11番目の神 ~俺と勇者と魔王と神様~

琴乃葉ことは

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第一章『それは、新しい日常』

第十九話「勇者の過去Ⅱ」

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 朱の月、上旬。今日も今日とて日が照りつける中、スラムの空き地には幾人かの子どもが元気に走り回っていた。男女関係無しに仲良く遊ぶその姿は、周りから見れば微笑ましい光景だろう。

 そして、その様子を見守るのは二人の男女。遊び回る子どもたちよりは年上のようだが、十五歳程度とまだまだ若い。さすがに小さい子どもに混じって走り回ることはないようで、二人は捨てられた本棚に腰掛け駄弁っている。







『あの金髪でよいかのう』



『あの者でよろしいのですか?』



『そうじゃな。スラムのガキにしては驚く程容姿が整っておる。勇者にするには十分じゃろ』



『隣の赤髪の少女も随分と綺麗な顔立ちですね。幼馴染か何かでしょうか?』



『さあの。じゃが、至極親しい仲というのはわかる。人質に連れて行くならあれじゃの。金髪が勇者に適合しなかった場合の予備にもなるしのう』



『わかりました。では、先導いたします』





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『今日も暑いね』



『だね~、溶けちゃいそう。この時期は食べ物もすぐダメになるし嫌いよ』



 僕のぼやきにアリアは気怠げに返事をしながら空を見上げる。つられて僕も顔を上げた。空には目を開けられない程光り輝く太陽が浮かんでいる。

 雲一つない空で僕らを真上から見下す太陽はまるでこちらを嘲笑っているかのようだ。



『僕も嫌いだよ。寒さは着込んだり布にくるまったりで対策できるけど、暑さはどうしようもないからね』



『それに肌がベタつくから嫌。服がくっついて気持ち悪いんだもの』







 そうやって二人が延々と暑さへの愚痴をこぼしていると、人の近づいてくる気配があった。見れば腰に剣帯した騎士のような格好の男性と、その隣にはフードを被った人物がこちら向かってきている。



『ねえ、あれ』



 アリアが目を細め僕に耳打ちする。フードを被った人物の手の甲には、宝石のついた指輪がローブの袖から見え隠れしていた。



 貴族? なんでこんなところに?



 騎士も連れて来ている事から明らかにスラムの住人ではない。

 僕とアリアはいつでも動けるように立ち上がる。



 騎士とローブの男は二人の十歩程の距離を開けて立ち止まった。



『アリアおねーちゃん、だーれ?その人』



 子どもたちが遊びよりこっちに気をとられ集まって来てしまったようだ。



 まずい。相手が貴族だった場合子どもたちの一言が怒りを買うかもしれない。



 しかし、そんな焦りも杞憂に終わった。



 老人は一瞬呆気に取られていたがくっくっくと笑うと、自分に掛かっているフードを取り払う。



『まさかワシのことを誰などと言うものがおるとはのう』





『...!?』



『えっ...!?』



 僕らはその顔に見覚えがあった。

 フードを取った老人の顔には深いシワが刻まれ、髪には歳の所為であろう白髪が九割方を占めている。実際に見た回数は少ない。いつも遠目から見るくらいで今までこれほど至近距離で顔を合わせたことはなかった。

 けど、間違いようのない...、この人は...。けど先ほどから疑問は変わっていない。



『国王陛下がなぜこんなところへ...』



 それは質問ではなくこぼれ落ちた言葉だった。

 だが、国王は気にした風もなく答える。



『お主たちにやってほしい事があってのう』



 国王はそう言ってニヤリと悪い笑みを浮かべる。



 碌なことじゃない。国王の笑み直観的にそう思った。





 なんだ? どういうことなんだ?

 まて!そもそも本当に国王なのか? こんな明らかに治安の悪い場所に王族が出てくるなんて思えない。

 いや、でも姿を変えるなんて不可能の筈だ。魔法にそんなものはないし、アーティファクトにだってそんなデタラメな効果を持った物は聞いたことがない。





 だとしたら...本当に本物? 

 ならなぜ護衛がいないんだ。秘密裏に頼みごと?わざわざ国王が直々に、しかもたった一人だけのの騎士をつれて? それは国家機密ばどではなく、国王個人の隠しごとか。





 さまざまな考えが浮かんでは消えていく。けれど、肝心の答えにまでたどり着かない。僕が思考にふけっている間、わずかながら沈黙が生まれる。それを埋めてくれたのはアリアだった。



『まってください。この子たちにもですか?』



 アリアが示す先には、未だ状況を飲み込めずにいる子どもたちがいる。こんな状況でも子どもたちを心配できるあたり、僕なんかより全然冷静かもしれない。



『んん? いや用があるのはお主ら二人じゃ』



 そこまで答え国王は一つ考えるしぐさをみせる。



『ふむ。そうか...そうじゃのう。お前さんたちがどういう経緯でその子らの面倒を見ておるのかは知らんが、大人しくついてきてもらえれば手出しはせんよ』



 国王の顔がくしゃりと年相応のしわをつくり笑みをうかべる。いいようのない不安が自分たちの背筋を駆けぬけたのがわかった。



 それは暗に言うことを聞けという脅しじゃないか!クソッ!



