キャプテン・ドラゴン

ヒルナギ

文字の大きさ
10 / 21

第十話

しおりを挟む
 メイは、ガイ・ブラックソルから与えられた部屋にいた。そこは、惑星グランノアール上に設置された移動要塞と呼ばれるギガンティスクラスの戦艦の、一室である。

 士官用の居住スペースとして造られた部屋らしく、それなりの調度は整っていた。無機質的ながらも、設置されているベッドやソファ、デスクは高級ホテルに置かれているもののように、上質の家具だ。ただ、窓のかわりのように壁に設置されたスクリーンに映し出されている地表の風景は、荒涼としている。

 惑星グランノアールは、生物の住まない星であった。その地表は、砂嵐の吹きすさぶ灰色の大地が延々と広がるばかりである。

 荒れ果てた風景を見つめるメイは、ドアをノックする音を聞いた。メイが答える前に、扉を開き黒い革のバトルスーツを身につけた男が入ってくる。年は若そうだ。黒く長い髪をグリースで固め、痩せており、どこか飢えた獣を思わす顔をしたその男は、不良少年といった雰囲気を持っている。

「迎えにきたぜ、メイ・ローラン」

 メイは、無表情な瞳でその不良少年を見つめる。そして、うんざりしたように言った。

「一体、あなたたちは、わたしに何の用があるの。わたしをどうするつもり?」

「ああ、そいつは、ボスがこれから説明する。来れば判るよ」

「ボス?」

「ガイ・ブラックソルさ」

 メイは、立ち上がると言った。

「ようやく、ボスとお話ができるわけね。いいわ、行きましょう」

 メイは、不良少年の後を続く。

 二人は、昇降機に乗った。それは、どんどん下へと降りていく。おそらくこの巨大な戦艦の最下部へついたと思われる頃、二人は昇降機を降りた。

 二人のついた場所は、巨大な工事現場を思わせる空間だ。高い天井と広大なフロアに、大地を掘削する機械が、設置されていた。おそらく、元々は船底にあった倉庫なのだろう。そこに建築機材を設置し、船底を穿ち、さらに地下へと掘り進んでいるようだ。

 幾つかの端末が設置されており、その端末から建築機材をコントロールしているらしい。端末の前に座っている男たちは皆若く、組織の人間というよりは、街のチンピラふうであった。

 一人の男が、メイを見つけ近寄ってくる。その男に、見覚えがあった。ガイ・ブラックソルと名乗った男だ。

 コンサート会場で見た時よりもその男は若く、野性的に見えた。漆黒の瞳が、黒い炎のように輝いている。メイにはその少年が、黒い火焔に覆われているように見えた。

 ガイは、メイに向かって狼の笑みを見せる。

「行こうか、メイ・ローラン」

 メイは、うんざりしたように言った。

「どこへ行くというのよ。それに、一体わたしになんの用があるの」

 ガイは、昏く光る瞳でメイを見つめたまま、言った。

「ついてくれば、判る」

 ガイは振り向くと、歩きだした。メイはため息をついて、後に続く。ガイの向かっているのは、掘削作業の行われている現場の中心だった。そこには、ワイヤーで吊されたゴンドラがある。そのゴンドラで地面に穿たれた穴へ、降りていけるようだ。

 ガイは、無言でゴンドラに乗った。メイはそのゴンドラに乗り、ガイを真っ直ぐ見つめる。

「この惑星の、地下に降りるの?」

 ガイは、無言で頷く。メイは、月の精霊のように神秘的に輝く瞳で、ガイを睨む。

「そこに何があるかは、行ってのお楽しみというわけね」

 ガイはげらげら笑いながら頷くと、端末の前に立つ男へ指示を出した。ゴンドラはゆっくり降り始める。

 そこは、液体のような闇の中であった。ゴンドラの内部だけが、微かな照明で照らされている。メイは、漆黒の宇宙に浮かぶ黒い天使のようなガイを、見つめた。

 この闇の世界では、ガイと自分自身の二人しか存在しないような気がする。圧倒的な重量感を持つ岩盤に周囲を覆われ、深海のような闇をゴンドラは静かに降下して行く。

 メイとガイは無限の宇宙のような闇の中で二人きりであった。そこは、原始宗教の儀式の前のように、神聖に静まりかえっている。

 天上に輝く月のような地上への口が、しだいに小さくなっていき、ついには消えた。二人は完全な闇の中に居る。メイは、随分長い間、闇の中に居るような気がした。

「随分、深い所へ行くのね」

 メイの言葉に、ガイは嘲るような笑みを見せて答えた。

「心配するな。もうすぐ着く」

 メイは、やれやれといったふうに、肩を竦めた。ガイの言葉とはうらはらに、ゴンドラはさらに降下を続ける。その降下は、惑星の中心部についてしまうかと思う程続いた。

 突然、闇が途切れる。メイは、眼下に広がる景色に、息をのんだ。

「これは…」

 そこに見えたのは銀河であった。壮大な光の渦。銀色に煌めく光点が、無数に広がっている。それは、荘厳な地下の暗闇に浮かぶ、巨大な星の集合だ。よく見ると、その星と見える光点は銀色の透明な枝に繋がっていた。

