コンビニ店員の僕は異世界勇者だった件

鷹栖 透

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コンビニ店員の僕は異世界勇者だった件

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「いらっしゃいませー!」

かつて、咆哮するドラゴンを聖剣で両断したこの手は、今、震えながらレジ袋にカップ麺を詰めている。バーコードを読み取るピッという電子音は、魔王軍との最終決戦のファンファーレよりよほど僕を緊張させる。元勇者シオン。祝勝会で魔王城のワインセラーにあった年代物の「エルフの涙」を調子に乗って飲み干した結果、強制送還&所持金ゼロで現代日本に舞い戻ってきたのだ。生活のため、仕方なくこのコンビニでバイトを始めたのだが、勇者時代のスキルはレジ打ちには全く役に立たない。

「ポイントカードはお持ちですか?」

蚊の鳴くような声で尋ねると、女子高生は怪訝な顔で「ないです」とスマホ片手に素っ気なく答えた。レジ操作にもたつく僕を見て、彼女はため息をつく。異世界では、魔物の群れ相手に一歩も引かなかったのに、今やJKの視線に耐えられない。情けない…。

その時、店の入り口に怪しい人影が現れた。全身黒タイツに、ピンクのウサギの耳。謎の人物は、キラキラ光るおもちゃのステッキを握っていた。

…強盗…!? いや、まさかこんな格好で?

異世界で培った危機察知能力が、無駄に警鐘を鳴らす。心臓がバクバクと騒ぎ出した。しかし、僕の体よりも先に動いたのは、隣のレジのベテラン店員、佐藤さんだった。

「あら、いらっしゃいませ!魔法少女ちゃん!今日のおでんは、大根が魔法みたいに美味しいのよ!あと、たまごもプリキュア級にプリプリしてるわ!」

佐藤さんのマシンガン営業トークに、謎の人物はたじろぎ、「えっと…おでんの大根と、あと…えっと…その…プリキュアの…たまご…ください…」とモゴモゴと注文した。

「…え、ちょ、佐藤さん、今の…」

「はい?何か?」

レジを打ちながら、佐藤さんは涼しい顔で答えた。

「いや、あの人、強盗…かと思って…」

「あら、そう?この街の治安はいいから、強盗なんて滅多に来ないわよ。それにしても、最近の若い子は色んな格好するわねぇ。私なんか、昔はセーラー服にルーズソックスが流行って…」

佐藤さんは遠い目をしてレジを打ち始めた。異世界で魔族と死闘を繰り広げた僕より、このコンビニ店員の方がよっぽど逞しい。そう確信した瞬間だった。

レジを打ちながら、僕は小さくため息をついた。平和な日本での生活は、異世界よりも案外大変なのかもしれない。その時、ポケットの中で何かが振動した。「異世界転生者向け社会復帰ガイドブック」を開くと、小さな文字でこんな一文が書かれていた。

「勇者よ、真の戦いはここから始まるのだ。目指せ、コンビニ店長!」

…魔王より手強そうだな、これ。
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