地面師の肖像

第一話 騙しの肖像

冷たい雨が、バブル崩壊後の傷跡が生々しい渋谷の街を濡らす。

虚飾の繁栄が剥がれ落ち、格差と貧困が影を落とすこの街で、九条京介は、まるで影のように雑踏をすり抜けていた。

ターゲットは、悪徳不動産ブローカー・佐伯隆一。強欲な佐伯は、地上げや不正融資で私腹を肥やし、多くの人々を路頭に迷わせてきた。

弱者を踏み躙り、富を独占する。そんな現代社会の歪みを象徴するような存在だった。

「俺は、あいつらを許さない…この街の闇を…俺は、必ず…。」

九条の呟きは、雨音に掻き消される。緻密に計算された偽造書類、巧妙な情報操作。

全てが完璧な罠だった。佐伯は、九条が用意した偽の投資話に目が眩み、5億円もの大金を手渡す。

契約成立の瞬間、偽のニュース速報が流れる。佐伯の不正融資疑惑が明るみに出たのだ。

顔面蒼白となる佐伯を冷ややかに見下ろし、九条は札束の入った鞄を手に、静かに姿を消した。

「ざまあみろ…。」

それは、弱者に対するささやかな復讐だった。

翌日、警視庁捜査二課の黒崎誠警部は、佐伯からの被害届を受け取る。

黒崎は、犯人が「地面師」と呼ばれる詐欺師であること、そして、数年前の未解決事件との関連性を直感する。

そして、伝説の地面師、「九条京介」の名が、黒崎の脳裏に浮かび上がる。

「今度こそ、お前を捕まえてみせる…。」

己の正義を胸に、黒崎は九条を追う決意を固める。

だが、この事件が、彼自身の正義観を揺るがす大きな波紋となることを、黒崎はまだ知らない。