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第一章『それは、新しい日常』

第十ニ話「巨人」

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「サイクロプス?」



 ってシオンが言ってたやつか。たしか襲撃は稀って言ってたんだけどな。なんて間の悪い奴らだろう。



 ギルド内にいた冒険者が慌ただしく外にでていく。酔っ払っていた奴らも向かうようだ。



 おい、おい、大丈夫かよ。ふらふらだぞ。

 無理しなくても良いんじゃないかと思ったが、強制招集なんて言ってたし、集まらなかった場合の罰則があるのかもな。



 周りに続いてギルドを出ると、武装をした冒険者らしき人たちが右へ、街の人が左へと走っていく。

 冒険者は南門だったか。つまり右側に南門があると。方角がわからなかったから助かった。



「俺たちも行ってみるか」



「うん...」



 街を行き交う人だかりを避けながら、南門へ向けて歩みを進めて行く。当然、南門へ向かう冒険者より、街の中心部に避難する街の人の方が圧倒的に多いわけで中々前に進めない。







 ~~~~~~~~~~







 ようやくの思いで南門へと辿り着いた。

 普段は閉まったままという巨大な門も、大勢の冒険者を通すため開け放たれている。



 人が多い割にやけに静かだ。聞こえるのは小さなざわめきばかりで、何とも言えない微妙な空気が流れている。



 冒険者たちが呆然と眺める方向へ目を向けると、



「なるほど」



「これは...」



「「進撃の◯人!(...!)」」



 俺とイブの声が重なった。







 辺りを見回すと巨人、巨人、巨人。

 見た目通りのろのろとした動きだが着実に迫ってきている。

 こいつらがサイクロプスか。

 ギョロギョロとした一ツ目特徴的でゴツゴツとした筋肉は並の攻撃では通用しそうにない。サイクロプスと言われているが棍棒はないらしい。





 そこで俺はとある会話を思い出す。





 ---





『なあシオンお前の国って巨人にでも襲われてんのか?』



『この壁... 三重になってたりする...?』





 ---





 え、これ俺たちのせい? 俺たちがそんな会話してたから?



「いやいや、そんなまさか」



「フラグ...」



「ぐぬぬ...」



 どうやらイブも俺と同じことを思い出していたらしい。

 でも口に出しちゃダメだろー。言い逃れ出来なくなる。



 いや、待てよ?

 サイクロプスは稀に来るもっていう話だから、1体のサイクロプスがくるイメージだった。だがシオンは決して1体だけとは言っていない。

 目の前の光景のように、稀にサイクロプスの群れが襲ってくるという意味だった可能性もある。

 つまり、別に俺たちのフラグのせいじゃな――



「ふざけんなよ! なんだよこのサイクロプスの量は!」



「こんなのおかしいだろ! 何体いるんだ!」



「誰か!英雄様を連れて来てくれー」



 あー、はい。そんな気はしてましたけどね。なんで俺が来たタイミングでこんなことになってんだ!



(スキル《凶運》を獲得しました)



 おい! こんなスキル誰が使うんだ。一生使わねーだろ!



「ユウキ...?」



「ん、ああ、何でもない」



 心の中で悪態をついていたら、どうやら顔にもでてしまっていたらしい。この癖は直さないとな。



 俺がスキルに翻弄されている間にもサイクロプスの進行は進んでいる。



 大勢の冒険者は佇むばかりで動けていない。巨大すぎる相手にどうやって戦えばいいのかわからなくなっているようだ。

 何人かは弓や魔法で攻撃しているみたいだが、威力まったく足りていない。多少動きを止めた程度だ。すぐにまた動き始める。



 一番先頭にいるサイクロプスとこちらの距離が100mをきった。歩みを止める気配はなく、どんどんその差は無くなったいく。

 もう時間の猶予は残されていない。



「ねえ! 英雄様はまだ来ないの!?」