『私たちはスラムの人間です。何かできるよなことはないと思もいますが』



『スラムの人間だからじゃよ』



 国王は鼻で笑うと踵を返して歩き始める。もうこれ以上の説明はしないという事だろう。ついて行くしかないか。今のところ僕たちに拒否するすべは無い。



 子どもたちを危険な目合わせるわけには、いかないからな。とは言え、僕らがここに戻ってこれるとは限らない。今までの生活より厳しくなるのは確実だ。願わくば強く生きてほしい。



 本当ならアリアだけでもいいから置いていきたいんだけど。



















 人気の無い道を回り道しながら進む事小一時間、国王に連れられ僕たちはようやく王城にたどり着いた。スラム街は王城からかなり遠い位置にあるため、歩きだと結構な時間がかかってしまった。



『こっちじゃ』



 城に気をとられていると、国王が城門とは違う方向へと歩きだす。



『王城に行くのではないのですか?』



『そうじゃよ。しかし、お忍びで外出しておるのに正面から帰るわけにはいかんじゃろ』



 あー、そういうことか。なら、どこかに隠し通路でもあるのだろうか。というか、それを僕たちが知ってもいいのだろうか?





 その後、国王についていくと、地下通路へと案内された。薄暗い通路に明かりはなく、国王がもつランプだけが辛うじて足元を照らしている。



 驚いた。ただの民家かと思ったらこんな隠し通路に続いてるなんて。



『お主らは勇者がどんなものか知っておるか?』



『勇者ですか? えっと... 確か魔王を倒すために人族で一番強い人がなるんですよね』



 唐突な質問にアリアが戸惑いながらも、自分の中にある勇者について必至に思い出している。



『うぬ。しかし、近年の勇者はあまりにも弱い』



『勇者が弱いですか?』



『そうじゃ。現にこ十数年、勇者が魔王を倒せたことは一度もない。今の勇者では魔王の前に立つことさえ出来ぬであろうな。戦線と維持がやっとというところじゃ』



『それは...』



『なに、気を使う必要はない。わしの代で人族が衰退の一途をたどっていることは事実じゃからな』



 これはもう人族の未来がないという話なのだろうか。いや、そんな雰囲気は国王から微塵も感じられない。むしろこの話を自慢するかのように得意げに話している。



『実は先ほどまでの話はな数年前までの話じゃ。わしらはのう、既に解決策を見つけておる』



 解決策?勇者の弱体化の話などちょっとやそっとでどうになるものではないと思うのだけど... そんな魔法みたいな話があるのだろうか。

 そこからは国王による謎の勇者抗議が続いた。いつから魔王に対抗できないほど勇者が弱くなってしまったのか。勇者という称号の特性について。勇者になる人物のレベルを上げるため武道大会を開いてみたなど。いろんな話を聞かされた。







 そうこうしているうちに扉の前にやってきた。どうやらこの扉鉄でできているようで、今まで通ってきた地下通路とはうって変わって異質な存在感を放っている。



『お主たちをつれてきたかったところはここじゃ』



 どうやらここが目的地らしい。

 重々しい鉄扉が開くと一番最初に目についたの寝台だった。これまた鉄でできいるらしく寝心地がいいとはいえなそうだ。周りには青白い光をはなつランプが壁にいくつもかけられており中を明るく照らしている。本物の火を使っているわけではなさそうなので、最近開発された魔力を燃料にするタイプのものだろう。



 中に入ると嗅ぎ慣れない匂いが鼻をくすぐった。これは前に一度嗅いだ事のある匂いだ。

 スラムの住人である僕らが普通に買い物することはまずない。基本的に露店のもの盗って生活している。けど店内にしか売っていないものも世の中にはあるのだ。それはポーション。子どもたちの一人が病気にかかった時お世話になったことがある。







 この匂いは――――薬品だ。



『はじめるかの』



『はっ』



『? 何を――』



 国王と騎士のやりとりに疑問を口にしながら振り返ると。すぐ目の前には手のひらが迫っていた。



『え?』



 そのまま頭を鷲掴みにされ寝台にたたきつけられる。何をされるのかギリギリのところでわかったので、頭部を守りなんとか気絶だけはせずに済んだ。とはいえ背中を強く打ちつけられ、一瞬呼吸ができなくなるほどの勢いだ。

