11番目の神 ~俺と勇者と魔王と神様~

琴乃葉ことは

文字の大きさ
27 / 44
第二章『それは、確かな歴史』

第二十六話「失踪」

しおりを挟む
 エノラはよく俺たちに話しかけてきていた灰色髪の子。シルフィアさんとはエノラの亡き親の代わりに保護者を務めていた人な筈だ。その二人が居なくなっているだと?

「どういうことだ」

「シルフィアさんにはいつもお世話になっているので、夕食のお裾分けをしようと訪問したんです。そしたら反応が無くて...... でもこの時間に留守なのも変だと思って確認したら、鍵が掛かって無かったんです。何かおかしいと思って家の中を覗いたら部屋が荒らされていて!」

 余程混乱しているのか 女性の言葉は早口で、必死に俺たちに伝えようしてくれている。

「ま、まって。夕食のお裾分けって、それはいつの話?」

 そうだ、もう夜も深い。世間一般の生活リズムでは、既に寝る準備をする時間帯だろう。

「だいたい二時間くらい前の話です」

「ボルガー!!」

 それだけで全てを察したリリィーが、ボルガーを怒鳴りつける。

「申し訳ありません。お手を煩わせるわけにはいかない思い、部下たちを使い捜索部隊は出したのですが」

「見つからなかったのね」

 リリィーの声はいつもと全く違い冷ややかだ。隣にいる俺がビビってしまった。

「良い? 次から問題が起きたらまず私たちに知らせなさい。わかったら返事を」

 リリィーの珍しく本気の怒気をくらい、怯むボルガー。あせり、どもりながらも返事をする。
 可哀想なことに隣にいた女性まで怒気にあてられ怯えていた。

「おいリリィー、説教は後だ。すぐにイブとシオンを連れて街へとぶぞ。現場に行けば何か手掛かりがあるかもしれない」

「わかったわ。私はシオンを探してくるからあんたはイブを」





 なかなか起きないイブを叩き起こし、何とか全員揃ったところで街へ転移。エノラの家を知らなかったので直にとべなかったが、女性に案内され急いで家の中を確認する。

「これはひどいね」

 あまりに無残な状態にシオンの口からそんな感想がもれる。
 部屋の中のものは散乱し、日常的に使われていであろうクッションは引き裂かれ、中の綿があちこちに散らばっている。ベットの周りにあるシーツも同じように引き裂かれ、とても使えるようなものではない。