「ダメだ! 今英雄様は他国に派遣されている、今この国にはいないんだ!」



 誰かの叫びに冒険者ではない衛兵らしき人が答える。状況が絶望的なせいか若干ヤケクソ気味な返事だ。



「仕方ない。俺たちでやるか」



「ん... わかった...」



 別に本気で俺たちのせいだとか負い目を感じているわけでは無い。アレは単なるネタで言っていただけだしな。

 俺たちに街の人を助ける義理は無いが、今回助けようと思ったのにはちゃんと理由がある。



 それは、宣伝のためだ。

 シオンとリリィーは勇者と魔王と大勢の人に知られているが、勇者パーティーの中で、俺とイブだけ知名度が無い。



 前にも話していたが、新しい国を作るにあたり、人を呼び込むことが必要になってくる。勇者と魔王というだけでも注目はされるが、さらにサイクロプスを殲滅した謎の存在が勇者パーティーと知られればどうだろう。

 大勢の人々が集まる今、これほど宣伝しやすい状況も中々ない。



 その旨をイブにも伝える。



「アイアイサー...」



 頼もしく可愛らしい返事に頰が緩む。



 俺は腰にぶら下げている先ほど買った短剣を指でなぞり確認した。



「私は左...」



「なら俺は右だな」



 左の方が若干量が多そうなんだが... なんだイブさん結構殺る気じゃないですかー。

 俺の負担を減らそうとでも思ってくれたのだろうか。







 とりあえず街に近づかれると守りずらいのでさっさと動こう。

 そう思い俺が前に走りだすとイブが跳んだ。否、飛んだ。



 うわ、マジか。



 それを見ながら俺は、「あー、やっぱ飛ぶスキルとかもあるんだ」とか考えていた。俺もだいぶファンタジー色に染まって来ているらしい。



 イブはサイクロプスたちに向かって飛翔した。右手に炎、左手に雷を纏い、サイクロプスにふれては負傷させていく。

 痛みに暴れたサイクロプスが腕を振るうがイブには当たる気配はない。



 おそらく遠距離で仕留めることも出来るのだろうが、今回は宣伝ということで魅せる闘いをしてくれているらしい。



 赤と黄色の軌跡を描きながら飛ぶ姿はとても神秘的だ。



 おっと、見とれてる場合じゃないな。



(スキル《縮地》《怪力》《立体機動》を発動しました)





 縮地で瞬時に間合いを詰め巨人の頭へ殴りかかる。なぜ頭を狙うかというと、手足をとばしても動き続けると考えたからだ。

 中途半端なダメージを与えて暴れられるのは一番めんどくさい。

 だから、一発で仕留める!



 サイクロプスが手を俺に向けて突き出した。飛び込んでくる俺を止めるつもりらしい。



 ならばと、俺は腰にぶら下げておいた短剣を手にとり、サイクロプスの手の平に突き刺した。その短剣を支えにして腕の力だけで身体を浮かし前方宙返りをする。

 そして、突き出された腕に綺麗な着地を決め、一気に駆け上った。



 ははっ。身体が思ったように動く。面白いっ。戦いが癖になりそうだ。

 自分自身、口角が上がっているのがわかる。

 ああ、でもダメだ。今見たいな短剣の使い方をしていたら予備がいくつあっても足りない。やっぱりあるだけ買っといたほうが良かったか。



 肩まで登り詰めるとサッカーボールの要領で、頭を思いっきり蹴り飛ばす。

 飛んでいった頭は、2体目のサイクロプスの顔面ににあたり、首があらぬ方向へと曲がった。



 これで2体目、次だ。



 獲物を見つけ3体目へと飛びかかる。

 1体目のサイクロプスを足場にジャンプしたせいで、後方に向かって頭のない巨人が大きな音を立てて倒れた。

 意図したわけでは無かったがいい演出になったかもしれない。



 間近に迫った3体目の顔面にライダーキックよろしく蹴りを入れる。くい込んだ巨人の顔が苦痛に歪んだ。

 勢いよく突っ込んだ首は90度折れ曲り、顔が上を向く。それを踏み台に新しい獲物へと飛んだ。







 しばらくそんな戦闘を続けていると、こんなスキルが手に入った。



(スキル《万有引力》を獲得しました)



