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夜から夜明けまで 第六十話
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アナスタシアは、そこにいるひとびとを見る。
誰も異議を唱えることは、無かった。
アナスタシアは側にいるブラッドローズに、一瞬だけ目をとめると再び前を向き話を始める。
「皆さんもご存じだとは思いますが、アルケミアでは白い肌のひとは家畜として扱われます。つまり、彼らが魔道を為すために必要な生命力を供給するための下等な生き物ということです。彼らがそうするのは彼らなりの歴史的経緯があり、それはわたしたちの王国の成立と関わっていることでもありますが、それはさておいて」
アナスタシアは、ここで少し言葉を切る。
「シックスフィンガーは、白い肌であるにも関わらず魔道師として扱われていました。この理由がなんであるかということから、始めなければなりません」
ミシェル・デリダが、口を挟む。
「それはシックスフィンガーが、優れた魔法使いだということなのか?」
アナスタシアは、ゆっくり首を振った。
「いいえ。単に優れた魔法使いであったのなら、アルケミアでは優れた家畜にしかなれません。それにシックスフィンガーが優れた魔法使いに成ったのは魔道師として扱われた結果であり、逆ではないのです」
「なるほどな」
デリダは、少しため息をつく。
アナスタシアは、話を続けた。
「彼は、特殊でした。本来アルケミアでは白い肌のひとを魔道師として扱うのは、わたしたちが豚をひととして扱う以上に狂った行為なのですが、それ以上にシックスフィンガーは特殊だったのです」
「おれに言わせてみれば」
紙巻き煙草を燻らせていたミハイルが、呟くように言った。
「呪い師なんてものは、みんな特殊だよ」
アナスタシアは、にっこりとミハイルに微笑みかけた。
「まず、シックスフィンガーには指が六本あります」
ミハイルは、苦笑した。
アナスタシアは笑みを浮かべたまま、言葉を重ねる。
「アルケミアでは、そうした特異な身体的な特徴を持つことを、しるしを帯びるといいます。そして、しるしを帯びたものは家畜としては扱われず、奴隷となります」
「奴隷と家畜は、どう違う」
デリダの問いに答える変わりに、アナスタシアはブラッドローズを見た。
「アルケミアのことは、アルケミアのひとに説明してもらったほうがいいわね。ブラッドローズ」
ブラッドローズは、一瞬驚いた顔をしたが挑むような眼差しを回りに向けながら言った。
「家畜は殺して生命力を手に入れるための存在だが、奴隷は違う。それは要するに、実験生命体だ」
「実験? 何の実験だ?」
デリダの問いに、ブラッドローズはすまして答える。
「決まっている。魔法の実験だ」
アナスタシアはブラッドローズに頷きかけると、再び話を始める。
「奴隷たちは、魔法式にひとがどのような反応を示すのかを試すのに使われたり、上位の存在への供物とされたりします。シックスフィンガーは、まさに上位存在への供物とされたのです」
「上位存在? 魔族のことか?」
デリダの言葉に、アナスタシアは首を横に振る。
「ユビュ族というものを、ご存じですか?」
アナスタシアは、問いを返した。
デリダは、頷く。
「ああ、神話では女神アーシュラの音楽を奏でる上位次元の種族と言われていたな。シックスフィンガーは、そのユビュ族への供物だったのか」
アナスタシアは、頷いた。
「シックスフィンガーは、ユビュ族に差し出され彼らの世界に招かれた唯一の存在となったのです。つまり、ユビュ族の客人として認められた。そのような存在は、数千年にも及ぶアルケミアの歴史にはひとりもいなかった」
デリダは、眉間に皺をよせる。
「上位次元の存在に招かれただと。シックスフィンガーは我々の次元界を越えたということなのか」
アナスタシアは、頷いてみせる。
「ユビュ族は、わたしたちが景色を見るように未来と過去を見渡すことができるといいます。シックスフィンガーはそのような視座を持つわけではありませんが、彼の精神は時間線から解き放たれています」