 その現場を見て事の大きさがわかって来たのか、先程まで眠たそうにしていたイブも神妙な顔つきになる。

「魔物......?」

「普通に考えたらそうだろうね。けど——」

「ありえないわ。街には私がはった結界がある。魔物なら上空からだろうと、地中からだろうと入れないわよ」

 シオンの言葉を、結界を張る当事者たるリリィーが引き継ぎ、魔物である可能性を否定する。

「それは絶対か?」

「絶対よ」

 もしかしたら結界をすり抜けられるような特殊な魔物もいるかもしれない。そう思い聞いてみたが、絶対だという力強い眼差しは信じるしか無さそうだ。

「わかった信じよう。だが、だとすると今回の件は人の仕業ってことになる」

「そうだね。そして、人間がこんな所まで来ると思えないから、一番可能性の高いのは魔族って事になる。この辺に魔族の集落はあるのかい?」

 シオンの問いに、元から魔界に住んでいたボルガーとリリィーが答える

「すみません、この辺の土地には詳しくないもので」

「私もわからないわ。でもあっても不思議じゃないわよ。把握出来てない種族なんていっぱいいるもの」

 二人の襲われる動機も分からないし、唐突な事件のせいであまりにも情報が少ない。このまま考察を深めていっても意味は無いか。

「イブ、二人の居場所を調べられるか」

「ん...... ちょっと待って......」

 イブは目を瞑り精神を集中させる。付近にそれらしい気配はないのか、少し時間がかかりそうだ。

 その間に何か調べ残した物は無いかとあたりをざっと見渡していると、ずっと俯き考え込んでいるシオンが目に入った。

「どうしたんだ?」

「ちょっと気になる事があってね。この部屋には土が一切落ちて無いんだ」

「土?」

「うん、少なくとも土足で入ったものはいないってことになる」

「それはつまり——」



「いた...... ここから5キロメートル南にある森の手前に二つの反応......」

 それを聞いたリリィーが眉をひそめる

「まずいわね。邪龍のいた山と違って、あの森には普通に魔物がいるわよ。しかも、あそこは探知系のスキルや魔法が阻害されるわ」

「クソッ! 何でそんな都合よく」

「珍しいことじゃないわよ。魔界にはそういう特殊な場所はたくさんあるわ。でも今回は偶然じゃないでしょうね。おそらく私たちの探知から逃れるため」

「もう森に入る......」

「二人とも転移は!?」

 俺はその森に入ったことがない。最後の望みとしてリリィーとイブに聞いてみたがやはり二人は首を振る。

「なら走るぞ! 全力でだ! 人手がいる。シオンはボルガーをつれてこい!」

「わかったよ」

 シオンがボルガーの腕をガシリと掴む。

「え、あの、私は自力でも」

「いや、言ったでしょ。全力だって」

 シオンがニコリと微笑むと、ボルガ―は一歩後ずさる。しかし、掴まれた腕はびくもしない。大丈夫、大丈夫とシオンが半笑いで言っている。
 南無ボルガ―。緊急事態だ、耐えてくれ。


「あなたは家で待ってなさい。念のため鍵はちゃんと閉めるように」

 リリィーは先ほど怯えさせてしまった女性に優しい声音で話しかける。
 人探しに人手がいるといえ、一般人の彼女を巻き込むわけにはいかないだろう。
 それは他の住人も同じだ。魔族や獣人、戦える人間はもちろんいる。だが悪いが、おそらく戦力外通告する事になる。
 5人で何とかするしかない。

「そうだ、魔物はどうする。このままじゃ襲われて万が一なんてこともあるぞ」

「それは大丈夫よ。〈エンチャント〉!」

 パチンッとリリィーが指を鳴らすと、俺たちの身体が淡い赤色に包まれた。

「これは?」

「一定範囲内の魔物を寄せ集める魔法をかけたわ。これで私たちが森に行けば魔物の危険は回避できるはず」

「ナイスだ! よし、みんな準備はいいな?」

 最終確認として皆を見渡すと、ボルガーを除く全員から各々の返事が返ってくる。

「それじゃあ——





 いくぞ!」

(スキル《踏み込み》《加速》《縮地》を発動しました)

 膝をたわめ、姿勢を低くし、思い切り前に踏み込む。これが異世界に来て初めての全力ダッシュだった。
 後方で空気の破裂する音が聞こえ、地面が抉れあたりにまき散らすが今は気にしていられない。俺の視界はかつて見たこと無いような速さで後ろへ流れて行く。動体視力があげられたこの身体でさえ霞んで見える。

 まずいな。思っていた以上に速い。他のみんなを置いてきてしまったかもしれない。リリィーやイブは一応、後衛職みたいなものだし。

 少し不安に思い振り向くが、なんてことはない。四人とも余裕の表情で俺の横に並走していた。

 リリィーは背中から、普段は隠している魔族特有の黒い翼を広げ、滑空するような形で付いてきている。魔族としての力を発揮しているせいか額から大きな角が伸びていた。
 イブはリリィーを真似たのか、白い翼を生やし飛んでいる。なんだあれ、初めて見た。

 そして、シオンに関してはボルガーを引き連れて走っている。どんな身体能力をしていたら、あの巨漢を持ちながら疾走できるんだ。

「ぬあああ”アア”ア”ァァ」

 ボルガーは走るシオンに腕を掴まれ、鯉のぼりのように、後ろに流されバタバタいっている。
 身長差的にボルガーの方が背が高いので、本来シオンに引きずられる事になるのだが、あまりの速さに身体が宙に浮いてしまっていた。
 あれ止まる時どうするんだろうか。

