君が心に入りこんできたから。

勇黄

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僕はまだまだだ。

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名残惜しそうに僕の手を握り
ホテルの部屋を後にしたサンに
僕が最後に言った言葉がある。


「僕はいつでも太陽たいようの味方だから。なにがあってもそれは変わらないから。」






その言葉を聞いてサンはまた一筋涙を流した。


そしてがしっ、と涙を拭い僕の目を見て頷き、まっすぐに前を見て出ていく姿を見送って。



(僕は超一流の俳優になって、絶対に太陽たいようと一緒に歩いていく。誰にも文句なんか言わせない。)

そう新たな決意をしてカバンから台本を取り出した。

(あと30分だけでも……。集中してがんばろう……。)








その夜の仕事は坂上龍之介さかうえりゅうのすけとのドラマの顔合わせや衣装合わせ、打ち合わせなどが詰め込まれたハードスケジュールで。


(坂上さかうえさん、多忙だもんな……。)



まずは制作陣、俳優陣との打ち合わせが行われた。



黒羽理務くれはおさむ役の坂上龍之介さかうえりゅうのすけです。よろしくお願いします!】

さすがの貫禄、と言った感じで坂上さかうえさんは堂々とした挨拶。


「……白鹿雨音しらしかあまね役の新堂雷音しんどうらいおんです。よろしくお願いいたします。」

僕も負けてはいられない、と深々とお辞儀をした。




プロデューサーや監督、脚本家、他のキャストなど一通り紹介が終わり、監督さんから坂上さかうえさんと僕が呼ばれる。




―――仮台本、読んでみてもらえたかな?―――

「はいっ。」
【はい。もちろん。】


―――少しここのところ、やってみてもらえないかな?―――


【はい。じゃあ、雷音らいおん。ちょっとこっちに。】


「…っ、はいっ!」



そのシーンは初めて理務おさむ雨音あまねを抱きしめる場面。


―――ハイ!スタート!―――



雨音あまね……俺は……君を愛してるんだ!】

「……く、黒羽くれはさん!?い、今……なんと……?」

【愛している……。】

ふいに抱きしめられて
呆然とする雨音あまね

震える手をようやくあげてそっと
黒羽くれはの背中に触れる。


―――カット!
雷音らいおんくん今の感じすごくよかったよ!―――



監督さんは早速、脚本家や助監督を集めいろいろと話し合っているようだ。





「……坂上さかうえ、さん?カットかかりましたよ?」

【……あ、ちょっと離れがたい!アハハ!】


僕を抱きしめたままの坂上さかうえさんから無理やり離れ衣服を整える。


「冗談はやめてくださいね?」

僕は平然と笑ってそう言って
水飲んできます、と
その場を離れた。

背中に突き刺さる坂上さかうえさんの視線が痛い。


水をもらい一気飲みしていると、衣装合わせお願いします、と声がかかり、戻るといろいろな衣装が用意されていて。


端から順に袖を通しては
坂上さかうえさんとのコントラストやサイズ感などのチェックを受けてどんどんと衣装が決まっていく。
中にはパジャマやバスローブなどもあって…。

(ラブラブなシーン、多い、もんな…。)


今更ながらに抱きしめられた感触に嫌な震えが来る。



【なぁ、雷音らいおん。台本のここなんだが、雨音あまねはどう思っていると解釈する?】

それはさっき演じたシーン。


「そう、ですね…。雨音あまねはずっと好きだった理務おさむに愛してると言われてまさか、という気持ちが大きすぎて戸惑っているのでしょう。だって理務おさむはずっと女性と付き合っていて、それを雨音あまねは見てきている。中学の時から8年の片思いですからね。」

【うーん。俺の解釈はちょっと違ってね。雨音あまねはあざといよ。わざと理務おさむを自分のほうにむくようにこの8年で徐々に距離を詰めてる。この時も計算なんじゃないかな…。】



「………たしかにそういう解釈もできるかもしれません。全体的に読んでみれば……まだラストはわかりませんが…。でもそれはありえる、でしょう、ね。……監督さんに相談してみましょう。」


【…。ああ。】



一緒に監督のところに行き、今、出た疑問をぶつけてみる。



―――そうだな。私の考えでは雨音あまねにはいろんな面があるんだ。純粋さ、あざとさ、一途さ、理務おさむを手に入れたい強い想い。一方、理務おさむは打算しかなかった心を変えられていく。少しづつ心の中に雨音あまねが入り込んで、それに翻弄される。2人ともあえて原作漫画は読まないように、と伝えてあると思うが、2人でセッションして理務おさむ雨音あまねの心を考えてみてくれないか?ラストの台本は3案あるが、どれにするかまだ決まっていない。2人の演技を見て決めようと思っている―――


【…………わかりました。】
「はい。………考えます。」






監督の元を離れ、僕は1人部屋の隅に座り込んだ。


坂上さかうえさんは
次のスケジュールがある、と
足早に去っていく。





と、僕のほうを振り向いて
【じゃ、雷音らいおんまた!】
とウインクを飛ばした。


(気持ち悪い……。)

その端正な顔立ちに
まわりのスタッフたちは
メロメロになっているというのに
1人寒気を感じながら
気持ちを切り替えて台本へとむかう。



一通り打ち合わせを終えてシェアハウスへ戻るとやっとちゃんと息ができる気がした。


(こんなんじゃ、だめだ…。こんなんじゃ…。僕はまだまだだ………。)




まだサンは帰宅していないようで、玄関にあったミッションカードには夜食を作ること、と、あった。





手を洗い着替えてキッチンに行き冷蔵庫を確認して夜食のレシピに目を通す。


「………レンジで茶碗蒸し!?僕にできるのかなぁ…まあ、やってみよう…。


卵、カニカマ…って、あ、これか!で、ねぎ、白だし…と水。
マグカップで、できる、と。じゃあ、えっと…。」


ボウルにレシピを見ながら水や白だしを計量して入れて卵液を作り、マグカップにカニカマとネギを入れてそこに注ぎ入れ、ラップをかけ1つは冷蔵庫に、1つはレンジに入れた。
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みんなの感想(1件)

影冬樹
2024.07.27 影冬樹

最初の冒頭が刺さり、良く分かると思った。面白い。

解除

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