 輝いているのは、銀色の大樹である。それはおそらく、一つの巨大な山脈に匹敵する程の大樹であった。

 ゴンドラは、銀色に薄く煌めく大樹の枝の中を、降下していく。星の海の中を、宇宙船で航海しているようだ。

「これは、一体?」

 メイの問いかけに、ガイは堅い表情で答える。

「銀河先住民族の遺跡さ。説明は目的の場所についてからだ。もう少し待て」

 銀の枝は複雑に絡み合いながら、光の束のような幹へ繋がっている。大樹の幹は、降りるにしたがって太さを増し、光も強くなっていった。

 メイは、銀色の星空の下へ入り込んだと思えるようになった頃、それが姿を現す。それは、まるで、銀色の幹に貼り付けられた暗黒の天使のように見えた。

 それは、星の海の中に広がる黒い闇の亀裂のような巨人である。おそらく、ベヒーモスクラスの宇宙戦艦くらいの大きさはあるだろう。その黒い体を持つ巨人は、漆黒の羽を8枚広げ、銀色の大樹の幹に絡みついている。

 その四肢は、人間のそれとは異なり、蛇のようにくねり、枝へ絡みついていた。

 そしてその胴体には、もうひとつ銀灰色の小さな巨人が絡みついている。その大きさは、小さいといっても巡洋艦くらいの大きさはあるようだ。

 銀灰色の巨人は、漆黒の巨人とほぼ同じ形態である。ただ、漆黒の巨人は強固な肉体を持つ男性に見えるのに対し、銀灰色の巨人は曲線的な肢体を持つ女性のようだ。

 その銀色に輝く海の中に沈んだ、闇色の堕天使のような巨人の表情が、降りるに従ってはっきりと見えてくる。その頭部は滑らかな卵形であり、凹凸は殆どない。ただ、その中央に、アーモンド型の単眼がある。

 漆黒の巨人のほうは、金色に煌めく単眼を持ち、銀灰色の巨人は、サファイアのように輝く青い単眼を持っていた。

 ゴンドラは、金色と青色に輝く二つの瞳の前を通って、下っていく。やがて下方にプラットホームが見えてきた。宇宙港の離着陸場一つぶんくらいの広さだ。どうやらそこが、目的地らしい。

 銀色の海に浮かぶ、青灰色の船のようなそのプラットホームには、幾つかの端末の他に、黒い棺が置かれていた。棺には、様々なケーブルが接続されている。

 ゴンドラは、海へ沈んだ船が海の底へ沈むように、プラットホームに着いた。

 メイとガイは、プラットホームへ降りる。

 メイは、巨人を見上げた。遥かに高い山の頂きのような所から、満月のように黄金に輝く漆黒の巨人の瞳と、宝石のように青く輝く銀灰色の巨人の瞳が見下ろしている。メイは畏怖の感情が、立ち上ってくるのを感じた。

「こいつはかつて、地球軍からユグドラシルと名付けられた古代の人工知性だ」

 メイは、黄金の瞳を見つめたまま言った。

「この巨人のこと?」

「いや、あれはこの人工知性のマン・マシンインターフェースとしての、端末にすぎない。人工知性としては、この銀色の木全体から構成される」

 メイは、ガイに視線を戻す。

「まさか、あなたこの人工知性を…」

「動かすのさ」

 メイは、ため息をついた。

「無理よ。一体どうやってアクセスするつもり?」

「巨人は2体あるだろう。黒い巨人は、銀河先住民族の造ったものだ。銀灰色の巨人は、あの黒い巨人を一部切り取って地球軍が模倣して作り上げた、インターフェーサだ」

「インターフェーサ?」

「そう。あの銀灰色の巨人へは、通常のサイバーネットワークへアクセスするように、入り込むことができる。そして銀灰色の巨人をコントロールすれば、あの黒い巨人も制御できるという訳だよ」

 メイは、真っ直ぐガイを見つめる。

「ユグドラシルと名付けられた人工知性のデータは、見たことがあるわ。地球軍は色々実験した結果、コントロール不能の結論を出したはず」

「できるさ」

 ガイは、世界そのものに向かって、戦いを挑むように微笑んだ。

「おれと、あんた。二人が力を合わせればね」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...