異世界デスクワーク~元サラリーマンは転生してまで事務仕事!?~

八十八

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第1部4章 魔王降臨編

43 贖罪

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 ファフニエルの事情聴取を終えた承治とヴィオラは、王宮の中枢とも言える〝玉座の間〟に赴き、第一王女のユンフォニアと面会していた。
 国王代行として玉座にもたれるユンフォニアは、いささか疲労した様子だ。
 ファフニエル騒動に続いて各国との会談や事後処理に追われていれば無理もない。

 玉座に深くもたれるユンフォニアは、承治とヴィオラの顔を見ていささか安心した様子で口を開く。

「おお、ジョージにヴィオラ。ファフニエルの事情聴取ご苦労だった。して、首尾はどうだ?」
 
 その言葉に、承治が一歩前に出る。
 今日は正式な謁見の場ということもあり、承治は極力丁寧な言葉使いで応じる。

「とりあえず、ファフニエルの正体が分かりました。彼女は、僕と同じ世界から来た転生者です。あの強大な魔力も、転生時に得た力だと思われます」

「なんと、そうであったか。それが真実ならば、きゃつが突如頭角を現した理由にも説明がつくのう。して、今回の騒動はきゃつの独断だったのか?」

「ファフニエルが何者かに指図されていた可能性は低いと思います。仮に、この騒動がチエロ王国の陰謀なら、彼女の送還を拒絶するのは不自然です」

「ふむ、単独で世界征服を試みようとは大胆不敵も極まれりだな。しかし、そうなってくると問題はきゃつの処遇だ。チエロ側が受け入れを拒否する以上、我が国が独断で刑を下してよいものか……」

 その言葉に対し、承治はいささか勇気を奮って一つの提案を述べる。

「あの、少し言いにくいんですが、一つ提案があります……ファフニエルを、僕に預けていただけませんか?」

 ユンフォニアは、承治の放った言葉の真意を測りかねる。

「預けろ、とはどういう意味だ。獄中の世話をするということか?」

「いえ。牢獄から出して、僕の近くで生活させるという意味です」

 すると、ユンフォニアは驚いた様子で目を見開く。

「ファフニエルを釈放するというのか!? 何の意図があってそのようなことをするのだ」

 承治は、言葉を選んで慎重に応える。

「元々言えば、ファフニエルも僕と同じ異世界に住む一般人でした。ただ、ファフニエルは転生時に身に余る力を手に入れたことで暴挙に出てしまったというだけで、彼女の存在そのものが邪悪なわけではありません。現に、彼女は色々な場所で暴れてきましたが、〝殺し〟はしていません。だから僕は、更生の余地があると思ったんです」

 その言葉に、ユンフォニアは目を細めて考え込む。

「まあ確かに、ファフニエル騒動において人的被害が皆無だった事実は各国との会談でも不可解だと囁かれていた。しかし、きゃつが世界征服を企み立ち回ったのは事実だ。いかに魔力を封じているとは言え、野放しと言うわけには……」

「なので、僕が監視役になるという提案です」

 承治の強引な物言いに、困惑したユンフォニアはヴィオラに目配せをする。
 すると、ヴィオラはいささか呆れた様子で口を開いた。

「私も初めは反対しました。ただ、ジョージさんはファフニエルの罪を単なる死で償わせるのではなく、彼女の更生とカスタリアへの奉仕をもって贖罪を全うさせたいようです。その考え方には、私も同調できる部分があります」

 ユンフォニアは「ふむ」と相槌を打ち、再び承治に視線を戻す。

「そちは、同じ転生者としてファフニエルに情が移ったのか?」

「否定はしません。ただ、彼女は少し子供っぽいだけで、悪いやつじゃないということは確信しています」

 その言葉を受けて、ユンフォニアは不意に玉座から立ち上がる。

「よかろう。ジョージがそこまで言うのなら、余が直接ファフニエルと話をする。きゃつには興味もあるしのう」

 すると、ヴィオラはいささか当惑した様子で口を挟んだ。

「しかし、今の段階で直接対面するのは危険ではないでしょうか。昨日の件でファフニエルが姫様に危害を加えようとしたのは事実ですし、それに姫様ともあろうお方が牢獄に赴くというのは……」

「ふむ、ならば共鳴水晶で会話すればよい。余はこの部屋から対話する。それで良いな?」

 それならば、とヴィオラはユンフォニアの提案に同意する。

 そして、すぐさまユンフォニアとファフニエルの直接対話が行われる運びとなった。


 * * *


 承治とヴィオラは再び牢獄を訪れ、ファフニエルと対面する。
 そして、ヴィオラは共鳴水晶を取り出してファフニエルに向けて掲げた。

 ファフニエルはその様子をいぶかしむように眺める。

「その玉は何?」

「これは共鳴水晶と言って、魔法で遠距離会話ができる道具です。これから、あなたには第一王女ユンフォニア姫との謁見を行ってもらいます。もし、あなたが今回の罪を己の行動で償う気があるのなら、その気持ちを姫様にお伝えなさい」