 とっさの判断で相手の頭部に横から蹴りを入れたが、もう片方の手で難なく受け止められてしまう。



『ほう、反撃する余裕があるか』





『ちょっと、何してっ――』



 アリアがあわててこちらを助けようと一歩前にでるが、その瞬間足元に魔法陣が浮き上がり緑色の光を放ち始める。



『おとなしくしていてもらうかの。〈ソーン・プリズン〉』



 僕とアリアの間に割って入った国王が右手を突き出し、人差し指に付いた指輪を魔法陣と同じ色に光らせなが佇んでいた。陣を中心に茨がアリアを包みこみ始める。



『なっ! チッ』



 茨の範囲が広く抜け出せないことを察したアリアは。舌打ちとともにいつも護身用に身に着けているナイフを取り出し投擲する。



『むっ〈プロテクト〉』



 国王は少々驚くも慌てることなくまた一つ魔法名を唱えた。自身の足元に白い輝きの魔法陣が出現し、国王の周りに球体の薄い枠が出来上がる。投擲されたナイフが当たるもカキンッという音と共に弾かれ、金属音が虚しく響き渡った。



 まさかあの指輪全部アーティファクトなのか!



『どういうことよ!これは!』



 周りを完全に囲まれてしまったアリアが怒りをあらわにしながら、茨の隙間から叫んでいる。





 ダメだ。僕の方でなんとかしないと!



 騎士の拘束から抜け出そうともがくが押さえつけてくる騎士の腕はびくともしない。不意打ちでこの体勢まで持ってこられたのは痛手だった。ただでさえ騎士であるこの人とは実力の差があるっていうのに。



『こちらも終わりにしようか』



 押さえつけられたま寝台の端から中央へ移動させられる。すると表面の何もなかったところから枷が出現し次々と僕の手足を捉えていった。大の字にさせられ完全に身動きが取れなくなってしまう。











『お怪我はございませんか?』



『うむ、ナイフはちと驚いたがの。数少ない実戦経験にもなったし、よかったことにしよう』



 騎士は心配そうに声をかけるが、国王は気にするなと手で制する。そして、国王はこちらを一瞥すると棚のいっかくへ行き、ごそごそと何やら探し始めた。



『さて、先ほどの話の続きじゃが。解決策というのはこれじゃ』



 国王の手にはピンク色の液体が入った透明の容器、そこから延びる針と反対側には液体を押し出すためにあろうもの。何かはわからなくとも、これから何をするのかだけはわかった。



『これには魔族の体液を混ぜたものが入っておる。生命力の高い吸血鬼の血に、怪力と知られるオークの精液、それから脚の速いとされるウォーウルフの唾液と実にさまざまじゃ。』



 その後も得体の知れない液体についての説明が延々と続いた。大半が理解できるものではなかったが、それでもそれが人道を踏み外しているものというのはわかった。

 饒舌に語る国王の口元は嫌らしいほどにつり上がっている。



『それで、一体何を...』



『決まっておろう。勇者が弱い、ならば強い勇者を生み出せばいいだけのことじゃ!』



 そういうやいなや僕の首筋に液体の入った容器を突き立てる。鈍い痛みとともに中の液体流れてくるのが感じられた。自分の体温とは違った冷たいものが自分の中に流れ込んでくる。



『うがあア、ああアアアぁァ』



 最初に気付いた時は右目だった。視界が暗転し瞼から何かが零れ落ちた。身体が痙攣し始めうまく動かすことができなくなる。激痛に苛まればがら、残った左目で身体を確認してみれば、左腕が自分の意思とは関係なし動き始めていた。自分の身体が自分のものではなくなる感覚。恐怖と痛みを誤魔化そうと絶叫するも、頭からこびりついて離れようとはしない。



 左足から鮮血が上がった。

 血管が裂けたのだろう。

 わき腹が膨張して破裂した。

 内臓に異常をきたしたようだ。

 左腕が自分の意思に反して、曲がってはいけない方向へ曲がろうとする。

 ああ...折れたようだ。



『ナ二...がぁ...?』



 自分の口から出た疑問の言葉は一体何に対してものだったのか。何がおきたのか、何をされたのか。何もわからずに意識は遠のいていく。



 アリアはどうなったのだろうか。周りの音が何も聞こえない。そりゃそうか、この状況で耳だけが無事なんてことあるわけがない。

 最後のにじむ視界に見えたのは、アリアではなくにやついた国王の口元だった。
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