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急転
30.
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イギリス、ロンドン。
そのウェストミンスター区にある政庁の一室。
チャーチルの前にいるのは、元駐日大使ロバート=クレイギーだ。
「君は最終報告書で『日本との戦争は不可避ではなかった』と述べておるが」
「少なくとも陸軍省は日本を潜在的同盟国とみていました。対ソ連、対共産への問題と再興するドイツへの対応。日本が味方である方が国益に適うと。ならばこそ、陸軍省は日英同盟の延長を求めていた筈です。ですが、閣下はアメリカとの一致協力を優先されました」
日本から送還され帰国したクレイギーは、イギリス政府の極東政策を痛烈に批判し、激怒したチャーチルは、彼の報告書を封殺し閲覧禁止に近い形で公文書官に保管した。
「『英日間の対立は、70%の偏見と20%の誤解のせいで、難題は10%にすぎない』君の報告書には、その様にあったと記憶しとるが?」
「仰る通りです」
「その10%はかなりの難題かね?」
「日本の望む国益と我等の国益は相容れぬモノが有ると思えますので」
チャーチルは暫し考え込む。
「その上で日本と、同盟を再構築出来るかね?」
「少なくとも共産圏は共通の敵だと」
「ドイツに対しては?」
「日本海軍はヒトラーを全く信用しておらぬ様見受けられます。彼等は、例の特殊潜水艦を友軍にも秘匿しております」
インド駐留のマウントバッテン将軍からは援軍の催促がひっきりなしだ。ドイツは中東からアジア中央部へ着実に手を伸ばしつつある。
インドシナに進駐した日本も、今はフィリピンのアメリカ軍に意識が向いているが、やがてインドへ向かってくるであろう事は子供でも分かりそうな理屈だ。
「インドへの挟撃は避けたい。それにライン諸島の事もある」
先日、例の特殊潜水艦隊によりクリスマス島が攻略されてしまった。この事によりイギリスはオーストラリアへの援護補給も難しくなりつつある。
「日本が此方に付いてくれれば、この懸念が全て解決する。この際インドシナはくれてやっていい。がインドは護らねばならん」
クレイギーは、特使として日本へ向かった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
日本に対しては敵性共産圏国家としていたソ連ではあるが、対ドイツ戦においては味方にすべきだとチャーチルは考えていた。
この世界で、現時点ではまだ独ソ不可侵条約が有効であり、まだ両国に戦端は開かれていない(史実では1941年6月だが、この世界は42年の2月)。
とは言え、ドイツ軍はバルカン半島へ進出し出し、その方面への勢力拡大を図っていたソ連との緊張は高まりつつあった。
大戦当初は、ポーランドを共に占領していた両国である。イギリスを下す為の不可侵条約だったのだが、中々折れないイギリスに対しドイツは矛先を変えようとする雰囲気が見え始めたのだ。
ソ連も、その対策として挟撃されないよう日ソ不可侵条約を結ぶ。日本にとって、本来は対ソ連への対策としてのドイツとの同盟であったが、先にドイツがソ連と不可侵条約を結んでしまい、しかもその事を日本に知られない様秘密裏に行っていた為、慌ててソ連と協定を結ぶ事になった経緯がある。日独同盟を熱望していた陸軍でさえドイツの行動に憤慨し、海軍に至っては「それ見た事か」とドイツとの同盟を見直す事すら言い出していたのだ。
それもあり、日本の秘匿特殊戦略潜水艦隊の事は潜水艦運用の先輩格にも関わらずドイツ海軍に隠し通していた。
奇想天外な決戦兵器を好むヒトラーにとって、日本が自国海軍も持たない戦略大型潜水艦を持ち、それが太平洋で大暴れしている事について良い顔処か納得すら出来ず、海軍への、此れを超える秘匿兵器潜水艦の開発と日本海軍への特殊戦略潜水艦の提供を要求している状況だった。
「日本が此方の提案に乗ってくれれば…」
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「それでは、陛下は」
「非常に前向きだ。元々イギリス王室とはご縁もあるのだから」
「で、東條陸相は」
「彼の方が陛下の意向に逆らうと思えるか?」
東條英機の盲信的とも言える天皇への崇拝はつとに有名である。
「及川海相は」
「海軍は早期講和を求めてる。イギリスとの単独講和は渡りに船の筈」
と、そこへ。
「閣下ぁー!臨時速報です‼︎」
側近の尾形某が駆け寄ってきた。
「ドイツが、ソ連に攻め入りました‼︎」