誰も異議を唱えることは、無かった。
アナスタシアは側にいるブラッドローズに、一瞬だけ目をとめると再び前を向き話を始める。
「皆さんもご存じだとは思いますが、アルケミアでは白い肌のひとは家畜として扱われます。つまり、彼らが魔道を為すために必要な生命力を供給するための下等な生き物ということです。彼らがそうするのは彼らなりの歴史的経緯があり、それはわたしたちの王国の成立と関わっていることでもありますが、それはさておいて」
アナスタシアは、ここで少し言葉を切る。
「シックスフィンガーは、白い肌であるにも関わらず魔道師として扱われていました。この理由がなんであるかということから、始めなければなりません」
ミシェル・デリダが、口を挟む。
「それはシックスフィンガーが、優れた魔法使いだということなのか?」
アナスタシアは、ゆっくり首を振った。
「いいえ。単に優れた魔法使いであったのなら、アルケミアでは優れた家畜にしかなれません。それにシックスフィンガーが優れた魔法使いに成ったのは魔道師として扱われた結果であり、逆ではないのです」
「なるほどな」
デリダは、少しため息をつく。
アナスタシアは、話を続けた。
「彼は、特殊でした。本来アルケミアでは白い肌のひとを魔道師として扱うのは、わたしたちが豚をひととして扱う以上に狂った行為なのですが、それ以上にシックスフィンガーは特殊だったのです」
「おれに言わせてみれば」
紙巻き煙草を燻らせていたミハイルが、呟くように言った。
「呪い師なんてものは、みんな特殊だよ」
アナスタシアは、にっこりとミハイルに微笑みかけた。
「まず、シックスフィンガーには指が六本あります」
ミハイルは、苦笑した。
アナスタシアは笑みを浮かべたまま、言葉を重ねる。
「アルケミアでは、そうした特異な身体的な特徴を持つことを、しるしを帯びるといいます。そして、しるしを帯びたものは家畜としては扱われず、奴隷となります」
「奴隷と家畜は、どう違う」
デリダの問いに答える変わりに、アナスタシアはブラッドローズを見た。
「アルケミアのことは、アルケミアのひとに説明してもらったほうがいいわね。ブラッドローズ」
ブラッドローズは、一瞬驚いた顔をしたが挑むような眼差しを回りに向けながら言った。
「家畜は殺して生命力を手に入れるための存在だが、奴隷は違う。それは要するに、実験生命体だ」
「実験? 何の実験だ?」
デリダの問いに、ブラッドローズはすまして答える。
「決まっている。魔法の実験だ」
アナスタシアはブラッドローズに頷きかけると、再び話を始める。
「奴隷たちは、魔法式にひとがどのような反応を示すのかを試すのに使われたり、上位の存在への供物とされたりします。シックスフィンガーは、まさに上位存在への供物とされたのです」
「上位存在? 魔族のことか?」
デリダの言葉に、アナスタシアは首を横に振る。
「ユビュ族というものを、ご存じですか?」
アナスタシアは、問いを返した。
デリダは、頷く。
「ああ、神話では女神アーシュラの音楽を奏でる上位次元の種族と言われていたな。シックスフィンガーは、そのユビュ族への供物だったのか」
アナスタシアは、頷いた。
「シックスフィンガーは、ユビュ族に差し出され彼らの世界に招かれた唯一の存在となったのです。つまり、ユビュ族の客人として認められた。そのような存在は、数千年にも及ぶアルケミアの歴史にはひとりもいなかった」
デリダは、眉間に皺をよせる。
「上位次元の存在に招かれただと。シックスフィンガーは我々の次元界を越えたということなのか」
アナスタシアは、頷いてみせる。
「ユビュ族は、わたしたちが景色を見るように未来と過去を見渡すことができるといいます。シックスフィンガーはそのような視座を持つわけではありませんが、彼の精神は時間線から解き放たれています」
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