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第二章『それは、確かな歴史』
第二十七話「発見」
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木々がざわめき、遠くから魔物の遠吠えが聞こえてくる。しかも、一匹や二匹ではない。先日の魔物暴走を彷彿とさせるような声量が、そこにはあった。
おかしい。下調べでこの森はだいぶ奥地まで入らないと魔物は生息していなかったはずだ。どうして今日に限って。
「天罰かしらね」
一人ぼやくがその言葉を聞くものは誰もいない。別に自分も死んだところで構わない。目的が達成出来るのであれば。
私は、もう後戻りはできないところまで来ているのだ。
~~~~~~~~~~
ボルガーが雄叫びを上げながら、魔物の群れを薙ぎ払っている。
力任せに薙いだ右腕が魔物の頭蓋を破壊し再起不能にした。
「うおおぉらあぁぁ!舐めてんじゃねーぞ!魔物風情がぁ!」
魔物との戦闘になってからずっとあんな感じだ。シオンに振り回された鬱憤でも晴らすかのように、先程から獅子奮闘の活躍を見せている。
「すげーな」
思わず感嘆の声が漏れた。
それでも魔物たちは数で押し切ろうと、ボルガーを囲んでいく。
勝てないと分かりそうなものだが、リリィーの魔法のおかげか、魔物が撤退する様子は無い。
時間が経つごとに魔物の種類も増え始める。着々と包囲網が完成しつつあった。
そして、遂には三メートルを超える熊型のモンスターまで現れる。
「ハングレーベアか。おもしれぇ。まとめてかかってこいやぁ!」
体の半分が灰色の体毛に覆われおり、残り半分は良く見かける茶色の毛だ。
半グレーベアってか? 安直だな。誰が名づけたんだよ。
「うん、我ながらいい名前つけたわね」
「いや、お前かよ」
「ハングリーともかかってる?......」
「やめろ、イブ。これ以上いらん情報を増やすな」
ハングレーベアが前脚を振り上げ、その巨体を生かしてボルガーへのしかかる。
本来なら躱して反撃を打ち込むのがセオリーだが、バーサーク状態になっているボルガーにそんな選択肢はない。真っ正面から身体で受け止めて、力勝負に持ち込む。
熊と力勝負? しかも体格差から相手は体重までのせられるアドバンテージ。
「馬鹿か?」
「馬鹿ね」
「お馬鹿......」
「こらこら」
シオンに窘められるが、どう考えても馬鹿な選択だ。常人なら潰れされ、ひき肉になっているところだろう。
「はああぉぁ!」
気合一閃、ボルガーはハングレーベアを受け止めきると、その巨体を持ち上げ始める。
何つー馬鹿力だ。
そして、遠心力を使って振り回すと、周りの魔物へぶつけていく。そのままハンマー投げの要領で放り投げた。
ハングレーベアは綺麗な放物線を描き森の中へ消えていく。遠く木の枝が何本も折れる音ともに地響きが伝わってきた。
軽く100メートルはとんだか。オリンピック選手もビックリの記録である。しかも投げたのはハンマーではなく熊だ。
「おぉ、やるな。さすがに四天王の名は伊達じゃねーな」
見事な力技に口笛を吹きたくなる。
しかし、そんなことを言ってる間にも魔物の襲撃は止まらなない。
呑気に観戦してるように聞こえたろうが、ボルガー以外もそれぞれ乱戦を繰り広げていた。
魔法やスキルの大技で倒す事も出来るが、今回ばかりはそれが難しい。
理由は場所が森だということ。イブやリリィーの攻撃は強力過ぎる。一発放てば森の半分が消し飛ぶレベルだ。
それに魔物を殺しすぎると森の生態系が崩れる可能性もある。俺たちはあくまで時間稼ぎをすれば良いのだ。
上空から突っ込んできた鳥型のモンスターを、身体を捻って躱し、無防備な背後へ短剣を突き立てる。
続けて左右から挟み込んできた狼型のモンスターが、首筋を噛みちぎろうと飛び掛かってきた。
