騙し屋のゲーム

第六章：二千万の賭け、新たな標的

「二千万を用意しました。これで、山下の手に渡った土地を買い戻してください」

葛西は、分厚い封筒を差し出した。中には、二千万円分の札束がぎっしりと詰まっている。

「に…二千万！？」

僕は驚きのあまり、言葉を失った。こんな大金、見たこともない。

「もちろん、私の持ち出しではありません。これは、いわば投資です。加藤さんが土地を買い戻すことで、ゲームが始まる。」

「二千万、確かに受け取りました。これで、私の土地は取り戻せますね？」

カフェの片隅で、僕は葛西に確認した。受け取った封筒の重みが、まだ現実のことではないように感じられる。

「もちろんです。ですが、加藤さんには、もう一つ、極めて重要な役割があります」

葛西は、コーヒーカップを静かに回し、落ち着いた声で言った。視線は、カップの中の黒い液体に注がれている。

「山下には、まだ別の土地があります。都心部にある、かなり価値のある土地です。今回の真のターゲットは、その土地です。加藤さんには、その土地に関する情報を集めてもらいます。」

別の土地？ それは初耳だった。後藤が集めた情報には、そんな話はなかったはずだ。僕は、山下に別の土地があること、そしてそれが今回の計画の鍵となることに、軽い驚きと、同時に好奇心を覚えた。

「その土地を餌に、山下からより大きな利益を上げます。そして、彼に報いを受けさせる。二兎を追う者、一兎をも得ず、という言葉がありますが、今回は二兎を得るゲームです。」

葛西の目は、鋭く光っていた。まるで、獲物を狙うハンターのようだった。

「しかし、なぜ私にそんな重要な役割を…？」

「山下は、あなたを一度騙しています。あなたには、彼に近づく大義名分があり、また、騙される人間の心理を誰よりも理解している。今回の計画には、それが必要不可欠なんです。あなたは、私が用意する“偽の顧客”と山下を繋ぐ、重要な役割を担っていただきます。」

確かに、僕は山下に騙された。その時の悔しさ、怒り、絶望…今でも鮮明に覚えている。だからこそ、山下に復讐したい。そして、同じように、騙される苦しみを味わわせてやりたい。この申し出は、まさに願ったり叶ったりだった。

「今回の計画は、こうです。まず、あなたには山下に接触し、土地を買い戻したいと申し出てください。山下が安心して油断しているところに、我々が仕掛けた罠を発動させる。あなたは、舞台装置の一部となり、山下を罠へと誘導する役目を担っていただきます。」

葛西は、テーブルに置かれた紙ナプキンに、簡単な図を描きながら説明を始めた。複雑な情報操作、偽装工作、そして、緻密に計算された心理戦。まるで、巨大な蜘蛛の巣を張るように、山下の周りに罠が張り巡らされていく。

「わかりました。協力します」

僕は、迷いを振り払うように、力強く言った。

「いいでしょう。では、明日から早速、山下に接触してみてください。後藤くんが、あなたをサポートします。成功すれば、二千万の元金はもちろん、成功報酬もお支払いします。金額については、後日改めてご相談させてください。」

五百万円。

いや、それ以上の金額が手に入るかもしれない。これで、祖父の土地を取り戻し、新しい生活を始めることができる。そして、山下に復讐できる。

「今回のゲームは、より大きく、より危険なものになります。ですが、必ず成功させましょう。加藤さん」

葛西の言葉には、揺るぎない自信がみなぎっていた。僕は、彼の手腕を信じ、この危険なゲームに身を投じることを決意した。

新たな標的、山下。今度こそ、こちらが騙す番だ。