異世界デスクワーク~元サラリーマンは転生してまで事務仕事!?~

八十八

文字の大きさ
35 / 96
第1部4章 魔王降臨編

33 魔王ファフニエル

しおりを挟む
「ファフニエル様、周辺国に対する宣戦布告の手続きは一通り終わりました……」

 チエロ〝帝国〟の王宮にて、荘厳そうごんな玉座に腰を下ろすファフニエルは、貴族と思しきドワーフの報告を受けて満足げに頷く。

「ご苦労ご苦労。これで周辺国は全て私の敵ね。何をされても文句は言えないでしょ」

 不敵な笑みを浮かべてそう告げたのは、先日転生を果たした少女に他ならない。
 自らを魔王と称し、今や新政チエロ帝国となったこの国の初代皇帝としてその場に君臨している彼女こそが、ファフニエルの正体だ。
 
 どこぞの魔術師に召喚された彼女がチエロの国王を退け、今の地位を得るのはかくも容易なことだった。
 自身を召還した魔術師に道案内をさせ、己の強大な力に身を任せて王宮にずけずけと上がり込み、昼寝をしていた国王を脅すだけで簡単に玉座を奪うことができた。
 その道中で衛兵や魔術師による抵抗もあったが、転生オプションによる強力な力と魔力を兼ね備える彼女の前には無力も同然だった。

 そのファフニエルを前にし、報告を終えたドワーフの男は怯えながら口を開く。

「恐れながら申し上げます。いかにファフニエル様が強大な力をお持ちだとしても、周辺国全てを相手取って戦うのは国力的に見ても不可能かと思いますが……」

 そう告げたドワーフの男は、かつてチエロ王国で首相を務める貴族の一人だった。今はファフニエルの部下のように振る舞っているが、彼にしてみればファフニエルと対話の余地を残すことが、祖国のためにできる唯一の抵抗だと考えていた。

 そんな彼の指摘に対し、ファフニエルは顎に手をついて余裕の表情で応える。

「問題ないわ。前にも言ったと思うけど、私の目的は戦争することじゃなくて、この世界の平和的統一よ。当然、次の手は考えてあるわ」

「しかし、このまま国外との交易が停止した状態が続けば我が国は干上がってしまいます……」

「そこまで言うなら、そろそろ行ってこようかしら」

 そう告げたファフニエルはひょいと玉座から立ち上がり、跪くドワーフの横を通り過ぎる。

「ファフニエル様、どちらへ?」

 その言葉に、ファフニエルは何かを思い出したかのように振り向く。

「あ、地図とか無い? 隣の国の場所が分かるやつ」

「は、ただいまお持ちします」

 ファフニエルの言葉に従い、ドワーフの男はいそいそと部屋を後にして大陸地図を探しに行った。


 * * *


「何よこの地図。余計なことばっかり描いてあって地形が全然わからないじゃない」

 ばたばたと風に靡く地図に目を落すファフニエルは、人生で初めて空を飛ぶという経験をしていた。
 周囲は大空に覆われ、目下には雄大な森林や草原、田畑といった緑豊かな光景が広がっている。ところどころに村落も見えた。

 ファフニエルは、己の体に翼が生えているなら飛行くらいできるだろうと安易に考えていたが、その考えは正解だった。
 特に難しいことはなく、コツを掴めばすぐに大空へ飛び立つことができた。更に風魔法を応用すれば加速することも可能だ。

