超弩級宇宙戦艦パルシファル

ヒルナギ

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帝都への旅路 05-01

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 ティークは、ここは贅沢な部屋だと思う。

 そこは、パルシファル内のブリーフィングルームであった。

 宇宙戦艦内のブリーフィングは、VR装備を使いネットワーク上の仮想空間で行うのが通例である。しかし、パルシファルには物理的に大きなブリーフィング用の部屋を用意してあり、しかもそこには大きな木製のテーブルがあった。

 楕円形の重厚でクラシックな佇まいを持つテーブルを挟み、帝国の調査局長とテラの王が対峙している。

 調査局長は、ロキ王と同じくらいに頑強そうな身体を持った護衛艦を傍らに置いていた。

 ロキ王の両脇には、ティークとフランツ・フェルディナンド博士である。

 王は、いつものとおり岩のように頑強で重々しい姿を清冽な気配で包んでいた。王を前にすると、聳える城塞を前にしたような畏怖と威圧感を感じさせられる。


「ようこそ、我が船パルシファルへ。あなたの乗船を歓迎しよう、シルビア・ガーンズバック調査局長」


 テラの王とは対照的に、シルビアは夜に咲く花のように華やかであり妖艶でもある。夜を纏うかのように、優美な曲線を描く身体を漆黒のドレスに、包んでいた。ただ金色の髪だけが、月の光を捕らえたように渦巻き光を放っている。


「お招きにあずかり光栄です、王陛下。ひとつお伺いしても、よろしいかしら」


 ロキの放つ重厚な気にたじろぐことなく、シルビアは軽やかな口調で問いを発した。

 ロキは、頷く。


「この船は、帝国のあらゆる規格、協定を無視しているようにみえますわ。もし正規の申請に基づいて建造されたなら、許可をあたえた帝国の執務官が極刑に処せられても不思議はないくらいに」


 ロキはとても楽しげに、獰猛な笑みを浮かべる。両の瞳は、凶悪な輝きを宿す。


「ガーンズバック調査局長、それは我々を罰する必要があるとおっしゃっていますかね?」


 大型肉食獣が牙を剥いたような気配にも、シルビアは全く動ずる様子はない。

 口元をおさえると、淑やかな笑い声をあげる。


「まさか、まさか。わたしは、お尋ねしたいだけですわ。それより、王陛下。わたしのことはどうかシルビアとお呼びください」


 ロキは、毒気を抜かれたように少し目を細める。


「では、シルビア調査局長。ご質問を、うかがいましょう」


 シルビアは月の女神がごとき美貌に輝く笑みを浮かべると、そっと顎に手をあて首を傾げる。そしてあたかも恋人に、愛を囁くような声を発した。


「あなたがたテラのひとびとは、どうやってこの帝国に存在することがありえない船を手に入れたのかしら」


 ロキは表情を変えず、当たり前のことを言うように応えた。


「わたしたちは、土の中からこの船を掘り出したんですよ」


 シルビアは、夜の湖で跳ね踊る白い魚のような喉をさらして天を仰ぎ、楽しげに笑う。

 獣が吠えるように獰猛なロキの笑い声が、それに重ねられた。

 笑い終えてロキを見つめるシルビアの瞳は、真冬の冷気が宿っている。


「テラのひとは、とてもハイセンスなジョークを繰り出しますわね」


 ロキはそれには応えず、にぃっと凶悪な笑みを浮かべ指をぱちりと鳴らす。

 それに応えるように、フランツがヴァーチャルコンソールを操作した。

 シルビアとその護衛官の前に、仮想ウインドウが起動される。

 そこには次々と、映像資料が表示されていく。


「シルビア局長、テラの科学局長フランツ・フェルディナンドです、以後お見知りおきを! 僕らは、パルシファルをテラのカイザーヒューゲルから発掘したエビデンスを、帝国の公証プロトコルに基づいた形式で用意しています」