片方は短剣の投擲で迎撃し、もう片方はギリギリまで引き寄せ膝蹴りをくらわせてやる。
個々の強さは大したことないが、あまりに数が多い。少々面倒になってきたな。
「キリがないわね。一旦まとめて吹き飛ばすわ。〈グラビティー〉!」
リリィーを中心に重力場が発生し、魔物たちがどんどん吹き飛ばされていく。
「おまっ、それパクリじゃねーか!」
「いいじゃない。だって、使い勝手いいんだもの」
魔物の叫声が一時的にだが消える。
これでとりあえず襲撃は収まった。飛ばされた魔物が戻ってくるまではしばらく安全だろう。
一息つくと上からガサガサと音がする。見上げて見ると、木を伝ってきたのか、俺の分身体の一人が上から降って来た。
「おい、いたぞ。ここから南西に500メートルくらいだ。どうやら湖に向かってるらしい」
「湖か。敵の姿は見たか?」
「いや、見てない。というか奇妙な状況でな」
「奇妙な状況?」
「まあ、それは自分の目で確かめてくれ。魔物は俺達とイブの分身体で抑えつけておく。ほら、バトンタッチだ」
分身体と手を打ち鳴らし、あとの場を任せる。
入れ替わるように、今度は俺が木の上へ登る。皆を引き連れ、木々を飛び移りながら湖へと向かった。気分はさながら某忍びアニメのよう。
これで地上の魔物を無視できる。空を飛ぶ魔物もいくらかいるが、その程度では何の障害にもならない。
(スキル《思考加速》《並列思考》《冷静沈着》を発動しました)
移動を続けながら俺は思考する。
今回の騒動、おそらく魔物の仕業でも無ければ、外部の者でもない。
シオンは言っていた。家の中に土足で上がった形跡がないと。
つまり犯人はシルフィアさんやエノラが、警戒せず家の中に入れしまうような距離間の人だ。
それで考えられるのは同じ街の住人。動機はわからないが、今一番可能性が高いのはこの線だ。一ヶ月もあれば家の中に入れる仲の人もできるだろう。
問題は誰か?だが、今更二人の交友関係を調べるなんて事はしてられない。
今からこの目で見ればいいだけの話だ。
拳を握り締め、事態の収拾のために気合を入れる。
が、そこで脱力し力無く手のひらに視線を落とす。
発動させたスキルは健在で、今も俺の頭の中では何十通りもの可能性を検証し続けている。
スキルを重ねがけしていることで、常人ではあり得ない思考能力が今の俺にはあった。
その頭が、スキルが俺に一つの最悪の可能性を訴えかける。
いやあり得ないだろ。だって動機がない。あってはいけない。
自分にそう言い聞かせるが、あらゆる状況証拠が、否応無く一つの最悪な可能性へとたどり着かせる。
「どうしたんだい?」
表情が強張っていたのか、シオンに問いかけられる。
「いや、何でもない」
それだけ返して先を急ぐ。 全てはこの先へ向かえば分かるのだから。
「いました」
ボルガーが茂みの陰に着地したのにならい、全員でその場に降り立つ。
湖のほとりには一人の女性がいた。否、一人では無ない。その女性は女の子を背中に背負っていた。
《遠視》を使えば顔まで判別できる。エノラとシルフィアさんだ。背中のエノラはどうやら眠っているようである。
シルフィアさんの顔には強い疲労感が見て取れた。頰に出来ている皺のせいもあるのか、それでも、以前よりやつれているように見える。
その場を動く気がないのか、シルフィアさんは呆然と水面を見つめ、じっと何かを考えている様子だ。
「他に人の気配は無さそうですが」
ボルガーが辺りを注意深く見回しながらそういう。
スキルや魔法の探知では無い。至極単純な、[何となくそう思う]という感覚。
しかし、そう馬鹿に出来るものではない。普通の人でも背後に立たれたら何かいると思うだろう。ボルガーそれは、その強化版みたいなもんだ。
歴戦の戦士だからこそ感じ取れるものか。ボルガーがいないと言うならいないのだろう。少なくとも俺の感覚よりは信用できる。
「ユウキ、これはもしかしたら......」