 おかしい... 俺は重力なんて操ったつもりはない。もしかして、サイクロプスを足場にしていて地面に足を付けていなかったからだろうか。それが重力を無視していると判定されたと。







 まあ、いい。折角手に入ったスキルだ。使ってみよう。



(スキル《万有引力》を発動しました)



 自分に掛かる重力をマイナスにし事切れたサイクロプスから飛び立つ。上空に浮遊し辺りを見回した。

 範囲はサイクロプスがいるこの戦場全域。

 掛かる重力を倍にして上から押し付けるよに。



 頭の中でイメージをはっきりとさせたその現象は、ユウキが身じろぎひとつすることなく発生した。

 ノーモーションで、だ。

 あまりの理不尽な力にユウキ自身苦笑する。



 いきなり増えた重力に耐えきれずサイクロプスたちは次々に膝を屈していった。











 ビタンッ





 ...ん?



「あっ...」



 音のした方へ振り向くとイブがうつ伏せになって倒れていた。

 どうやら調子にのって戦場全体の重力を底上げしたところイブまで巻き込んでしまったらしい。



 やべっ。

 急いでイブに掛かる重力を解除しようとしたが、その前にイブは立ち上がった。そのままふわりと浮き上がると俺がいる上空まで上がってる。



 マジか。普通に動けるのか...

 俺はまだイブに掛かる重力を解いていない。サイクロプスという巨人に膝を折らせるほどだ。生半可じゃない重力がかかっているはずなのだが...



「ひどい...」



「悪い」



 謝ったがそれだけでは足りないらしく顔をズイッと近づけ、同じこと言葉を強めにもう一度繰り返す。



「ひどい...!」



「わ、悪かったって。今度埋め合わせしてやるから」



 圧がスゴい。圧が...



 俺の言葉を聞いたイブはニヤリと笑う。



「絶対覚えておくから...」



「...あいよ」



 一体何を要求されるのやら。







(スキル《拘束》を獲得しました)



 イブとのやりとりを終えた直後、長時間抑え込んでいたからだろう。スキルが手に入った。

 早速発動させると重力に抵抗しようと奮闘していたサイクロプスたちはピクリと動かなくなる。







 さて、抑えつけたはいいがどうしようか。



「イブこいつらまとめて消し飛ばせないか?」



「できるよ...」



 イブがピッと人差し指を上に向ける。



 上?







 空には黒雲が浮かんでいた。いったい、いつから。

 雷鳴がなり不可視のエネルギーが黒雲の中で徐々に高まっていく。



「うっ」



 一瞬の閃光。目の前の世界を塗り潰した。



(称号《巨人の殲滅者》を獲得しました)



 後に残ったのは何かの焼け跡と、焦げた匂い。何もないように見えて、確かに何かがいた形跡あった。事切れたやつらもまとめて焼却されたらしい。



 塵になったっていうのか。あの巨体が。

 若干引いているとイブは不思議そうな顔で俺の顔を覗き込んだ。

 やはり神というだけあって底が知れない。味方としては頼もしい限りだが、敵になった場合はとても不味いな。

 嫌な汗がこめかみを伝う。







 南門に集う冒険者たちからどよめきが聞こえてきた。自分たちの目の前の光景が信じられないのだろう。

 少しずつだが動揺が隣へ隣へと繋がり声が大きくなる。



 あ、不味い。今を逃したら声をかけるタイミングがなくなるな。

 出来るだけ静かなうちに喋らないと、イブの声も小さいし俺たちの声が届かなくなる。



 俺は深呼吸を一つし気合いを入れた。



「俺は【転生者】ユウキ」



「私は【神】イブ...」



 イブはいつも通り平坦な声だ。緊張なんてものはないらしい。



「以後お見知りおきを!」



 今回は名前だけでいい。そのうちこの知名度が役に立つことになるだろう。



 2人は手を繋ぎ華麗なお辞儀を決めて《瞬間移動》でその場を去る。



 最高にカッコつけた彼らが、後になって悶えたのは言うまでもない。
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