あなたと恋に落ちるまで～御曹司は、一途に私に恋をする～

あなたの本当の名前

3

伝票を差し出す。


うわ…


嘘…


めちゃくちゃ綺麗な手をしてる。


細くて長くて…


絶対にこの手は荒々しいお仕事をしてる人の手じゃない。


やっぱり…モデルさん？


お会計するだけなのに、なぜか恥ずかしくなる。


顔、見れないよ…


180cmはあるだろうこの人の顔を見るには、もっと私が顔をあげないとダメ…


でも、真正面しか見れない。


そう、高そうなネクタイしか…


『…1380円になります』


声がかすれて、しかもいつもより小さめな声になってしまった。


これ、完全に意識してるって思われてない？


いつもはもっと自然に出来るのに…


やっぱり、あんこさんのせいだ。


私、別にこの人を好きだとか言ってないのに…


自分でも、誰が好きで、誰に憧れてるとか…


そういうの、もう全然わからないんだから。


『カードで』


『は、はい』


かなりぎこちないやり取りの後、バイトの果穂ちゃんが他の接客を終えてこっちに来た。


『あ、もうお帰りですか～？』


嘘！


こんなにフランクにこのイケメンに声かけれるの、すごい。


直江 果穂(なおえ かほ)ちゃん。


21歳、大学生。


さすが…


若いし、可愛い子は違う。


『ああ』


『また来て下さいね。お待ちしてま～す』


笑顔で手を振る果穂ちゃん。


髪色はブラウンで、ストレートのボブスタイル。


21歳の若々しくキラキラした笑顔が可愛い。


その横で『あ、ありがとうございました』と愛想の無い挨拶をしてる私って…


自動ドアを出て行く後ろ姿を見送りながら、深いため息をついた。


『雫さん。あの人って、本当にイケメンですよね。でも、みんな名前も知らないんですよ』


『う、うん。あんこさんも言ってた』


その時『すみません』と男性が駆け込んで来た。