「ああ、最悪のパターンかも知れない」
そんな会話を俺とシオンがした時だった。
シルフィアさんが、エノラを湖に向かって突き飛ばしたのは。
おかしい。下調べでこの森はだいぶ奥地まで入らないと魔物は生息していなかったはずだ。どうして今日に限って。
「天罰かしらね」
一人ぼやくがその言葉を聞くものは誰もいない。別に自分も死んだところで構わない。目的が達成出来るのであれば。
私は、もう後戻りはできないところまで来ているのだ。
~~~~~~~~~~
ボルガーが雄叫びを上げながら、魔物の群れを薙ぎ払っている。
力任せに薙いだ右腕が魔物の頭蓋を破壊し再起不能にした。
「うおおぉらあぁぁ!舐めてんじゃねーぞ!魔物風情がぁ!」
魔物との戦闘になってからずっとあんな感じだ。シオンに振り回された鬱憤でも晴らすかのように、先程から獅子奮闘の活躍を見せている。
「すげーな」
思わず感嘆の声が漏れた。
それでも魔物たちは数で押し切ろうと、ボルガーを囲んでいく。
勝てないと分かりそうなものだが、リリィーの魔法のおかげか、魔物が撤退する様子は無い。
時間が経つごとに魔物の種類も増え始める。着々と包囲網が完成しつつあった。
そして、遂には三メートルを超える熊型のモンスターまで現れる。
「ハングレーベアか。おもしれぇ。まとめてかかってこいやぁ!」
体の半分が灰色の体毛に覆われおり、残り半分は良く見かける茶色の毛だ。
半グレーベアってか? 安直だな。誰が名づけたんだよ。
「うん、我ながらいい名前つけたわね」
「いや、お前かよ」
「ハングリーともかかってる?......」
「やめろ、イブ。これ以上いらん情報を増やすな」
ハングレーベアが前脚を振り上げ、その巨体を生かしてボルガーへのしかかる。
本来なら躱して反撃を打ち込むのがセオリーだが、バーサーク状態になっているボルガーにそんな選択肢はない。真っ正面から身体で受け止めて、力勝負に持ち込む。
熊と力勝負? しかも体格差から相手は体重までのせられるアドバンテージ。
「馬鹿か?」
「馬鹿ね」
「お馬鹿......」
「こらこら」
シオンに窘められるが、どう考えても馬鹿な選択だ。常人なら潰れされ、ひき肉になっているところだろう。
「はああぉぁ!」
気合一閃、ボルガーはハングレーベアを受け止めきると、その巨体を持ち上げ始める。
何つー馬鹿力だ。
そして、遠心力を使って振り回すと、周りの魔物へぶつけていく。そのままハンマー投げの要領で放り投げた。
ハングレーベアは綺麗な放物線を描き森の中へ消えていく。遠く木の枝が何本も折れる音ともに地響きが伝わってきた。
軽く100メートルはとんだか。オリンピック選手もビックリの記録である。しかも投げたのはハンマーではなく熊だ。
「おぉ、やるな。さすがに四天王の名は伊達じゃねーな」
見事な力技に口笛を吹きたくなる。
しかし、そんなことを言ってる間にも魔物の襲撃は止まらなない。
呑気に観戦してるように聞こえたろうが、ボルガー以外もそれぞれ乱戦を繰り広げていた。
魔法やスキルの大技で倒す事も出来るが、今回ばかりはそれが難しい。
理由は場所が森だということ。イブやリリィーの攻撃は強力過ぎる。一発放てば森の半分が消し飛ぶレベルだ。
それに魔物を殺しすぎると森の生態系が崩れる可能性もある。俺たちはあくまで時間稼ぎをすれば良いのだ。
上空から突っ込んできた鳥型のモンスターを、身体を捻って躱し、無防備な背後へ短剣を突き立てる。
続けて左右から挟み込んできた狼型のモンスターが、首筋を噛みちぎろうと飛び掛かってきた。
片方は短剣の投擲で迎撃し、もう片方はギリギリまで引き寄せ膝蹴りをくらわせてやる。
個々の強さは大したことないが、あまりに数が多い。少々面倒になってきたな。
「キリがないわね。一旦まとめて吹き飛ばすわ。〈グラビティー〉!」
リリィーを中心に重力場が発生し、魔物たちがどんどん吹き飛ばされていく。
