キャプテン・ドラゴン

ヒルナギ

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第五話

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 ビリーとリンは、外に出る。ビリーは、そのまま宇宙港の施設の外に出た。外は真夜中であり、静まりかえっている。道端に止めてあるジープに近づくと、運転席に座っている、痩せた目付きの鋭い男に、声をかける。

「ヤン、依頼主をつれて来たよ」

 ヤンと呼ばれた運転席の男は、リンの姿を見て目を丸くした。ビリーはリンを後ろに座らせると、自分は助手席につく。ヤンが言った。

「依頼主って、まさか仕事を受けたんじゃ……」

「受けたよ」

 ヤンはため息をつくと、ジープのエンジンをかける。

「まぁ、いいすけどね、わたしとしちゃ最近の生活に退屈してたから。ただ、宇宙港で、派手なことをしなかったでしょうね」

「しない、しない」

 ビリーは、手を振りながら言った。

「派手なんてことは、しちゃいない。ただ、4人ほど殺したけど」

 ヤンは絶句した。

「まさか、キャプテン・ドラゴンと名乗ったりは?」

 後ろでリンが言った。

「わたしがいったわよ」

 ヤンはジープを発進させると、大きなため息をついた。

「どうして、そんなやっかいばかり起こすんですか! キャプテン、あんたはいつも事をややこしくする。だいたいですよ」

「落ちつけよ、ヤン」

「そうよ、落ちつきなさい」

「あんたに、言われる筋合いは無い!」

 ヤンは後ろの席の、リンに向かって怒鳴った。

「キャプテン、我々はお尋ねものなんですよ、戦後最大級の。銀河パトロールの巡洋艦が、百隻ほどこの星の軌道上に待機してたらどうすんですか」

 ビリーは夢見るように、微笑んだ。

「おれたちは、もっとタフな状況だって切り抜けてきただろ」

「そりゃ、あのころは戦争中だったから」

「そういうなら」

 ビリーは優しく笑う。

「もう一度戦争をおこせばいい」

 ヤンは絶句して、天を仰いだ。

「はいはい、好きにしてくださいよ、もう。あんたと組んだ、おれが馬鹿なんですよ」

「いや、ヤンには悪いとは思っている。一応ね」

「はいはい」

「今だってほら」

 ビリーは、前方を指さした。そこにはバリケードが築かれ、道路が封鎖されている。その前には、4体のパワードスーツが待機していた。

「こういう状況を引き起こしたのは、おれのせいといわれてもしかたないからなぁ」

 ヤンは、車を止めると下を向いて、首を振った。

「まぁ、いいっすよ、どうでも。とことんやりますよ、こうなりゃ」

 ヤンは、傍らに置いていた、グレネードランチャーを取り出す。AEE弾を装填し、照準をパワードスーツに付ける。

 4体のパワードスーツのほうでもこちらに気が付いたらしく、ビームライフルの銃口をこちらに向けていた。ビリーは、ジープにとりつけてあるバリアのスイッチを、入れる。

 ヤンが発砲したのと、ジープが7色の光に包まれたのは、ほぼ同時であった。ジープの回りで、無数の宝石が砕かれまき散らされたように、極彩色の光が跳ね回る。

 ジーブの回りの地面が乱反射したビームのエネルギーを受け、炎の地獄のように煙を上げ気化してゆく。ジープの前面は、狂気に犯された画家の造ったホログラムのように、原色の光が乱舞する。ジープのバリア発生装置が過負荷に耐えかねて悲鳴をあげるころに、AEE弾が炸裂した。

 一瞬にして、光の乱舞が消える。回りの地面は、灼熱地獄のように沸騰して煙をあげてはいるが。4体のパワードスーツは、足元で爆発したAEE弾の発する一時的な時空間の歪みの影響を受け、コントロールシステムが停止し、立ちすくんでいる。

「つっこむぞ、ヤン」

 ビリーは、宇宙刀を抜くと叫ぶ。

「がってんだ」

 ヤンはジープのエンジンをかけて、急発進させた。パワードスーツにはAEE弾に対する自己防衛機能が組み込まれて入るため、システムがダウンしても数分後には再起動される。

