7 / 96
第1部1章 初仕事編
6 初仕事
しおりを挟む
「ここが私の執務室です」
水場で体を洗い流し、心身共にリフレッシュした承治は執務室と呼ばれる部屋に案内された。
手広なその部屋は、本棚に囲まれた大きなデスクを中心に、ソファーや丸テーブルといった調度品が揃えられている。
一見すると小奇麗な社長室のようだが、そこかしこに飾られている花や、テーブルに置かれたティーセットがどこか可愛らしさを演出していた。
また、建屋内を移動して分かったことだが、この世界に電気や上水道といったものはないらしい。廊下ですれ違った兵士達も剣や槍で武装しており、銃器は持っていなかった。
それらを踏まえると、この世界の科学レベルは地球換算でおおよそ中世後期相当といったところだろうか。
とりあえず現状認識を優先させたかった承治は、ヴィオラに質問をする。
「ええと、ヴィオラさんの仕事を手伝うのは構わないんですが、僕はこの国のこととか、この場所のこととか、ヴィオラさんのことを何も知りません。それをまず教えてもらえると助かるんですけど……」
その言葉に、承治を手近なソファーへ案内したヴィオラは対面に座って応える。
「ここは、カスタリア王が統べるカスタリア王国の王宮です。多種族国家であるカスタリアは、人類種を中心にエルフ、獣人の二大種族が公領を形成し、カスタリア王の下に仕えています。私は、そのエルフ族を代表して王を補佐する首席宰相の地位を拝命しています」
「首席宰相というのは、具体的に何をしているんですか?」
「そうですね……法務、外交、財政、公共事業といった軍事以外の内政を主に担当しています」
「ずいぶんと手広くやってますね。王様はあんまり政治に口を出さないんですか?」
その言葉に、ヴィオラはいささか表情を暗くする。
「実は、現国王であるカスタリア王三世は病に伏せっていまして、王妃も既に亡くなられています。その上、次期女王となられる第一王女ユンフォニア殿下もまだお若いため、現在は宰相である私が内政を一任されています」
その言葉に、承治は酩酊中に出会った少女ユンフォニア姫のことを思い浮かべる。
「なるほど……まあ、王族が政治を行える状態にないのは懸案事項だとしても、とりあえず国政で困っていることは特にないんですよね」
承治は、牢獄で老婆とヴィオラが語っていた話を思い出していた。
この国の伝承によると、転生者は国の窮地を救う存在らしい。しかしながら、現在この国は救世主を望むような窮地に陥っていないようだ。
ヴィオラは承治の言葉に首肯し、話を続ける。
「そうですね。二大公領や近隣諸国との関係は良好で、長らく戦争も起きていません。この国は平和そのものです。強いて言えば、いささか財政状況に問題はありますが……」
「財政ですか」
元事務屋である承治はその言葉に反応する。
「はい。昨今、直轄領内の各都市を管理する市政官が要求する公共事業の費用が嵩み、国庫を圧迫しています。カスタリア王は極力徴税額を増やしたくないとお望みなのですが、このまま行くと国庫が枯渇する恐れがあります。それが、私の抱える目下の問題です」
承治は国政に関わったことはないが、転生前は小さな会社の総務と財務を手広く担当していた。
企業や国というものは、有体に言えば人間の作りだした〝組織〟だ。
国を会社に例えれば、法律は社内規則であり、外交は取引、徴税は収益、そして公共事業は投資だ。国と会社は規模の大小が異なるだけで、その運営方法が大差ないことを承治は心得ていた。
だからこそ、承治はこの場で己の役目を見い出せるような気がした。
「ヴィオラさん。もしよければ、今の財政状況を詳しく教えてもらえませんか? もしかしたら、助言ができるかもしれません」
その言葉に、ヴィオラはエルフ特有の長い耳をピョコリと動かし、いささか驚いたような表情を見せる。
「ジョージさんは国政に関わった経験がおありなんですか?」
「いえ、たかだか百人程度の組織運営に関わっていただけです。そんなに大層なものじゃないですよ」
そんな謙遜にも関わらず、ヴィオラはパっと表情を明るくする。
「是非、私に助言をお願いします! 正直、私もたまたま宰相に選ばれただけで、お金の管理や政治には疎いんです……たとえ規模は小さくとも、組織運営の経験がある方が傍にいてくれると非常に助かります!」
そう告げたヴィオラは前のめりになって承治に迫る。
すると、豊満な二つの球体によって形成された大きな谷間と、見惚れるほどに美しい顔が眼前に迫った。
すごい特盛り! しかも美人!
