14 / 14
第十四話
しおりを挟む
「しかし、やばいな」
甲賀が呟く。スクリーンを見る限りでは、有利なポジションをとったゼロはMAYAを弄んでいるようにさえ思える。
「逃げるのが精一杯な感じだ。5分もつか?」
「いや、勝つよMAYAは」
おれの言葉に含まれた確信に、思わずナミがおれの顔をのぞき込む。
「今、MAYAは感触を確かめているだけだ。思ったほど操作にぎこちなさは無い。勝てるさ」
「本気なの、恭平」
おれは微笑みかける。
「気がついていることが、一つある」
「なあに?」
「MAYAが勝ったら、言ってやるよ」
ナミは苦笑する。
「こんな時に後出しじゃんけんのしかえし?」
「つーかね、ほらもう5分だろ」
ナミは機動隊に連絡し、突入を指示する。
その瞬間、MAYAの機体の映像が、きりもみ状態に陥ったように激しくゆれながら回転する。誰もがMAYAが撃墜されたものと信じた。次の瞬間、嘘のようにMAYAの機体の映像が安定し、そこにゼロのF15が映し出される。そして、F15が火を吹いた。MAYAはいわゆるロー・ヨー・ヨーを使い自身の落下で速度を上げて、反撃に転じたのだ。
ナミは機動隊との電話を終える。
「ゼロは確保したわよ」
「生きてるのか?」
ナミは肩を竦める。
「無抵抗でげらげら笑ってたみたい。負けたのがショックだったんでしょうね」
ナミはおっさんたちに状況を手短に説明する。安堵のため息の合唱がおこる。
「で、気がついたことというのは?」
事後処理の指示で忙しいナミのかわりに、甲賀が聞いてくる。
「簡単な話さ。おれたち、つまりゼロとおれは実際に戦闘機に乗っていた経験がある。遠隔操作システムの場合、身体にかかるGを無視した操作ができる。つまり実際戦闘機に乗って操縦していると、Gによって意識を失うような操作も遠隔操作なら可能だ。しかし、おれたちのように実際に戦闘機に乗っていたものは頭では無く、身体がGを覚えている。そういう操作にはコンマ数秒のレベルで、躊躇いが生じる。MAYAにはそういう躊躇いが一切無い。その強みがあるということだ」
ナミの元にF15の機体が確保され、ウィルスの搭載されたミサイルが無事回収できたとの連絡が入る。ようやく場の緊張が薄れた。
それと同時に、MAYAのF4EJが空母に着艦する映像が映し出される。MAYAの帰還が完了した。
その場の全員が注目する中、MAYAがゆっくりブースから出てくる。全員の視線に気がついたMAYAは、その場に立ちすくむ。
誰ともなく、拍手が始まった。気がつくと、その場にいた全員が拍手をしている。皆無言のままで、ただ拍手の音だけがテストルームを満たした。
MAYAは今まで見せたことの無い表情で頬を紅らめ、おれの前へくる。拍手が鳴り止んだ時、MAYAの頬には涙が光っていた。おれはMAYAに微笑みかける。
「よっ、お疲れ」
「私は」
MAYAは言葉を詰まらせながらやっとのように、一言呟く。
「私は勝ったよ、恭平」
「よかったじゃねぇか。んじゃ、これが片づいたらもう一戦しようぜ、おれと」
MAYAは微笑む。
「こりないな、恭平。そんなに私にやられたいの?」
おれは苦笑する。
「次はおれの勝つばんだ。つーか、勝たせろ、な?」
甲賀が呟く。スクリーンを見る限りでは、有利なポジションをとったゼロはMAYAを弄んでいるようにさえ思える。
「逃げるのが精一杯な感じだ。5分もつか?」
「いや、勝つよMAYAは」
おれの言葉に含まれた確信に、思わずナミがおれの顔をのぞき込む。
「今、MAYAは感触を確かめているだけだ。思ったほど操作にぎこちなさは無い。勝てるさ」
「本気なの、恭平」
おれは微笑みかける。
「気がついていることが、一つある」
「なあに?」
「MAYAが勝ったら、言ってやるよ」
ナミは苦笑する。
「こんな時に後出しじゃんけんのしかえし?」
「つーかね、ほらもう5分だろ」
ナミは機動隊に連絡し、突入を指示する。
その瞬間、MAYAの機体の映像が、きりもみ状態に陥ったように激しくゆれながら回転する。誰もがMAYAが撃墜されたものと信じた。次の瞬間、嘘のようにMAYAの機体の映像が安定し、そこにゼロのF15が映し出される。そして、F15が火を吹いた。MAYAはいわゆるロー・ヨー・ヨーを使い自身の落下で速度を上げて、反撃に転じたのだ。
ナミは機動隊との電話を終える。
「ゼロは確保したわよ」
「生きてるのか?」
ナミは肩を竦める。