 フランツは、何が楽しいのかよくわからない陽気な調子で言葉を続ける。


「もしこのエビデンスが捏造と判断されるなら、帝国司法局のアーカイブにある資料は全て捏造と呼ばれてもしかたないと思いますね」


 パーティの最中であるかのように、ご機嫌なフランツをシルビアは非の打ち所のない美しい笑みで見つめる。その笑みはあまりに完璧な美しさを持っていたため、仮面のようですらあった。


「フランツ・フェルディナンド局長、資料提供ありがとうございます」


 フランツは、ウインクでシルビアに応える。


「よろしければ僕のことは、フランツとお呼びください。シルビア局長」


 シルビアは、裁きの女神のように頷く。


「フランツ局長、完璧な資料を提供していただいたお礼に、いいことを教えてあげましょう」


 シルビアは、少しだけその邪悪さを美しさの影に忍ばせたような笑みを浮かべる。


「たとえ司法局の全資料が捏造になったとしても、このわたくしが捏造といえば捏造になるのよ。それが、銀河帝国中央調査局長っていうこと」


 フランツは、口を歪め口笛をふく。


「すげぇな、ほんと。半端ないっすね、帝国は」


 フランツの皮肉な笑みを横目でにらみ、ロキ王が咳払いをする。


「おれは、元来こういう面倒なやりとりは嫌いでな。拳で語り合うほうが、性にあってる」


 シルビアは、口元を押さえくすくす笑った。


「ナイスジョークですね、王陛下」


 ロキは、シルビアの戯れ言につき合う気を無くしたらしい。鋼の装甲を貼り付けたような表情で、そっけなく語った。


「あなたがたは、ふたつの選択肢を持っている。まず、ひとつめ」


 相変わらず艶やかな笑みを浮かべるシルビアに、銃弾を撃ち込むようにロキは言った。


「おれたちの船を承認し、おれたちと共に帝都にゆく。それと、もうひとつ」


 ロキは、獰猛な笑みを浮かべる。


「極寒のテラにある地下都市で、ご機嫌な余生を送る。どちらかだ」


 シルビアは一瞬驚いたように目を見開き、また艶やかな笑みに戻る。


「なんだか突っ込みたいところがいっぱいあるけれど、面倒くさくなってきたから一つめの選択肢でよろしくってよ。けれど」


 シルビアは、笑みを浮かべたまま小首を傾げてみせる。


「ひとつだけ、質問させてほしいのですけれど。よろしいかしら」


 ロキは、面白そうなものを見る目でシルビアをみつめ、頷く。


「なんでも、お答えしよう」

「あなたがたは、わたしが口先だけであなたがたの船を承認する約束をして、帝都についたらあなた方の船を接収して帝国のものにすることは考えなかったのかしら」


 隣に座っている護衛官が、余計なことを言うなという眼差をシルビアに送ったがシルビアは涼しい顔で受け流す。

 一方ロキ王は、少し呆れた顔で目をみひらくと隣に座るフランツに目を向ける。


「そいつはなぁ、まあ無理なんだよなぁ。フランツ君」


 フランツは、にやりと笑って応える。


「まあ、むりっすね」


 ロキは反対に座るティークにも、目を向ける。

 ティークは、肩を竦めた。


「確かにそれは、無理ですね」


 三人は、目を合わせ頷き合った。

 シルビアは、むうと口を歪める。


「あらなにそれ、わたしだけ仲間外れなかんじ? ちゃんと答えて、くださらないの」


 ロキは、苦笑する。


「そもそもあなたは仲間じゃあないが、フランツ君、教えてあげたまえ」


 フランツも、苦笑した。


「いや、科学者の口からそれを言わせますかね、陛下」


 ロキはうなり、ティークをみる。


「じゃあ、ティーク君から説明してもらおうか」


 ティークはやれやれという感じで、居ずまいをただす。


「わたしたちの船、パルシファルはこちらの王陛下ご自身でなければ、動かすことが出来ないのですよ。そして、なぜそうなのかは、わたしたちはまだ解明できていません」


 ティークは、そっと咳払いをする。


「なにぶん、土の中から掘り出した船なので。マニュアルも、ございません」


 シルビアは、きょとんとした顔になる。


「それは、まあ、びっくりですわ」



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