 ビリーは、宇宙刀のスイッチを入れた。宇宙刀自体は長さ20センチ程のロッドである。スイッチを入れることによって空間断層が生成され、パワードスーツレベルの装甲であれば楽に切り裂くことができた。接近戦では、これ以上強力な武器は無い。
 宇宙刀は次元を伸長して作り上げられた漆黒の空間断層で作られた刀身を持っており、所々でディラックの海と干渉し稲妻のようなエネルギー放出がおきている。

 ビリーは、車体をスライドさせながら急停車するジープから、飛び降りた。棒立ち状態のパワードスーツへ向かって、宇宙刀を薙ぐ。

 強引に次元を超えた断層を作り上げ、空間そのものを切断する宇宙刀が派手なエネルギー放出を行いながらパワードスーツを切断していく。闇の中で、無数の稲妻が放出され、目の眩むような景色が出現した。

 胴体を両断されたパワードスーツの上半身が、地面に転がる。その勢いで、もう一体のパワードスーツに宇宙刀を、叩きつけた。前面装甲が地面に落ち、中のパイロットの両断された上半身が、その上に落ちる。こぼれた内臓が白い蛇のように、のたうちながら蜷局を巻いた。

 残りの2体のパワードスーツの機能が、回復してくる。急激に動作させている為、駆動モータが悲鳴を上げるパワードスーツに、ビリーは斬りかかった。ビームライフルの銃身を切断し、宇宙刀を下から上へ切り上げる。

 下半身を縦に切られたパワードスーツは、膝を付き機能を停止した。残った一体のパワードスーツは、ビームライフルにエネルギーのチャージを行っている。

 ビームライフルの強制冷却装置が、エアを吹き出す。白熱した光が、夜の闇を貫くのと同時に、ビリーは地面へ身体を投げ出していた。

 宇宙刀で、パワードスーツの足を薙ぐ。足を切断されたパワードスーツは、後ろに倒れた。その胴体をビリーは宇宙刀で両断し、とどめを刺す。

 ビリーは宇宙刀のスイッチを切り空間断層を消滅させると、ジープへ飛び乗った。ヤンは、ジープを発進させる。バリケードは、跳ね飛ばした。

「この程度で終わりってこた、ないでしょうね」

 ヤンがうんざりしたように、言う。ビリーが物憂げに、頷いた。

「第2ラウンドが、始まりそうだな」

 その言葉を裏付けるように、背後の空に黒い影が三つ現れた。瞬く間に接近してきたその影は、ガンシップである。20ミリ機関砲を装備した、戦闘ヘリだ。サーチライトが凶悪な輝きで、地上を舐め回す。

「豪勢だな」

 ビリーは、小春日和のベランダで日光浴をしているような呑気さで、言った。ヤンは、ジープのスピードを上げながら叫ぶ。

「キャプテン、後ろにあれがあります」

「やっぱり、あれか」

 ビリーは、ため息をつく。リンが尋ねた。

「あれって何よ」

「D.D.C(デジタルデストロイキャノン)だ」

 ビリーが平然と言った言葉に、リンの表情が凍りつく。

「D.D.Cって宇宙戦艦とかが、装備しているやつ?」

「正確にはパトロール艇だが、まぁ、そう考えていい」

 ビリーは、漆黒の無反動砲のような形をした筒を、とりだす。ケーブルをジープのジェネレータへ接続していく。ターゲットスコープが蒼白い光を放った。ビリーはD.D.Cを肩に担ぐ。

「D.D.Cってナノマシンを放出してIT機器に感染することで、情報エントロピーを増大させて、システム上にバグを自然に生み出すんでしょ。そんなの地上で使えるの?」

 ビリーは、ヘリに照準を合わせながら言った。

「地上では使えないんじゃなくて、使われていないんだ」

 形態認識型追尾装置がガンシップの中から一機を選択し、ロックオンする。ガンシップはサーチライトでジープを捕らえ、20ミリ機関砲を発射した。ヤンが蛇行させるジープの周囲に20ミリ弾が着弾し、土煙が上がる。数発が車体をかすめ、火花を散らした。