「おまっ、それパクリじゃねーか!」
「いいじゃない。だって、使い勝手いいんだもの」
魔物の叫声が一時的にだが消える。
これでとりあえず襲撃は収まった。飛ばされた魔物が戻ってくるまではしばらく安全だろう。
一息つくと上からガサガサと音がする。見上げて見ると、木を伝ってきたのか、俺の分身体の一人が上から降って来た。
「おい、いたぞ。ここから南西に500メートルくらいだ。どうやら湖に向かってるらしい」
「湖か。敵の姿は見たか?」
「いや、見てない。というか奇妙な状況でな」
「奇妙な状況?」
「まあ、それは自分の目で確かめてくれ。魔物は俺達とイブの分身体で抑えつけておく。ほら、バトンタッチだ」
分身体と手を打ち鳴らし、あとの場を任せる。
入れ替わるように、今度は俺が木の上へ登る。皆を引き連れ、木々を飛び移りながら湖へと向かった。気分はさながら某忍びアニメのよう。
これで地上の魔物を無視できる。空を飛ぶ魔物もいくらかいるが、その程度では何の障害にもならない。
(スキル《思考加速》《並列思考》《冷静沈着》を発動しました)
移動を続けながら俺は思考する。
今回の騒動、おそらく魔物の仕業でも無ければ、外部の者でもない。
シオンは言っていた。家の中に土足で上がった形跡がないと。
つまり犯人はシルフィアさんやエノラが、警戒せず家の中に入れしまうような距離間の人だ。
それで考えられるのは同じ街の住人。動機はわからないが、今一番可能性が高いのはこの線だ。一ヶ月もあれば家の中に入れる仲の人もできるだろう。
問題は誰か?だが、今更二人の交友関係を調べるなんて事はしてられない。
今からこの目で見ればいいだけの話だ。
拳を握り締め、事態の収拾のために気合を入れる。
が、そこで脱力し力無く手のひらに視線を落とす。
発動させたスキルは健在で、今も俺の頭の中では何十通りもの可能性を検証し続けている。
スキルを重ねがけしていることで、常人ではあり得ない思考能力が今の俺にはあった。
その頭が、スキルが俺に一つの最悪の可能性を訴えかける。
いやあり得ないだろ。だって動機がない。あってはいけない。
自分にそう言い聞かせるが、あらゆる状況証拠が、否応無く一つの最悪な可能性へとたどり着かせる。
「どうしたんだい?」
表情が強張っていたのか、シオンに問いかけられる。
「いや、何でもない」
それだけ返して先を急ぐ。 全てはこの先へ向かえば分かるのだから。
「いました」
ボルガーが茂みの陰に着地したのにならい、全員でその場に降り立つ。
湖のほとりには一人の女性がいた。否、一人では無ない。その女性は女の子を背中に背負っていた。
《遠視》を使えば顔まで判別できる。エノラとシルフィアさんだ。背中のエノラはどうやら眠っているようである。
シルフィアさんの顔には強い疲労感が見て取れた。頰に出来ている皺のせいもあるのか、それでも、以前よりやつれているように見える。
その場を動く気がないのか、シルフィアさんは呆然と水面を見つめ、じっと何かを考えている様子だ。
「他に人の気配は無さそうですが」
ボルガーが辺りを注意深く見回しながらそういう。
スキルや魔法の探知では無い。至極単純な、[何となくそう思う]という感覚。
しかし、そう馬鹿に出来るものではない。普通の人でも背後に立たれたら何かいると思うだろう。ボルガーそれは、その強化版みたいなもんだ。
歴戦の戦士だからこそ感じ取れるものか。ボルガーがいないと言うならいないのだろう。少なくとも俺の感覚よりは信用できる。
「ユウキ、これはもしかしたら......」
「ああ、最悪のパターンかも知れない」
そんな会話を俺とシオンがした時だった。
シルフィアさんが、エノラを湖に向かって突き飛ばしたのは。
応援ありがとうございます!
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