 ヴィオラがそう告げると、水晶球の中にユンフォニアの顔が浮かび上がる。

『昨日ぶりだのうファフニエルよ。気分はどうだ?』

 その言葉に、ファフニエルは気まずそうな表情を浮かべる。

「こんな場所に閉じ込められて気分いいわけないでしょ……」

『そうであろう。しかし、その処遇はそちが犯した罪の証だ。まさか不満があるとは言うまいな』

「……分かっているわ」

 ファフニエルは言葉使いこそ乱暴だったが、態度は控えめだ。
 その様変わりにいささか拍子抜けした様子のユンフォニアは、ストレートに本題を切り出す。

『して、そちは此度の騒動について贖罪の機会を望んでいると聞く。あの大立ち回りを演じておきながら、いかにして改心する気になったのか。その真意を余に語ってみよ』

 すると、しばし沈黙を見せたファフニエルは、小さな声でゆっくりと語り始めた。

「素直に言えば、私は自分の罪の重さに気付いて贖罪したくなったわけじゃないわ。ただ単に、生きることに執着しているだけよ」

 その言葉に、ユンフォニアは共鳴水晶の奥で目を細める。

『えらく正直だな。そんな動機で許されるとでも思っておるのか?』

「私は、今さら嘘をついて形だけ頭を下げる気はないわ。その謝罪に何の意味もないことを理解しているからよ。だから私は、できることならこの世界での生き方を改めたいと思った。その上で自分の犯した罪を受け入れて、償っていきたいと思ったのよ」

 そう告げるファフニエルの姿は、魔王を名乗っていた昨日までの迫力を完全に失っていた。
 今牢獄に閉じ込められているのは、魔王ファフニエルではなく、一人の少女ファフニエルだ。
 彼女は己を偽ることなく、正直に自分の気持ちをユンフォニアに告げている。

 そもそも、〝誠意〟とはそうやって生まれるものだと承治は考えていた。
 謝罪の回数や姿勢が真に誠意を生むのではない。本心こそが、誠意を生むのだ。

 もちろん、誠意があるからとってどんな罪も許されるわけではない。
 それでも、罪を償いたいという気持ちはっきりと相手に伝えることができる。
 承治は、ファフニエルに贖罪の機会が与えられるか否かを、彼女の誠意に賭けた。そして、ファフニエルは承治に言われた通り、素直に自分の気持ちを告げている。
 後は、国王代行として裁判権を持つ第一王女ユンフォニアがどう感じたかだ。

 水晶の中でしばし沈黙を見せていたユンフォニアは、いささか困ったような表情を見せる。
 そして、承治に向かって口を開いた。

『ジョージよ。余は、今の会話でファフニエルの意思をおおよそ理解した。それが嘘偽りだとも思わない。だが、余は国王代行としてこの国を守る責務がある。それを考えれば、この国に脅威を及ぼしたファフニエルを釈放するなどという選択肢は到底考えられない』

 その言葉に、承治は肩を落す。
 だが、ユンフォニアの言葉には続きがあった。

『だが、此度の件はジョージの活躍によって解決したも同然だ。そのジョージたっての頼みとあれば、余も無碍(むげ)にはできない。と、言うわけで、ここは間を取ることとする』

 承治はユンフォニアの言葉を反芻する。

「間を取る?」

『そうだ。ファフニエルには、当面の労役刑を科すとしよう。その労役内容は、監視役であるジョージが決めると良い。当然、労役を行うには牢獄から出なければならないが、その際は監視役のジョージが付き添うものとする。これでよいな?』

 つまり、ファフニエルは承治の傍らにいる限り、牢獄から出られるということだ。もっと好意的に解釈すれば、承治が監視を続けているという体であれば、牢獄に戻る必要すらないとも言える。

 それを理解した承治とファフニエルは互いに目を合わせる。
 そして、ファフニエルは承治に対して初めて笑みを見せていた。

 そんな二人を前にして、ユンフォニアは釘を刺すかのように言葉を続ける。

『ジョージよ。これは、そちを信頼しての措置だ。ファフニエルのことを任せる以上、こちらとしても体面は整えるが、そちが大きな責任を負うことになるのを忘れるでないぞ』

 承治はその言葉を深く受け止め、力強く頷いた。
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