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第二章『それは、確かな歴史』
第二十八話「真相」
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隣でリリィーが、「あっ」と声を漏らす。
人は唐突な出来事や、衝撃的な出来事に対して反応が遅れる。それは俺たちも同じで、一瞬だけ身体が強張った。
けど、大丈夫だ、この距離なら今から動いても十分に間に合う。
助けに入るのは誰でも良かった。
しかし、俺にとっては予想外の人物が一番最初に動いた。そこには一切の躊躇いも無く、条件反射によって動いていたのだろう。
俺が動こうとした時、隣にいたはずのイブの姿は既に消えていた。
イブは湖の上に出現すると、両手を広げ、倒れ込むエノラを危なげなくキャッチする。
そして、優しく胸に抱き寄せると、ふわふわと水面上を移動して、近くの陸へと降り立った。
「そんなっ!?」
シルフィアさんが声をあげ、イブから一歩後ずさる。余りに予想外だったからだろう。後の言葉が続かず口をパクパクしている。
正直ちょっと意外だった。イブはあまり他人に関心を持たない。自ら積極的に人助けをする事などないと思っていたが。
「僕たちも行こう」
シオンの提案に頷き、俺たちもイブの元へ向かう。
茂みからぞろぞろと出てきた俺たちにシルフィアさんが驚きの声があげた。
「なっ、なんで貴方たちがこんなところにっ!?」
信じられないと言いたげに、口元を押さえるシルフィアさん。しかし、信じたくないのはこちらも一緒だ。
「それはこっちのセリフだぜ。シルフィアさん......」
「貴方、今自分が何をしたか分かってるの!?」
一部始終を見ていたからわかった。先程の行動は事故なんかではない。本人が意図的に起こしたものだ。
リリィーの問い掛けにシルフィアさんは口を噤む。
話したくないと言うのもあるのかもしれないが、それよりも俺たちが現れた事に未だ動揺しているらしい。
ちらりと横目にエノラを確認する。
エノラはイブに膝枕をされ横になっていた。
湖に身を投げ出されたものの、水滴一つ付いていない。無事に救出はできたようだ。
しかし、あれだけの事が起きた後だと言うのにエノラは依然、眠ったままだ。
「エノラは?」
イブに聞いてみれば、大丈夫だと言う意が返ってくる。
「けど、凄く深い眠り...... たぶん魔法薬で眠らされてる......」
そう言うと、イブはエノラの額に手をかざす。紫色の光が溢れて、エノラを優しく包み込んだ。
「魔法薬の効果は消せた......もうしばらくすれば起きると思う......」
それを聞いてほっと息を吐く。
とりあえずは一安心だ。何かが起きて手遅れになってしまう前には、間に合ったようである。
まあ、まだ何も解決ちゃいないんだがな。
改めてシルフィアさんを前に対面する。
「何故わかったの」
掠れた声でシルフィアさんがようやく声を出した。
「街を出る時、誰にも見られないよう気をつけていたのに」
「あんたのお隣さんがたまたま気づいて教えてくれたのさ」
「それにしても、一体どうやってこの短時間でここまで」
そこまでシルフィアさんは言って、あぁと何かに気づき力なく笑う。
「そういえば貴方たちには不思議な力があるんでしたね」
不思議な力。おそらく瞬間移動やテレポートの事を言っているのだろう。街の住人の前でも何度か使っていたからな。
とは言え、今回俺たちは転移系のものは一切使っていない。使えなかったというのが正しいか。
しかし、シルフィアさんからすれば走ってきたなんて発想に至るわけ無いので当然の推測なのだろう。
「いいですね!貴方たちは!それ程の力、ずるいじゃ無いですか!なんで...... なんで!私はこんなにも無力なんですか!」
急に大声をあげ出すシルフィアさん。やつれた表情からは悲壮感が漂い、見ているこちらとしても辛いものがある。
「お、落ち着いてください。まだ私たちはあなたがどうしてこんな行動にいたったのかすら分からないのです。一先ず話し合いませんか?」
ボルガーが宥めようとするが、それも逆効果か。彼女の瞳は、先程から俺たちの事を写していない。
「話し合い? 私が何のために動いたのか?」
言葉をきるとシルフィアさんはきょとんとした顔で首を傾げる。その姿にはどこか狂気を感じさせられた。
「アハハハハッ、まさか本当に何も知らずに来ただなんて。ふざけるんじゃないわよ! 何も知らないくせに私を止める? ふざけないで、ふざけないで、ふざけないで!!」
頭を抱え、髪を掻き毟り、何もかも拒絶しようとする。
以前あった時は良識的で、人当たりの良い人というイメージだったが、今は見る影もない。
いったいこの短期間で何があったというのか。
「こ......こは......?」
後方からエノラの戸惑いの声が聞こえる。だいぶ深い眠りだったようだが、ようやく眠りから覚めたらしい。
エノラは眠たそうに目をこすり、イブの膝もとから起き上がる。
「大丈夫......?」
イブに支えられ、多少ふらつきながらもしっかりとその足でたつ。周りを見渡し今の状況を確認出来たようだ。
「シルフィアおばちゃん」
エノラは困ったような顔をしてシルフィアさんを見つめている。
今の状況に驚かないということは眠る前にも二人の間で何かあったのだろう。
エノラが起きたことに気付いたシルフィアさんは、何事かブツブツ呟いていたかと思うとキッとエノラを睨みつける。
「復讐よ」
誰に? エノラに? 確かにエノラやシルフィアさんの過去を俺たちは知らない。だがこんな少女が人から恨みを買うことなんて有るのか?
俺たちが反応を返せないでいると、シルフィアさんは心底おかしそうに笑う。
「フフフッ。やっぱりあなた達も知らなかったみたいね」
そう言うとシルフィアさんはこちらにゆっくりと近づいてくる。
「私はね、とある一族に夫と娘を殺されたのよ」
「とある一族?」
「私の家族は商人の家系でね、街から街へ移動して旅するのが常だった」
突如語りだしたシルフィアさん。
「ああ、あの日は天気が良かったわね。私が乗ってた積荷と、夫と娘が乗っていた積荷、いつものように冒険者も雇って安全な旅路の筈だった」
目を閉じ、懐かしむように顔を少しあげる。
「でもそこに、ある一族が襲いかかって来た。理由までは分からない。冒険者たちは全滅し、夫と娘が乗っていた積荷が狙われて、私だけが生き残った!」
大きな身振り手振りで、突如悲劇のヒロインを語る彼女は、エノラへ向けて一歩ずつ確実に歩を進める。
「でも生き残っても何が残ると思う?夫と娘をなくし生きる気力もなくなり、流されるままに私は奴隷の身へと落ち着いた」
基本的に奴隷は身寄りのない子供の方が多い。大人奴隷は珍しくはないが、シルフィアさんが奴隷だったのはそういうわけか。
「その後、襲ってきた一族は英雄が駆けつけて全滅させたそうよ。ただ一人、幼い少女を除いては」
幼い少女......?