 チエロ王都を飛び立ったファフニエルは、地図を頼りに目的地を探す。
 すると、視線の先に城壁に囲まれた大きな街が見えてきた。

「あれがクラリア王都ね」

 そう呟いたファフニエルは、高度を落して王宮と思しき建物の上空に到達する。
 すると、衛兵の何人かが空を飛ぶファフニエルの存在に気付き、騒ぎ立て始めた。
 
 もう少し注目された方がいいかな。
 そう考えたファフニエルは、声を張り上げて目下の衛兵達に告げる。

「私はチエロ帝国初代皇帝、魔王ファフニエルよ! 貴国の王と交渉がしたい!」

 そんな呼びかけに対し、衛兵達は様々な反応を見せる。

「あれが噂のファフニエルだと? 獣人の小娘じゃないか」

「見たこともない種族だ」

「何でもいい、とにかく近衛兵を呼べ!」

 ファフニエルが状況を見守っていると、王宮の監視塔やバルコニーに人が集まり始める。その多くは武装した兵士だったが、貴族らしい人間もちらほら見受けられた。
 ファフニエルは再び声を張り上げる。

「もう一度言うわ! 私はチエロ帝国の代表として貴国の王と交渉がしたい! 王を連れて来なさい!」

 すると、監視塔に立つ屈強な兵士の一人が返事を返した。

「無礼者め! 外交交渉がしたいなら正門から入ってこい! もっとも、貴様のような小娘など誰も相手にせんだろうがな!」

 その言葉に呼応し、集まった兵士達はどっと笑いをこぼす。
 だが、そんな反応もファフニエルにとっては想定内だった。

「なら、私と交渉がしたくなる良いモノを見せてあげるわ!」

 そう告げたファフニエルは不敵な笑みを浮かべ、天に両手をかざす。
 そして、鋭い声で呪文を唱えた。

『グロースエクスプロジオン!』

 すると、ファフニエルの手から放たれた眩い光が天めがけて昇っていく。
 光の柱は上空に浮かぶ雲を貫き、そして次の瞬間、眩い閃光がクラリア王都を覆い尽くした。

 一瞬の閃光の後、空中に現れたのは一つの街を覆い尽くしてしまいそうなほどの巨大な爆炎だ。
 続いて耳をつんざく爆音と突風が地上に降り注ぐ。それは地上の人々に被害を及ぼす程度ではなかったが、恐怖と混乱を巻き起こすには十分だった。

 爆炎が消え去ると、街の上空を覆っていた雲は円形にくり抜かれ、その空間から青空が見えた。
 監視塔やバルコニーに集まった兵士達は誰もが驚愕の表情で天を仰ぎ、先ほどまでの笑いを維持できる者はいなかった。

 その光景に満足したファフニエルは再び叫ぶ。

「私の力が理解できたでしょ! 貴様らが交渉に応じなければ、次はこの魔法を地上に向けて放つ! さっさと国王を連れて来なさい!」

 そう告げるファフニエルに抵抗しようとする者は、誰一人いなかった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

【完結】長男は悪役で次男はヒーローで、私はへっぽこ姫だけど死亡フラグは折って頑張ります!

くま
ファンタジー
2022年4月書籍化いたしました! イラストレータはれんたさん。とても可愛いらしく仕上げて貰えて感謝感激です(*≧∀≦*) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 池に溺れてしまったこの国のお姫様、エメラルド。 あれ?ここって前世で読んだ小説の世界!? 長男の王子は悪役!?次男の王子はヒーロー!? 二人共あの小説のキャラクターじゃん! そして私は……誰だ!!?え?すぐ死ぬキャラ!?何それ!兄様達はチート過ぎるくらい魔力が強いのに、私はなんてこった!! へっぽこじゃん!?! しかも家族仲、兄弟仲が……悪いよ!? 悪役だろうが、ヒーローだろうがみんな仲良くが一番!そして私はへっぽこでも生き抜いてみせる!! とあるへっぽこ姫が家族と仲良くなる作戦を頑張りつつ、みんなに溺愛されまくるお話です。 ※基本家族愛中心です。主人公も幼い年齢からスタートなので、恋愛編はまだ先かなと。 それでもよろしければエメラルド達の成長を温かく見守ってください! ※途中なんか残酷シーンあるあるかもなので、、、苦手でしたらごめんなさい ※不定期更新なります! 現在キャラクター達のイメージ図を描いてます。随時更新するようにします。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

処理中です...