などと余計なことを考えた承治は視線を逸らしてヴィオラに応じる。
「まあ、できる限りのことはやってみます……」
その言葉に対し、ヴィオラは承治の手を取り力強く握手をする。
成り行きとは言え、承治はそんな風にして他人に頼られるのも悪い気はしなかった。
水場で体を洗い流し、心身共にリフレッシュした承治は執務室と呼ばれる部屋に案内された。
手広なその部屋は、本棚に囲まれた大きなデスクを中心に、ソファーや丸テーブルといった調度品が揃えられている。
一見すると小奇麗な社長室のようだが、そこかしこに飾られている花や、テーブルに置かれたティーセットがどこか可愛らしさを演出していた。
また、建屋内を移動して分かったことだが、この世界に電気や上水道といったものはないらしい。廊下ですれ違った兵士達も剣や槍で武装しており、銃器は持っていなかった。
それらを踏まえると、この世界の科学レベルは地球換算でおおよそ中世後期相当といったところだろうか。
とりあえず現状認識を優先させたかった承治は、ヴィオラに質問をする。
「ええと、ヴィオラさんの仕事を手伝うのは構わないんですが、僕はこの国のこととか、この場所のこととか、ヴィオラさんのことを何も知りません。それをまず教えてもらえると助かるんですけど……」
その言葉に、承治を手近なソファーへ案内したヴィオラは対面に座って応える。
「ここは、カスタリア王が統べるカスタリア王国の王宮です。多種族国家であるカスタリアは、人類種を中心にエルフ、獣人の二大種族が公領を形成し、カスタリア王の下に仕えています。私は、そのエルフ族を代表して王を補佐する首席宰相の地位を拝命しています」
「首席宰相というのは、具体的に何をしているんですか?」
「そうですね……法務、外交、財政、公共事業といった軍事以外の内政を主に担当しています」
「ずいぶんと手広くやってますね。王様はあんまり政治に口を出さないんですか?」
その言葉に、ヴィオラはいささか表情を暗くする。
「実は、現国王であるカスタリア王三世は病に伏せっていまして、王妃も既に亡くなられています。その上、次期女王となられる第一王女ユンフォニア殿下もまだお若いため、現在は宰相である私が内政を一任されています」
その言葉に、承治は酩酊中に出会った少女ユンフォニア姫のことを思い浮かべる。
「なるほど……まあ、王族が政治を行える状態にないのは懸案事項だとしても、とりあえず国政で困っていることは特にないんですよね」
承治は、牢獄で老婆とヴィオラが語っていた話を思い出していた。
この国の伝承によると、転生者は国の窮地を救う存在らしい。しかしながら、現在この国は救世主を望むような窮地に陥っていないようだ。
ヴィオラは承治の言葉に首肯し、話を続ける。
「そうですね。二大公領や近隣諸国との関係は良好で、長らく戦争も起きていません。この国は平和そのものです。強いて言えば、いささか財政状況に問題はありますが……」
「財政ですか」
元事務屋である承治はその言葉に反応する。
「はい。昨今、直轄領内の各都市を管理する市政官が要求する公共事業の費用が嵩み、国庫を圧迫しています。カスタリア王は極力徴税額を増やしたくないとお望みなのですが、このまま行くと国庫が枯渇する恐れがあります。それが、私の抱える目下の問題です」
承治は国政に関わったことはないが、転生前は小さな会社の総務と財務を手広く担当していた。
企業や国というものは、有体に言えば人間の作りだした〝組織〟だ。
国を会社に例えれば、法律は社内規則であり、外交は取引、徴税は収益、そして公共事業は投資だ。国と会社は規模の大小が異なるだけで、その運営方法が大差ないことを承治は心得ていた。
だからこそ、承治はこの場で己の役目を見い出せるような気がした。
「ヴィオラさん。もしよければ、今の財政状況を詳しく教えてもらえませんか? もしかしたら、助言ができるかもしれません」
その言葉に、ヴィオラはエルフ特有の長い耳をピョコリと動かし、いささか驚いたような表情を見せる。
「ジョージさんは国政に関わった経験がおありなんですか?」
「いえ、たかだか百人程度の組織運営に関わっていただけです。そんなに大層なものじゃないですよ」
そんな謙遜にも関わらず、ヴィオラはパっと表情を明るくする。
「是非、私に助言をお願いします! 正直、私もたまたま宰相に選ばれただけで、お金の管理や政治には疎いんです……たとえ規模は小さくとも、組織運営の経験がある方が傍にいてくれると非常に助かります!」
そう告げたヴィオラは前のめりになって承治に迫る。
すると、豊満な二つの球体によって形成された大きな谷間と、見惚れるほどに美しい顔が眼前に迫った。
すごい特盛り! しかも美人!
などと余計なことを考えた承治は視線を逸らしてヴィオラに応じる。
「まあ、できる限りのことはやってみます……」
その言葉に対し、ヴィオラは承治の手を取り力強く握手をする。
成り行きとは言え、承治はそんな風にして他人に頼られるのも悪い気はしなかった。
0
あなたにおすすめの小説
まったく知らない世界に転生したようです
吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし?
まったく知らない世界に転生したようです。
何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?!
頼れるのは己のみ、みたいです……?
※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。
私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。
111話までは毎日更新。
それ以降は毎週金曜日20時に更新します。
カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~
存在証明
ファンタジー
不慮の事故によって異世界に転生したカイ。異世界でも家族に疎まれる日々を送るがある日赤い瞳の少年と出会ったことによって世界が一変する。突然街を襲ったスタンピードから2人で隣国まで逃れ、そこで冒険者となったカイ達は仲間を探して冒険者ライフ!のはずが…?!
はたしてカイは運命をぶち壊して幸せを掴むことができるのか?!
火・金・日、投稿予定
投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜
みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。
…しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた!
「元気に育ってねぇクロウ」
(…クロウ…ってまさか!?)
そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム
「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ
そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが
「クロウ•チューリア」だ
ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う
運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる
"バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う
「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と!
その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ
剣ぺろと言う「バグ技」は
"剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ
この物語は
剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語
(自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!)
しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる