異世界デスクワーク~元サラリーマンは転生してまで事務仕事!?~

八十八

文字の大きさ
38 / 96
第1部4章 魔王降臨編

36 魔王来襲

しおりを挟む
 クラリア王国が新政チエロ帝国に降伏してから二日が経とうしていた。
 その間、魔王ファフニエルは目立った動きを見せていなかったが、カスタリアの国民は恐怖に怯える日々を過ごしていた。

 王都では、いずれファフニエルがこの国にも来襲するだろうという噂が流れ、一部市民は自発的に避難を始めている。
 重苦しいその雰囲気は、さながら戦時下のようだ。

 そんな中、カスタリア王宮内の図書館では、オババ様を中心にファフニエル対策が検討されていた。今日はヴィオラと承治に加えて、セレスタも一応顔を出している。

 議場の中心で、オババ様は重々しく口を開く。

「クラリアの一件からして、魔王ファフニエルは飛行能力を持ち、とてつもない規模の魔力行使が可能じゃ。正面切って対抗するのは難しいじゃろう」

 すると、一人の魔術師が手を挙げて発言を求める。

「王都全体に防御魔法を張るという案についてですが、昨日計算が終わりました。我々全員が力を合わせても、防御範囲は市街地の半分にも及びません。それでもファフニエルの魔法に耐える強度を保てるかどうか……」

「やはり結界を作って持久戦に持ち込むのは無理があるか……となると応戦するしかないが、飛行能力が厄介じゃな。こちらで空を飛べるのはセレスタくらいだしのう」

 部屋の隅にいるセレスタは小さく頷いて応える。

「ワタシもイロイロ魔法ツカえるヨ」

「いやいや、オババは兵士でもないセレスタに戦えなんて言うつもりはないよ。とにかく、戦いになれば相応の被害が出るじゃろう。問題はそこにある」

 その言葉に、ヴィオラが応じる。

「ユンフォニア殿下は、極力王都の市街地で争いが起きる事態は避けたいとお望みです。ただし、二大公爵を初めとする貴族の中には徹底抗戦を支持する派閥もあり、彼らは独自に王都へ兵を集めています」

「フン、徹底抗戦を支持する連中は地方領主じゃろ。他人事と思うて好き勝手言いおって」

「しかし、仮に魔王ファフニエルの降伏勧告を受け入れて一時的に延命したとしても、いずれはどんな扱いを受けるかは分かりません。クラリアの選んだ安易な降伏が最善であるとは断言できないと思います」

 すると、先程発言した者とは別の若い魔術師が口を開く。

「攻撃魔法が使えないなら、重力魔法のようにファフニエルの体に直接作用する術で動きを封じるのはどうでしょう」

 オババ様はそのアイディアを思案する。

「確かに、悪くはない発想じゃな。ただ、重力魔法で体を押さ込んでも口が自由なら魔法詠唱が阻止できん。確か古代魔法には相手の魔力行使を封印する術もあったハズじゃが、ここには古典魔術書を読める者もおらんしのう……」

 その言葉に、聞きに徹していた承治はあることを思い出す。
 そして、承治が発言をしようとしたその瞬間、部屋の扉が勢いよく開け放たれ、一人の兵士が図書館へ飛び込んできた。

 激しく息を切らしたその兵士は、大声でその場の全員に告げる。

「ファフニエルだ! 魔王ファフニエルが王都上空に現れたぞ!」

 その言葉を皮切りに、議場は一挙に騒然となった。


 * * *


「カスタリアの皆さーん! お元気ですかー!」

 カスタリア王宮の上空に現れたファフニエルは、大声で悪ふざけのような挨拶を告げる。

 既に騒ぎを聞き付けた王公貴族や兵士達は、王宮のバルコニーや監視塔等からその様子を窺っていた。
 ファフニエルは注目を集め始めたところで、本題を切り出す。

「面倒なことは抜きよ! 私はこの国の王と交渉がしたい!」

 すると、王宮最上階のバルコニーでユンフォニアが一歩前に出る。その近くには、承治、ヴィオラ、オババ様、セレスタの姿もあった。
 ユンフォニアはファフニエルに向かって堂々と叫ぶ。

「余が国王代行の第一王女ユンフォニアだ! 話ならここで聞こう!」

 たまらず傍らに立つヴィオラがユンフォニアを制止する。

「姫様、危険です! まずは私が……」

「いや、余が直接交渉する。そちらは手出し無用だ」

 その言葉を受け、ファフニエルは高度を落してバルコニーに近づいた。

「へえ、アナタがカスタリア国王代行のお姫様なの。可愛らしいお嬢さんね」

 ユンフォニアは恐怖を必死に抑え込み、余裕を演じる。

「そちの方こそ、余と大して変わらぬ歳のように見えるがのう。して、可愛らしい魔王様の話とはなんだ」

「簡単なことよ。私は降伏勧告に来たの。この街をめちゃくちゃにされたくなければ、素直に私の配下に入って頂戴」

 その言葉に、周囲の兵士や貴族達がどよめく。
 ファフニエルの要求はユンフォニアの想定通りだったが、かといって明確な回答を用意しているわけではなかった。
 ユンフォニアは交渉の糸口を探るため、会話を継続する努力を行う。

「そちは、そうやってチエロやクラリアを下したのか」

「ええそうよ。彼らは素直で賢かったわ。誰だって、無駄な死人は出したくないものね。大人しく私の要求に従えば、手荒な真似をする気はないわ。それで、アナタの答えを聞きたいんだけど」


 * * *


 ファフニエルとユンフォニアがバルコニーで交渉を続けているその時、王宮外縁の監視塔で二人のエルフ族兵士が何やら会話を交わしていた。
 どうやら、彼らはカスタリア王国の弓兵らしい。

 大きな弓を携えた一人の兵士は、その傍らで一本の矢を握る兵士に声をかける。
 
「おい、矢の魔法付与エンチャントは終わったか」

 矢を握る兵士は、もう一方の手に持つウラシム鉱石を覗き込んで応えた。

「たった今終わりました。しかし、本当にやるんですか? いくら子爵様の命令とは言え、もし姫様に被害が及べば……」

 そんな不安げな言葉をよそに、弓を持つ兵士は語気を強める。

「カスタリアが魔王に降伏なんてしちまったら、俺達だってどうなるかわからないんだ。この作戦が成功すれば、俺達は魔王討伐を成し遂げた英雄だ。もうやるしかないんだよ!」

 弓を持つ兵士は、もう一方の兵士から矢を無理やり奪い取り、弦を引いて射撃の構えをとる。
 その視線の先には、バルコニー正面で浮遊するファフニエルの姿があった。

「お前は風を見ろ。無風になったら射る」

 弓を構える兵士の言葉に対し、もう一方の兵士は不安な面持ちで己の指を舐めて宙にかざす。それは、ペアで行う射撃訓練で幾度も繰り返してきた風を読むための動作だ。
 
「北から微風。治まったら合図します」

 ひとしきりの沈黙。
 そして、濡れた指先に風を感じなくなったその刹那、合図は下された。

「今!」

『シュトゥルムプファイル!』

 合図と同時に呪文が告げられ、矢が放たれる。
 その軌跡は、ファフニエルに向かって一直線に進んでいった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

まったく知らない世界に転生したようです

吉川 箱
ファンタジー
おっとりヲタク男子二十五歳成人。チート能力なし? まったく知らない世界に転生したようです。 何のヒントもないこの世界で、破滅フラグや地雷を踏まずに生き残れるか?! 頼れるのは己のみ、みたいです……? ※BLですがBがLな話は出て来ません。全年齢です。 私自身は全年齢の主人公ハーレムものBLだと思って書いてるけど、全く健全なファンタジー小説だとも言い張れるように書いております。つまり健全なお嬢さんの癖を歪めて火のないところへ煙を感じてほしい。 111話までは毎日更新。 それ以降は毎週金曜日20時に更新します。 カクヨムの方が文字数が多く、更新も先です。

社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~

存在証明
ファンタジー
不慮の事故によって異世界に転生したカイ。異世界でも家族に疎まれる日々を送るがある日赤い瞳の少年と出会ったことによって世界が一変する。突然街を襲ったスタンピードから2人で隣国まで逃れ、そこで冒険者となったカイ達は仲間を探して冒険者ライフ!のはずが…?! はたしてカイは運命をぶち壊して幸せを掴むことができるのか?! 火・金・日、投稿予定 投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

処理中です...