「無抵抗でげらげら笑ってたみたい。負けたのがショックだったんでしょうね」
ナミはおっさんたちに状況を手短に説明する。安堵のため息の合唱がおこる。
「で、気がついたことというのは?」
事後処理の指示で忙しいナミのかわりに、甲賀が聞いてくる。
「簡単な話さ。おれたち、つまりゼロとおれは実際に戦闘機に乗っていた経験がある。遠隔操作システムの場合、身体にかかるGを無視した操作ができる。つまり実際戦闘機に乗って操縦していると、Gによって意識を失うような操作も遠隔操作なら可能だ。しかし、おれたちのように実際に戦闘機に乗っていたものは頭では無く、身体がGを覚えている。そういう操作にはコンマ数秒のレベルで、躊躇いが生じる。MAYAにはそういう躊躇いが一切無い。その強みがあるということだ」
ナミの元にF15の機体が確保され、ウィルスの搭載されたミサイルが無事回収できたとの連絡が入る。ようやく場の緊張が薄れた。
それと同時に、MAYAのF4EJが空母に着艦する映像が映し出される。MAYAの帰還が完了した。
その場の全員が注目する中、MAYAがゆっくりブースから出てくる。全員の視線に気がついたMAYAは、その場に立ちすくむ。
誰ともなく、拍手が始まった。気がつくと、その場にいた全員が拍手をしている。皆無言のままで、ただ拍手の音だけがテストルームを満たした。
MAYAは今まで見せたことの無い表情で頬を紅らめ、おれの前へくる。拍手が鳴り止んだ時、MAYAの頬には涙が光っていた。おれはMAYAに微笑みかける。
「よっ、お疲れ」
「私は」
MAYAは言葉を詰まらせながらやっとのように、一言呟く。
「私は勝ったよ、恭平」
「よかったじゃねぇか。んじゃ、これが片づいたらもう一戦しようぜ、おれと」
MAYAは微笑む。
「こりないな、恭平。そんなに私にやられたいの?」
おれは苦笑する。
「次はおれの勝つばんだ。つーか、勝たせろ、な?」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
この世界、貞操が逆で男女比1対100!?〜文哉の転生学園性活〜
妄想屋さん
SF
気がつけば、そこは“男女の常識”がひっくり返った世界だった。
男は極端に希少で守られる存在、女は戦い、競い、恋を挑む時代。
現代日本で命を落とした青年・文哉は、最先端の学園都市《ノア・クロス》に転生する。
そこでは「バイオギア」と呼ばれる強化装甲を纏う少女たちが、日々鍛錬に明け暮れていた。
しかし、ただの転生では終わらなかった――
彼は“男でありながらバイオギアに適合する”という奇跡的な特性を持っていたのだ。
無自覚に女子の心をかき乱し、甘さと葛藤の狭間で揺れる日々。
護衛科トップの快活系ヒロイン・桜葉梨羽、内向的で絵を描く少女・柊真帆、
毒気を纏った闇の装甲をまとう守護者・海里しずく……
個性的な少女たちとのイチャイチャ・バトル・三角関係は、次第に“恋と戦い”の渦へと深まっていく。
――これは、“守られるはずだった少年”が、“守る覚悟”を知るまでの物語。
そして、少女たちは彼の隣で、“本当の強さ”と“愛し方”を知ってゆく。
「誰かのために戦うって、こういうことなんだな……」
恋も戦場も、手加減なんてしてられない。
逆転世界ラブコメ×ハーレム×SFバトル群像劇、開幕。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
25年の時を超えた異世界帰りの勇者、奇跡の【具現化】で夢現の境界で再び立ち上がる ⛔帰還勇者の夢現境界侵食戦線⛔
阿澄飛鳥
ファンタジー
2000年7月5日、松里アキはバスの中で謎の事故に巻き込まれる。
そして次に目を覚ましたとき、大人たちに伝えられたのは、時は2025年、その間、自分は行方不明になっていたという事実だった。
同時に、この時代の日本には【境獣】と呼ばれる魔物が出現していることを知る。
その日、謎の声に導かれて行き着いた先で手に入れた腕輪を嵌めると、アキは夢を見た。
それは異世界に飛ばされ、勇者になったという記憶だ。
欠落した記憶、取り戻す力、――そして現代に現れた魔物を前に、アキは戦いに身を投じる。
25年という時を超えた夢と現の境界で、勇者は再び前に進むことを選ぶのだった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる