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夜明けから夜まで 第百十一話
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わたしは頷くと、春妃に向かって手を伸ばす。
怪訝な顔でわたしを見る春妃へ、にいっと笑いかけた。
「その本を貸して頂戴、座標位置を書き込まないといけないといけないでしょう」
春妃は頷くと、わたしにその分厚い本をよこした。
懐かしい重さを持つその本を片手で持って、ページを開く。
真っ白なページが、わたしの目に飛び込む。
わたしはもう一度、片手を春妃に向かって伸ばした。
問いかけるような目でわたしを見る春妃に、わたしは言った。
「書くもの、ペンか何かを貸してよ。座標位置がかけないじゃないの」
春妃は意外にも素直にペンを、差し出した。
それを受け取ると、わたしは自分の中にある座標を呼び出す。
それは、白昼夢を見るような行為だ。
目覚めながら夢を見ているわたしは、その情景を本へ書き込んでいった。
それは、シュールレアリスムの芸術家というよりは、アブストラクトの芸術家が描く作品に近い。
ただ、彼らの作品以上に幾何学的精緻さを持った文様を、わたしは描いていく。
ひとの手で描けるような文様では、無い。
しかし、目覚めながら夢の中にいるわたしは、普通ではとても描けないような文様を描きあげる。
わたしは、ふたつの文様を描きあげた。
ひとつは、わたしたちが王国へ帰るための座標位置。
もうひとつは、春妃が10年前に遡るための座標位置。
普通のひとにはその文様が何か理解できないかもしれないが、春妃であればそれを理解するはずだ。
わたしは、本を覗き込む百鬼をちらりと見る。
その顔には、この老いてしたたかなおとこには珍しく感心したような色があった。
わたしは、思わず胸が熱くなるのを感じる。
わたしはようやく老いてひねくれた家畜に対して、主導権をとったように思ったからだ。
まあ多分それは、ただの勘違いなのだろうとは思うのだが。
「これで、わたしたちが元の世界に戻る準備はできたのだけれど」
わたしは、百鬼と13号を交互に見る。
「百鬼、あなたは13号を一緒に連れていくつもりなの?」
百鬼は、頷く。
「ここに13号ひとり残すわけにもいくまい」
わたしは、眉間に皺をよせて考える。
「この世界から連れていけるひとは、一人だけなのよ」
「だったら、問題ありません」
13号は、爽やかな笑みを浮かべているような気がする。
「僕はアンドロイド型兵器なのですから、ひとではないのです」
13号は、百鬼とわたしを交互に見る。
「マスターの持っている刀と、同じ様な存在です」
まあ、そう言われればそうなのかもしれないと思う。
わたしは、もう一度春妃に向き直った。
「ねえ、それじゃあわたしたちを本の中へ召喚してくれるかな」
春妃は、頷く。
「礼を言っておくわ。ブラッドローズ」
わたしは、薄く笑う。
「等価交換でしょ。必要のない、礼を言うことはないよ。それより急ぐの、わたしたち」
春妃は、わたしの言葉に頷いた。
ふっと、ニューヨーク・プリズンの最上階にある部屋に、沈黙がおりてきた。
わたしは、部屋に佇むわたしたちの影が随分長いことに気がつく。
ようやく、わたしは助け手をつれて王国へと帰る時を迎えた。
しかし、西の空は黄金色の炎につつまれ燃え上がっている。
金色に燃え盛る世界の心臓である太陽は、今まさに焼けこげ廃墟となった世界の地平線から下へ沈もうとしていた。
わたしは、間に合ったのだろうか?
それとも、今戻っても既に手遅れになっているのだろうか。
わたしは、首を振って無意味な葛藤を捨て去る。
黄金の西日を全身に受け、薔薇色に頬を輝かせる春妃はおんな司祭の顔をしてわたしたちを見ていた。
そして、厳かに口を開く。
「フォン・ヴェックの名において、命ずる。ブラッドローズ、百鬼、13号。我が召喚に応じ、我が本にきたれ」
わたしの意識が、闇にのまれた。
ほんの少し瞳の奥に残った太陽の残照が、一滴の血の雫となって意識の闇を流れていく。
わたしは奈落の底へ落ちていくように、無意識の海へ沈んでいった。
怪訝な顔でわたしを見る春妃へ、にいっと笑いかけた。
「その本を貸して頂戴、座標位置を書き込まないといけないといけないでしょう」
春妃は頷くと、わたしにその分厚い本をよこした。
懐かしい重さを持つその本を片手で持って、ページを開く。
真っ白なページが、わたしの目に飛び込む。
わたしはもう一度、片手を春妃に向かって伸ばした。
問いかけるような目でわたしを見る春妃に、わたしは言った。
「書くもの、ペンか何かを貸してよ。座標位置がかけないじゃないの」
春妃は意外にも素直にペンを、差し出した。
それを受け取ると、わたしは自分の中にある座標を呼び出す。
それは、白昼夢を見るような行為だ。
目覚めながら夢を見ているわたしは、その情景を本へ書き込んでいった。
それは、シュールレアリスムの芸術家というよりは、アブストラクトの芸術家が描く作品に近い。
ただ、彼らの作品以上に幾何学的精緻さを持った文様を、わたしは描いていく。
ひとの手で描けるような文様では、無い。
しかし、目覚めながら夢の中にいるわたしは、普通ではとても描けないような文様を描きあげる。
わたしは、ふたつの文様を描きあげた。
ひとつは、わたしたちが王国へ帰るための座標位置。
もうひとつは、春妃が10年前に遡るための座標位置。
普通のひとにはその文様が何か理解できないかもしれないが、春妃であればそれを理解するはずだ。
わたしは、本を覗き込む百鬼をちらりと見る。
その顔には、この老いてしたたかなおとこには珍しく感心したような色があった。
わたしは、思わず胸が熱くなるのを感じる。
わたしはようやく老いてひねくれた家畜に対して、主導権をとったように思ったからだ。
まあ多分それは、ただの勘違いなのだろうとは思うのだが。
「これで、わたしたちが元の世界に戻る準備はできたのだけれど」
わたしは、百鬼と13号を交互に見る。
「百鬼、あなたは13号を一緒に連れていくつもりなの?」
百鬼は、頷く。
「ここに13号ひとり残すわけにもいくまい」
わたしは、眉間に皺をよせて考える。
「この世界から連れていけるひとは、一人だけなのよ」
「だったら、問題ありません」
13号は、爽やかな笑みを浮かべているような気がする。
「僕はアンドロイド型兵器なのですから、ひとではないのです」
13号は、百鬼とわたしを交互に見る。
「マスターの持っている刀と、同じ様な存在です」
まあ、そう言われればそうなのかもしれないと思う。
わたしは、もう一度春妃に向き直った。
「ねえ、それじゃあわたしたちを本の中へ召喚してくれるかな」
春妃は、頷く。
「礼を言っておくわ。ブラッドローズ」
わたしは、薄く笑う。
「等価交換でしょ。必要のない、礼を言うことはないよ。それより急ぐの、わたしたち」
春妃は、わたしの言葉に頷いた。
ふっと、ニューヨーク・プリズンの最上階にある部屋に、沈黙がおりてきた。
わたしは、部屋に佇むわたしたちの影が随分長いことに気がつく。
ようやく、わたしは助け手をつれて王国へと帰る時を迎えた。
しかし、西の空は黄金色の炎につつまれ燃え上がっている。
金色に燃え盛る世界の心臓である太陽は、今まさに焼けこげ廃墟となった世界の地平線から下へ沈もうとしていた。
わたしは、間に合ったのだろうか?
それとも、今戻っても既に手遅れになっているのだろうか。
わたしは、首を振って無意味な葛藤を捨て去る。
黄金の西日を全身に受け、薔薇色に頬を輝かせる春妃はおんな司祭の顔をしてわたしたちを見ていた。
そして、厳かに口を開く。
「フォン・ヴェックの名において、命ずる。ブラッドローズ、百鬼、13号。我が召喚に応じ、我が本にきたれ」
わたしの意識が、闇にのまれた。
ほんの少し瞳の奥に残った太陽の残照が、一滴の血の雫となって意識の闇を流れていく。
わたしは奈落の底へ落ちていくように、無意識の海へ沈んでいった。
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