 ビリーは揺れるジープの上で、D.D.Cを撃つ。D.D.Cの砲口が閃光を放ち、後部射出口から爆煙が噴出された。D.D.Cの砲弾はガンシップの近くで炸裂する。3機のヘリは一瞬燃え上がったように光に包まれたが、物理的被害はなくそのまま飛行を続けた。しかし、砲撃は止まっている。

 D.D.Cの砲弾は炸裂と同時に、肉眼では見ることのできない数ミクロンの大きさの半人工生命体ナノマシンであるワームを空中に散布していた。ワームは自らの意志により周辺のあらゆる集積回路内へと入り込んでゆく。ワームは自己の周囲の空間の場の性質を変動させ、情報エントロピー値を増加させる。その結果、集積回路は異常をきたす。

 3機のヘリは蛇行し始めた。

 ヘリは空中を迷走した末、近くの林に落ちる。燃料タンクに引火したのか、火柱が上がった。

「何か」

リンが呆然として言った。

「向こうのほうの街の明かりが消えたみたいだけど」

 リンは、D.D.Cの射線の先にあった街を指さしていった。その街は、黒い布を被せたように、闇に閉ざされている。ワームは爆風にのってかなりの距離に渡って散布されていた。通常半径一キロ圏内はワームによる汚染地域に指定される。ワームは散布後約十分間で死滅するが、その間に全てのシステムは起動不能に陥った。

「街をコントロールするシステムが、死んだようだな。ま、D.D.Cの有効範囲を制御するのは難しいからね。しょうがない」

「地上でD.D.Cを使うと、近くの街が壊滅するといってるわけ?それはやっぱり使われていないんじゃなくて、使えないのよ」

 ビリーは、恋人を口説く時のように、優しくいった。

「感性の違いだね。戦争に犠牲はつきものさ」

 リンは、自分の呼び出した男が何者であるか、理解し始めていた。

「あんたに、高い賞金がつくはずだわ。キャプテン・ドラゴン」

 ビリーは、楽しげな笑みをみせる。

「離発着場ですぜ、キャプテン」

 宇宙港は、一般旅客用シャトルの離発着用の施設と輸送船の離発着用の施設を別の場所に設置してある。ビリーたちのジープは、フェンスの破れ目を抜け、輸送船用の離発着場に入り込んだ。

 やがて、離発着場の片隅に停泊している古くて、くたびれた輸送船が見えて来る。ジープはその輸送船に向かった。

 リンは、うんざりしたように言う。

「あのしょぼい船に、のって来たの」

 ビリーは頷く。

「あれが我が、オダリスク号だ」

 その輸送船は、ちょうど卵を縦に断ち切ったような形をしている。平らな面を上にしたその船は、後部にあるハッチを開いていた。ヤンの運転するジープは、ハッチから輸送船の中へと入る。

 ビリーとヤンはジープから飛び降りると、ハンガーへジープを手早く固定した。そして、ハッチを閉じブリッジへ向かって駆けていく。リンは慌てて後に続いた。

 ブリッジにビリーとヤンは飛び込む。ブリッジは、正面にセンタースクリーンがあり、4機のオペレーションブースがあった。二人はコンソールのついたブースに入り込み、到底宇宙船のシートとは思えないような粗末な作りのシートに、身体を固定する。リンも、空いているブースへ飛び込むと、シートに身体を固定した。

ヤンが、エンジンを起動する。アイドリング状態だったらしく、レスポンスは驚く程速い。ヤンが、コンソールを操作しながら叫んだ。

「コントロールセンターから警告が来ました」

 ビリーは物憂げに応える。

「撃ち落としたければ、かってにしろといっとけ」

 船は、巨大な手に捕まれ持ち上げられたように上昇する。メインエンジンの轟音がかん高い悲鳴へと高まっていき、ついには物理的な衝撃に変わる。船は、上空目指して加速していった。リンは、強烈な加速に呻きを漏らす。

 暗い穴へ落とされたように視野が狭くなり、気が遠くなってくる。リンは闇に押し潰されるように、気を失った。


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