆逐艦の魚雷によりホーネットは沈んだのである。
この時、アメリカは急ピッチで空母を建造し、またイギリスからも2隻の空母を借り入れ、大西洋を航行中である。
だから一時的な話なのだ。
太平洋艦隊より空母が消滅した期間は…。
報告を受けたキングは、フレッチャーの判断を是としつつも落胆を隠せない。
「アメリカは太平洋を守り切れるのか?」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
同じ頃、イギリスもまた同様の報告を受けていた。
「閣下、これでは我が方の空母も」
「仕方ないな。まだ、日本と交渉するまでに至っておらんのだ」
「日本は応ずると思いますか?」
「可能性はある。彼の国には親英派も多い。我等が思う程英米一括りでは無い様だぞ。それも皇室や政府の中にな」
英日和睦が成れば、ヒトラーは激怒して日本をも敵と見做すやもしれぬ。少なくとも同盟は解消されるだろう。
「それに、例のビザの件も有ります」
リトアニアの杉浦大使がユダヤ人に対して出国ビザを発行し続けていた件は、ドイツは勿論、イギリスもユダヤ難民がイギリスへ押し寄せてくるのでは?と駐日大使が抗議していたが、松岡外相は無視していた。つまり、松岡は知っている事になる。
ドイツと日本は、そこまで元々親密ではない。
「アメリカが何と言うかが問題だな」
ルーズベルト大統領が、何故あれ程日本憎しに傾いているのかが、よくわからない。
「トルーマンの方が呑んでくれそうなのだがな」
この世界のトルーマン副大統領は、実は野党か?と思われる程ルーズベルトを糾弾している。
それ程、対日戦の状況が悪いのだ。
「今、倒すべき相手はヒトラーだ。その為には日本と結ぶ事もやぶさかではない。それに彼等はヒトラーよりはマシだよ」
「柴少将は兎も角、有田大佐がよく納得したものだ」
「艦長への信頼と、ある意味の…」
「遠慮は要らんよ、岸和田大尉」
苦笑する南田艦長につられて、幹部も苦笑いが溢れる。
厄介払い。
有田大佐の不況を買っている艦長2人が南田と真田なのだから。
と、そこへ。
「こちらでしたか、艦長。実は石川聴音長が艦隊規模のスクリュー音を捉えたと」
艦長付き士官でもある航海士官斉藤少尉が伝令として来る。
「ひょっとして『ホーネット』ですかね?」
「だとすれば、とんでもない幸運だがな」
今回、イ- 400はとんでもなくついていた。
特殊戦略潜水戦隊が必死の捜索を続けているアメリカ太平洋艦隊最後にして唯一の空母ホーネットを捉えたのである。
「少し遠いな」
「艦長、ここは我々飛行隊の出番だと思います」
岸和田飛行長が、少し意気込んで具申してくる。
「戦術的にはそうだろうが」
機動艦隊への空襲。
たった3機の水上戦闘機では、それは死地に赴くと言っていい。
「3機とも雷装で出ます。艦長、やらせて下さい」
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空母ホーネットに座乗するフレッチャー提督は勿論、艦長サイモン大佐も、ホーネットが唯一稼働中の空母だと言う事で細心の注意を払っていた。
その為、艦載機の数機を上空警戒索敵機として上げていたのだが、そろそろ日没も近付いてきていた。
「提督」
「そうだな。薄暮での着艦も厳しい。上空警戒機を戻せ」
どうしても常識で判断してしまう。
アメリカ人にとって、無理なモノは不可能だと。
最後の機が着艦した後だった。
不幸なタイミングとはこの事。この時のホーネットはとことんついてなかった。
「て、敵機襲来!」
レーダーが3機の飛行機を捉える。
そして哨戒中の駆逐艦より連絡が…。
「敵機は水上機です!」
「総員!非常態勢‼︎ 迎撃せよっ!」
ズガガガーン!ドガガーン!ドドーン‼︎
哨戒中の駆逐艦が吹き飛ぶ。
そして、艦尾からの衝撃が。
「敵魚雷着弾!艦尾被弾‼︎」
「被害状況は?」
「左舷スクリュー大破。舵も損傷している模様」