「英雄も子供を殺すのには躊躇ったみたいね。でも考えてみて? 放置するわけにもいかない。人間を襲った者たちの子供の生き残り。行きつく先は当然奴隷だった」
シルフィアが大きく息を吐く。まるで何かに耐えるように。
「皮肉よね。まさか自分の家族を殺した一族の子どもと奴隷生活を送っていたのよ。笑ってしまうわ」
「何を言っている......」
「私だって気づいたのは最近よ。きっかけなんて特にない。普通に生活を続けていた中で、ある日突然気がついた」
カツリとまた一歩、歩を進める。
「頭がおかしくなりそうだったわよ! 世話をしていた子供が自分の夫と娘を殺した一族だったなんて!!」
シルフィアさんがエノラの前に立ち塞がる。身長差からできた、上からエノラを見つめる瞳は充血し真っ赤に腫れていた。
頰に一筋の涙が伝う。
「それがこの灰狼種よ!!!」
シルフィアさんが手を振り上げる。その手はエノラの顔すれすれを通過し、長い髪の毛を巻き上げた。
人は唐突な出来事や、衝撃的な出来事に対して反応が遅れる。それは俺たちも同じで、一瞬だけ身体が強張った。
けど、大丈夫だ、この距離なら今から動いても十分に間に合う。
助けに入るのは誰でも良かった。
しかし、俺にとっては予想外の人物が一番最初に動いた。そこには一切の躊躇いも無く、条件反射によって動いていたのだろう。
俺が動こうとした時、隣にいたはずのイブの姿は既に消えていた。
イブは湖の上に出現すると、両手を広げ、倒れ込むエノラを危なげなくキャッチする。
そして、優しく胸に抱き寄せると、ふわふわと水面上を移動して、近くの陸へと降り立った。
「そんなっ!?」
シルフィアさんが声をあげ、イブから一歩後ずさる。余りに予想外だったからだろう。後の言葉が続かず口をパクパクしている。
正直ちょっと意外だった。イブはあまり他人に関心を持たない。自ら積極的に人助けをする事などないと思っていたが。
「僕たちも行こう」
シオンの提案に頷き、俺たちもイブの元へ向かう。
茂みからぞろぞろと出てきた俺たちにシルフィアさんが驚きの声があげた。
「なっ、なんで貴方たちがこんなところにっ!?」
信じられないと言いたげに、口元を押さえるシルフィアさん。しかし、信じたくないのはこちらも一緒だ。
「それはこっちのセリフだぜ。シルフィアさん......」
「貴方、今自分が何をしたか分かってるの!?」
一部始終を見ていたからわかった。先程の行動は事故なんかではない。本人が意図的に起こしたものだ。
リリィーの問い掛けにシルフィアさんは口を噤む。
話したくないと言うのもあるのかもしれないが、それよりも俺たちが現れた事に未だ動揺しているらしい。
ちらりと横目にエノラを確認する。
エノラはイブに膝枕をされ横になっていた。
湖に身を投げ出されたものの、水滴一つ付いていない。無事に救出はできたようだ。
しかし、あれだけの事が起きた後だと言うのにエノラは依然、眠ったままだ。
「エノラは?」
イブに聞いてみれば、大丈夫だと言う意が返ってくる。
「けど、凄く深い眠り...... たぶん魔法薬で眠らされてる......」
そう言うと、イブはエノラの額に手をかざす。紫色の光が溢れて、エノラを優しく包み込んだ。
「魔法薬の効果は消せた......もうしばらくすれば起きると思う......」
それを聞いてほっと息を吐く。
とりあえずは一安心だ。何かが起きて手遅れになってしまう前には、間に合ったようである。
まあ、まだ何も解決ちゃいないんだがな。
改めてシルフィアさんを前に対面する。
「何故わかったの」
掠れた声でシルフィアさんがようやく声を出した。
「街を出る時、誰にも見られないよう気をつけていたのに」
「あんたのお隣さんがたまたま気づいて教えてくれたのさ」
「それにしても、一体どうやってこの短時間でここまで」
そこまでシルフィアさんは言って、あぁと何かに気づき力なく笑う。
「そういえば貴方たちには不思議な力があるんでしたね」
不思議な力。おそらく瞬間移動やテレポートの事を言っているのだろう。街の住人の前でも何度か使っていたからな。
とは言え、今回俺たちは転移系のものは一切使っていない。使えなかったというのが正しいか。
しかし、シルフィアさんからすれば走ってきたなんて発想に至るわけ無いので当然の推測なのだろう。