 だんだんと森に近づき魔物が見え始めたので速度を落とす。

「見えて来たわよ! もう魔法の範囲に入ってる。森中の魔物が寄ってくるから気を付けて」

 走り始めて二十秒ちょっと、既に森は目視できるところまで迫っていた。
 そこからうじゃうじゃと魔物たちの赤い瞳がこちらを凝視している。
 狼型、猿型、何を模しているのかもわからない獣たち。さまざま魔物たちがいるが共通して理性を失い、迫り来る俺たちに向け遠吠えを続けている。

 恐らくリリィーの魔法のお陰で狂乱状態になっているのだろう。その効果は抜群で本当に森中の魔物が集まっていると思う程に数が多い。

「正面突破するわよ!〈ウインドカッター〉!」

 リリィーが腕を払うと風の刃が出現し、魔物たちへと迫っていった。

「〈インクリース〉!」

 続けて唱えると、風の刃は二つ四つと倍に増え続け、瞬く間に幾千もの風の刃を作り上げる。
 その結果、敵意剥き出しにこちらに駆け出していた魔物の軍勢は、大半がその身を二つに分断された。
 青白い月明かりの下、赤い鮮血が四方八方に飛び散り、一輪の巨大な花を咲かせている。

 派手にやるな。あまりの光景に絶句した。
 いや待てよ?  これは使えるかも知れない。
 今は人手がいるんだ。いないなら増やせばいい。

「おいリリィー、今の魔法を俺にかけろ」

「無理よ。あの魔法は人には打てないし、そもそも生物には効果ないのよ」

「ならさっきのエンチャントと組み合わせてうて。お前なら出来るだろ?」

「もう!わかったわよ。出来なかったからって文句言わないでよね!〈エンチャント〉〈インクリース〉!」

 俺の身体を淡い緑色が包み込む。しかし、すぐに消えてしまい、もともと掛けられていた魔法の淡い赤色だけになってしまう。

「ほら、だから言ったでしょ」

(スキル《分身》を獲得しました)

 俺はニッと笑う。

「いや成功だ!」

(スキル《分身》を発動しました)

 俺の周りにノイズが走り、次の瞬間には俺と全く同じ姿形をした人間が四人現れる。
 顔も背丈も、それから身につけていたもの、何もかもが一緒で、若干薄気味悪くはある。
 リリィーの口が開きっぱなしだ。何というアホ面。後でいじってやろう。

「なるほど...... リリィー私にも掛けて......」

「ええ!?ま、まさかイブ、あなたも増えるの!?」

「はやくはやくー......」

 イブが期待を込めたようにリリィーを催促する。

「もうどうなっても知らないから!」

 ヤケクソ気味に放った魔法でもちゃんと機能はしていたようで、イブがオッケー......と小声で呟いたのが聞こえた。
 すると前触れなくイブの周りにノイズが走る。急に景色を変えられたのかと思う程唐突に、分身体が現れた。その数は四人。

 走りながらだがステータスを開いて確認する。


《分身》
 自分の分身体を四人まで出せる。分身体の身体能力は七割ほどまで落ちている。



 四人までか。欲を言えばもっと多い方が良かったが仕方ない。
 身体能力に物をいわせ、森中を駆け廻れば見つけられるだろう。その身体能力が下げられているのは痛いが、俺の力の七割なら問題無いはずだ。
 スキルは分身体でも普通に使えるようだし、むしろ十分過ぎるくらいだろう。

 それから、自分が受けていた魔法は分身体は受け継がないらしい。分身体たちに淡い赤色の光はなく、魔物を引き寄せる事は無さそうだ。

「捜索は俺とイブの分身体に任せよう。ひとまず俺たちは魔物の殲滅だ!」

 分身体たちが森の中へ散っていく。今日は長い夜になりそうだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

処理中です...