「敵潜は何処から撃ってきたんだ」
「敵機!魚雷発射‼︎」
3機の晴嵐はホーネットのみを雷撃すると、そのまま一目散に飛び立っていったのである。
そして…。
ズガガガーン!ドガガーン!ドドーン‼︎
左舷に3発とも喰らってしまった。
「被害状況は?」
「ダメです。艦が傾きます」
「やむを得ない。右舷注水。敵機は戻って来ないな!あの方角は?」
「クェゼリン諸島と思われます」
「あそこは日本軍の…、そういう事か。この薄暮、いや、もうすぐ宵闇となる時間では着艦収容は不可能だが、駐屯地ならば話は別だ」
「日本軍は、無茶をすると思ってましたがね」
「それだけ、発艦させた艦長、いや司令か?優秀な男なんだろう。攻撃が続くと思うかね?艦長」
「こんなノロノロのスピードしか出せないのでは、例の潜水空母がどれだけの速力があるかは分かりませんが、おそらくは」
「それにしても、何処から敵潜は撃ってきたのでしょうね」
ロングランスと呼ばれた日本軍の酸素魚雷の航送距離は、アメリカの想像を超えている。
ホーネットは右舷スクリューしか稼働していない。理屈としても、馬力は半減したのだ。
「やむを得ない。残った駆逐艦は何隻いる?その内の2隻で曳航させろ」
艦尾から浸水し、平衡の為に逆側にも注水したホーネットを曳航するのは、船体に見合わぬ馬力の機関を持つ駆逐艦とは言え、かなり厳しい。
「これでは只の射的だな。やむを得ない」
何度目かの「やむを得ない」だったろうか?
フレッチャー提督は、ホーネットの自沈を決意する。
「空母の死守が至上命令だった筈です」
艦長や参謀も反対する。だが。
「優先するのは人命だ。兵だよ。我が合衆国の工業力は空母の数隻、直ぐに造り出せると私は信じる」
「ですが」
「考えてもみよ。敵機はそのまま帰投した。クェゼリンは然程遠くない。じきに敵艦が押し寄せて来るぞ。結果は同じだ。いや、兵を損なう分尚悪い」
勇猛果敢な海賊と称されるフレッチャーではあるが、決して猪突猛進な好戦的軍人と言う訳ではない。これは怒れる猪とまで呼ばれたハルゼーにしても同じだ。その様な単純な者を、アメリカ海軍は将に、艦隊司令にはしない。
避難退艦終了後、味方駆逐艦の魚雷によりホーネットは沈んだのである。
この時、アメリカは急ピッチで空母を建造し、またイギリスからも2隻の空母を借り入れ、大西洋を航行中である。
だから一時的な話なのだ。
太平洋艦隊より空母が消滅した期間は…。
報告を受けたキングは、フレッチャーの判断を是としつつも落胆を隠せない。
「アメリカは太平洋を守り切れるのか?」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
同じ頃、イギリスもまた同様の報告を受けていた。
「閣下、これでは我が方の空母も」
「仕方ないな。まだ、日本と交渉するまでに至っておらんのだ」
「日本は応ずると思いますか?」
「可能性はある。彼の国には親英派も多い。我等が思う程英米一括りでは無い様だぞ。それも皇室や政府の中にな」
英日和睦が成れば、ヒトラーは激怒して日本をも敵と見做すやもしれぬ。少なくとも同盟は解消されるだろう。
「それに、例のビザの件も有ります」
リトアニアの杉浦大使がユダヤ人に対して出国ビザを発行し続けていた件は、ドイツは勿論、イギリスもユダヤ難民がイギリスへ押し寄せてくるのでは?と駐日大使が抗議していたが、松岡外相は無視していた。つまり、松岡は知っている事になる。
ドイツと日本は、そこまで元々親密ではない。
「アメリカが何と言うかが問題だな」
ルーズベルト大統領が、何故あれ程日本憎しに傾いているのかが、よくわからない。
「トルーマンの方が呑んでくれそうなのだがな」
この世界のトルーマン副大統領は、実は野党か?と思われる程ルーズベルトを糾弾している。
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