キャプテン・ドラゴン

ヒルナギ

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第八話

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 銀河パトロールの歴戦の勇士といってもいい、バセスカは言葉を失っていた。

「目標は、ビームシステムの補足可能域圏外に出ました」

「目標は、さらに接近、スペースキャノンの射程に入っています」

 オペレータの言葉に、バセスカは自分を取り戻す。

(なる程、伝説はまるきりでたらめでもなかったという事か)

「全砲門、目標を補足しました」

 スクリーンには相変わらず、龍の姿を映し出されている。黄金の翼を広げたその様は、地獄の炎に灼かれて甦った不死鳥を思わせた。

 バセスカは、忌々しげに、そのふざけた姿を睨む。まるで、悪戯好きの妖精に、弄ばれている気分になる。

「目標を撃て、撃ってトカゲの丸焼きにしてやれ」

 ビームシステムであれば、バリアのようなもので阻止する事もできるだろう。しかし、固形弾頭のスペースキャノンであれば、相手の表皮を食い破り、その内部へ灼熱のプラズマ噴射を浴びせるはずだ。

 6門のスペースキャノンが火を吹く。固形弾頭が龍に命中し、白熱の閃光を放つ。一瞬スクリーンが白く輝いたが、すぐ元に戻った。そこには、相変わらず神話の中から抜け出たような、黄金の龍がいる。全く砲撃のダメージが無いようだ。

「艦長、わたしの想定ですが」

 オペレータの一人が、たまりかねたように、叫ぶ。

「あれは、新手の電子兵器ではないでしょうか?レーダーやセンサーにだけ反応し、実体の存在しない架空の存在としか思えない。攻撃すべきなのは、あの輸送船では?」

 バセスカは苦虫をかみ殺したような顔で、答える。

「しかし、それでは龍の姿をしている説明がつかない。おそらく奴は、伝説にある通り、生体宇宙船というやつだろう」

「生体宇宙船?」

「宇宙生命体を利用し、宇宙船にしたてるというやつだ。コンピュータでは無く宇宙生命体の超感覚に基づき航行される為、宇宙船としての回避能力、運動能力が通常の宇宙船より優れている。ただ、この船の装備はあの戦争当時より、遥かに精度が向上している。こんな事は、」

「ありえないですか、しかし、」

「目標、さらに接近。後、120秒後に本艦に接触します」

 目の前の現実を否定してみても、話にならない。バセスカは、指示を下した。

「牽引ビームと斥力ビームを照射して、目標を固定しろ」

「了解、目標を補足しました、ビーム照射」

「接近速度に、変化がありません。ビームでは目標を固定できません」

「本艦に接触します」

 すでにスクリーン上から龍の姿は、消えていた。巡洋艦に衝撃が走る。スクリーンに、無数の警告メッセージが表示された。警報が鳴り響き、照明が非常灯に切り替わる。

 振動は、接触の瞬間以降も続いていた。派手に警告メッセージを表示していたスクリーンは沈黙してしまい、コンソールもひとつひとつ消えていく。そして、振動は次第に大きくなっていった。

「奴は、船内を移動しています」

「多分、ここを、目指しているんでしょう」

 振動は、揺さぶられるような激しさになっている。バセスカは、かろうじて言った。

「全員退避だ」

 轟音。スクリーンが砕け散り、派手に火花を上げる。そこに出現したのは、巨大な龍の頭だった。

 空気が裂け目から、抜けていく。バセスカは、薄れていく意識の中で、龍の口から一人の男が姿を現すのを見た。

 男は、ヘルメットのバイザーを上げる。バセスカは朦朧とした意識の中で、龍の口から優男が微笑みかけるのを見た。

「やあ、悪いな、あんたの船を壊して。すぐに全員退避させてくれ。その後にエンジンをぶち破るから」

(夢だな、これはきっと)

 そう心の中で思いながら、かろうじて優男に答えた。

「これはきっと、惑星ザルドスでトカゲの丸焼きを食い過ぎた祟りだろうな」

 優男はけらけら笑うと、ヘルメットのバイザーを下げ、再び龍の口の中へ消えた。


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