騙し屋のゲーム

鷹栖 透

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第一章:祖父の土地と五百万の嘘

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空になったコーヒーカップを回し、ため息をついた。窓の外は燃えるような夕焼け。その光が、埃っぽい部屋を赤く染めている。この古びた家も、もうすぐ人の手に渡ってしまうのだ。

祖父の土地が、たった五百万で売られてしまった。売買契約書にサインした時の、ペン先の感触がまだ生々しく指に残っている。

祖父は、この土地を誰よりも愛していた。週末には一緒に畑を耕し、汗を拭いながら、いつかこの土地に家を建てて家族で暮らすのが夢だと語っていた。僕もその夢を共有していた。あの土の匂い、太陽の光、風の音…全てが、僕の
大切な思い出の一部だった。

しかし、三ヶ月前に祖父が亡くなり、すべてが変わってしまった。深い悲しみに暮れる間もなく、山下一郎という男が現れた。柔和な顔立ちの中年男は、落ち着いた声で、自分は祖父の古い友人だと名乗った。そして、驚くべきことを告げたのだ。

「加藤さん、実は生前、お父様は私にこの土地を売ると約束されていたのです。五百万で。遺言状に書くのを忘れてしまっただけで、彼はずっと私にこの土地を売却したいと考えていたんですよ」
青天の霹靂だった。そんな話を聞いたことは一度もなかった。五百万という金額は、相場よりはるかに安かった。疑念が湧いたが、山下の誠実そうな態度と、具体的なエピソードを交えた祖父との思い出話を聞かされるうちに、次第に彼の言葉を信じるようになっていった。

「お父様は、『明に苦労はさせたくない。だから、土地は信頼できる山下に譲り、そのお金で新しい人生を歩ませてほしい』と、私に何度も言っていました。」
山下の言葉の一つ一つが、僕の心を締め付けた。

父は既に他界しており、相談できる相手もいなかった。孤独と悲しみに塞ぎ込む中、山下の言葉は、まるで救いのようにも聞こえた。祖父の遺志を尊重したい。何より、祖父が僕を想ってくれていたという事実に、胸が詰まった。

その日のうちに、僕は山下の言う通りに土地の売買契約を結んでしまった。

サインをする指先は、かすかに震えていた。本当にこれでいいのだろうか?心のどこかで、小さな声が囁いていた。だが、僕はその声に耳を傾けなかった。

数日後、近所の不動産屋に土地の相場を尋ねてみると、十五百万は下らないと言われた。血の気が引いた。全身が凍り付くような感覚。僕は騙されていたのだ。山下の偽りの言葉に騙され、祖父の大切な土地を、不当な価格で売り渡してしまった。

五百万。

確かに契約書にはそう書いてあった。契約は有効だ。取り消すことはできない。目の前が真っ暗になった。

怒り、後悔、そして深い悲しみが、僕の心を押しつぶす。弁護士に相談することも考えたが、費用もかかるし、勝訴する保証もない。途方に暮れ、無力感に苛まれる日々が続いた。

そんなある日、インターネットで「土地 売却 トラブル」と検索してみた。画面に表示された無数のリンクの中で、一つだけ、異様なサイトが目に引っかかった。「どんな相談にも乗ります」という、簡素な文言と、不気味なほどシンプルなデザイン。

藁にもすがる思いで、サイトに記載されたメールアドレスに連絡してみた。すぐに返信が届いた。「明日、カフェで話を聞かせてください」
それが、すべての始まりだった。
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