ドイツ軍、バルバロッサ作戦発動。
時に、西暦1942年3月初旬の事である。
そのウェストミンスター区にある政庁の一室。
チャーチルの前にいるのは、元駐日大使ロバート=クレイギーだ。
「君は最終報告書で『日本との戦争は不可避ではなかった』と述べておるが」
「少なくとも陸軍省は日本を潜在的同盟国とみていました。対ソ連、対共産への問題と再興するドイツへの対応。日本が味方である方が国益に適うと。ならばこそ、陸軍省は日英同盟の延長を求めていた筈です。ですが、閣下はアメリカとの一致協力を優先されました」
日本から送還され帰国したクレイギーは、イギリス政府の極東政策を痛烈に批判し、激怒したチャーチルは、彼の報告書を封殺し閲覧禁止に近い形で公文書官に保管した。
「『英日間の対立は、70%の偏見と20%の誤解のせいで、難題は10%にすぎない』君の報告書には、その様にあったと記憶しとるが?」
「仰る通りです」
「その10%はかなりの難題かね?」
「日本の望む国益と我等の国益は相容れぬモノが有ると思えますので」
チャーチルは暫し考え込む。
「その上で日本と、同盟を再構築出来るかね?」
「少なくとも共産圏は共通の敵だと」
「ドイツに対しては?」
「日本海軍はヒトラーを全く信用しておらぬ様見受けられます。彼等は、例の特殊潜水艦を友軍にも秘匿しております」
インド駐留のマウントバッテン将軍からは援軍の催促がひっきりなしだ。ドイツは中東からアジア中央部へ着実に手を伸ばしつつある。
インドシナに進駐した日本も、今はフィリピンのアメリカ軍に意識が向いているが、やがてインドへ向かってくるであろう事は子供でも分かりそうな理屈だ。
「インドへの挟撃は避けたい。それにライン諸島の事もある」
先日、例の特殊潜水艦隊によりクリスマス島が攻略されてしまった。この事によりイギリスはオーストラリアへの援護補給も難しくなりつつある。
「日本が此方に付いてくれれば、この懸念が全て解決する。この際インドシナはくれてやっていい。がインドは護らねばならん」
クレイギーは、特使として日本へ向かった。
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日本に対しては敵性共産圏国家としていたソ連ではあるが、対ドイツ戦においては味方にすべきだとチャーチルは考えていた。
この世界で、現時点ではまだ独ソ不可侵条約が有効であり、まだ両国に戦端は開かれていない(史実では1941年6月だが、この世界は42年の2月)。
とは言え、ドイツ軍はバルカン半島へ進出し出し、その方面への勢力拡大を図っていたソ連との緊張は高まりつつあった。
大戦当初は、ポーランドを共に占領していた両国である。イギリスを下す為の不可侵条約だったのだが、中々折れないイギリスに対しドイツは矛先を変えようとする雰囲気が見え始めたのだ。
ソ連も、その対策として挟撃されないよう日ソ不可侵条約を結ぶ。日本にとって、本来は対ソ連への対策としてのドイツとの同盟であったが、先にドイツがソ連と不可侵条約を結んでしまい、しかもその事を日本に知られない様秘密裏に行っていた為、慌ててソ連と協定を結ぶ事になった経緯がある。日独同盟を熱望していた陸軍でさえドイツの行動に憤慨し、海軍に至っては「それ見た事か」とドイツとの同盟を見直す事すら言い出していたのだ。
それもあり、日本の秘匿特殊戦略潜水艦隊の事は潜水艦運用の先輩格にも関わらずドイツ海軍に隠し通していた。
奇想天外な決戦兵器を好むヒトラーにとって、日本が自国海軍も持たない戦略大型潜水艦を持ち、それが太平洋で大暴れしている事について良い顔処か納得すら出来ず、海軍への、此れを超える秘匿兵器潜水艦の開発と日本海軍への特殊戦略潜水艦の提供を要求している状況だった。
「日本が此方の提案に乗ってくれれば…」
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「それでは、陛下は」
「非常に前向きだ。元々イギリス王室とはご縁もあるのだから」
「で、東條陸相は」
「彼の方が陛下の意向に逆らうと思えるか?」
東條英機の盲信的とも言える天皇への崇拝はつとに有名である。
「及川海相は」
「海軍は早期講和を求めてる。イギリスとの単独講和は渡りに船の筈」
と、そこへ。
「閣下ぁー!臨時速報です‼︎」
側近の尾形某が駆け寄ってきた。
「ドイツが、ソ連に攻め入りました‼︎」
ドイツ軍、バルバロッサ作戦発動。
時に、西暦1942年3月初旬の事である。
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