キャプテン・ドラゴン

ヒルナギ

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第九話

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 リンは、うんざりしたような顔で、ブリッジに戻ったビリーを出迎える。ビリーは、涼しげな笑みを返した。

「満足したかい?」

 リンは、ビリーの言葉に不思議そうに答える。

「何のこと?」

「わざわざ宇宙港でおれの名を出したという事は、おれの手の内を、見たかったんだろ。銀河パトロールのデータベースで、極秘にされているものを検索したとしても、おれの戦い方は判らないはずだ。何しろそんなものは、銀河連邦が押収した地球軍の記録から、抹消されているんだからな」

 リンは不機嫌そうな顔になり、ビリーを見る。ビリーは相変わらず恋人をベッドへ誘うような笑みを見せたまま、リンに囁く。

「あんたは、おれの能力を見極めたかった。しかし、よく憶えておけ。あんたのおかげで、死人がでてるという事をな」

「うんざり、させないでよ」

 リンは、嘲るような笑みを見せる。

「そんな事は、言われなくても知っているわ。戦争中に何百万も殺したのは、あなただけじゃないのよ」

 ビリーは、リンの脇のブースへ腰を落ち着ける。ヤンが言った。

「エンシェント・ロードへのアクセスポイントへ着きました。超光速空間へ移行します」

「まかせるよ、ヤン」

 ビリーは、投げやりに指示する。

 エンシェント・ロードとは、銀河先住民族が作り上げた星間航路であった。星系間には光の速度を超えなければ、到底たどり着けない距離がある。ただ、銀河先住民族と呼ばれる種族は、星系間に超光速で移動できる亜空間ネットワークを作り上げた。

 宇宙船はこのエンシェント・ロードにアクセスする事により、一旦この宇宙から外へ出る。これは、比喩的な言い方であり、むしろ通常の物理法則から解き放たれると言ったほうが、いいのかもしれない。

 エンシェント・ロード内は超光速で移動する事が、できる。これは、エンシェント・ロード内に『流れ』が存在する為だ。この『流れ』にのる事によってのみ、エンシェント・ロード内の移動は可能である。

 エンシェント・ロードにはアクセスポイントがある。このアクセスポイントにアクセスしさえすれば、後はかってに別アクセスポイントから通常空間へと放出される。

 このアクセス方法であるが、疑似生命体である『ダイモーン』に指示を出す事によって、行われる。すべての宇宙船の内部にはこのダイモーンが、格納されている。ダイモーンは、銀河先住民族の退化した姿ともいわれており、地球人はこのダイモーンをかつて太陽系の木星上で発見した。

 地球人はエンシェント・ロードを辿って、他星系へ植民地を広げていった。その結果、各植民星系は独立し、地球政府とは別に銀河連邦を築く。地球政府と銀河連邦の戦いが、先の大戦ということになる。

 ビリーは、眉をしかめた。超光速空間へ移動する時に特有の、奇妙な感覚に襲われたせいだ。

 超光速空間に入り込んでしまえば、パトロール船も追跡する事はできない。基本的に船は、エンシェント・ロードの流れに入り込むだけで、コントロールは不能になる。又、エンシェント・ロード上の船は観測不能となる為、他の船がどこのアクセスポイントへ向かっているかを知る術は無い。

 ビリーは、リンに笑みを投げかける。

「ああ、そういえば思い出したよ。大戦中に、地球軍の戦略支援システム『フェンリル』にデジタル・ダイブを行った、双子の姉妹がいたとか。確かにあれをやったのがあんたなら、地球軍が百万近い戦死者を出した戦いの原因を造ったわけだな」

 ビリーは、ジゴロのように悪魔的に優しい笑みをうかべ、リンへの囁きを続ける。

「あれは、あんたが7つか、8つの時の事か?」

「そうよ」

 リンは、平然といってのけた。

「わたしとメイが生き延びる為なら、銀河系じゅうの都市を廃墟に変える事だって、やってみせるわ」

「やれやれ、とんだ疫病神に見込まれたね。なぁ、ヤン」

「何言ってるんですか、キャプテン」

 ヤンは、コンソールから手を離し、くつろぎながら言った。

「疫病神はお互い様でしょ。わたしにとっちゃ、キャプテンも嬢ちゃんも似たようなもんですよ」

「冗談じゃない」

 ビリーとリンは、ほぼ同時にそういうと顔を見合わせ、そっぽを向く。

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