「いいですね!貴方たちは!それ程の力、ずるいじゃ無いですか!なんで...... なんで!私はこんなにも無力なんですか!」
急に大声をあげ出すシルフィアさん。やつれた表情からは悲壮感が漂い、見ているこちらとしても辛いものがある。
「お、落ち着いてください。まだ私たちはあなたがどうしてこんな行動にいたったのかすら分からないのです。一先ず話し合いませんか?」
ボルガーが宥めようとするが、それも逆効果か。彼女の瞳は、先程から俺たちの事を写していない。
「話し合い? 私が何のために動いたのか?」
言葉をきるとシルフィアさんはきょとんとした顔で首を傾げる。その姿にはどこか狂気を感じさせられた。
「アハハハハッ、まさか本当に何も知らずに来ただなんて。ふざけるんじゃないわよ! 何も知らないくせに私を止める? ふざけないで、ふざけないで、ふざけないで!!」
頭を抱え、髪を掻き毟り、何もかも拒絶しようとする。
以前あった時は良識的で、人当たりの良い人というイメージだったが、今は見る影もない。
いったいこの短期間で何があったというのか。
「こ......こは......?」
後方からエノラの戸惑いの声が聞こえる。だいぶ深い眠りだったようだが、ようやく眠りから覚めたらしい。
エノラは眠たそうに目をこすり、イブの膝もとから起き上がる。
「大丈夫......?」
イブに支えられ、多少ふらつきながらもしっかりとその足でたつ。周りを見渡し今の状況を確認出来たようだ。
「シルフィアおばちゃん」
エノラは困ったような顔をしてシルフィアさんを見つめている。
今の状況に驚かないということは眠る前にも二人の間で何かあったのだろう。
エノラが起きたことに気付いたシルフィアさんは、何事かブツブツ呟いていたかと思うとキッとエノラを睨みつける。
「復讐よ」
誰に? エノラに? 確かにエノラやシルフィアさんの過去を俺たちは知らない。だがこんな少女が人から恨みを買うことなんて有るのか?
俺たちが反応を返せないでいると、シルフィアさんは心底おかしそうに笑う。
「フフフッ。やっぱりあなた達も知らなかったみたいね」
そう言うとシルフィアさんはこちらにゆっくりと近づいてくる。
「私はね、とある一族に夫と娘を殺されたのよ」
「とある一族?」
「私の家族は商人の家系でね、街から街へ移動して旅するのが常だった」
突如語りだしたシルフィアさん。
「ああ、あの日は天気が良かったわね。私が乗ってた積荷と、夫と娘が乗っていた積荷、いつものように冒険者も雇って安全な旅路の筈だった」
目を閉じ、懐かしむように顔を少しあげる。
「でもそこに、ある一族が襲いかかって来た。理由までは分からない。冒険者たちは全滅し、夫と娘が乗っていた積荷が狙われて、私だけが生き残った!」
大きな身振り手振りで、突如悲劇のヒロインを語る彼女は、エノラへ向けて一歩ずつ確実に歩を進める。
「でも生き残っても何が残ると思う?夫と娘をなくし生きる気力もなくなり、流されるままに私は奴隷の身へと落ち着いた」
基本的に奴隷は身寄りのない子供の方が多い。大人奴隷は珍しくはないが、シルフィアさんが奴隷だったのはそういうわけか。
「その後、襲ってきた一族は英雄が駆けつけて全滅させたそうよ。ただ一人、幼い少女を除いては」
幼い少女......?
「英雄も子供を殺すのには躊躇ったみたいね。でも考えてみて? 放置するわけにもいかない。人間を襲った者たちの子供の生き残り。行きつく先は当然奴隷だった」
シルフィアが大きく息を吐く。まるで何かに耐えるように。
「皮肉よね。まさか自分の家族を殺した一族の子どもと奴隷生活を送っていたのよ。笑ってしまうわ」
「何を言っている......」
「私だって気づいたのは最近よ。きっかけなんて特にない。普通に生活を続けていた中で、ある日突然気がついた」
カツリとまた一歩、歩を進める。
「頭がおかしくなりそうだったわよ! 世話をしていた子供が自分の夫と娘を殺した一族だったなんて!!」
シルフィアさんがエノラの前に立ち塞がる。身長差からできた、上からエノラを見つめる瞳は充血し真っ赤に腫れていた。
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