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第四十三話【新宿編】
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『おーい』
莫邪の後ろのOAテーブルから声がかかる。
『こっちは紹介なしですか?』
ブラックソウルは困惑したように眉をあげる。
何しろ、喋っているのが人形だからだ。
OAテーブルの前に座っている美青年。その前には身長四十センチほどの着せ替え人形が座っている。その人形は金髪で可愛らしい笑みを浮かべているが、そのスタイルは黒尽くめに白レースフリルを多用したゴスロリふうだ。
そのゴスロリ人形が喋っている。どう考えても、実際に喋っているのは美青年なのだろうが、腹話術とは少し違っていた。そのゴスロリ人形にはスピーカーが内蔵されているようだ。おそらく青年の喉に筋肉の動きを感知して声を組み立てるシステムが、埋めこまれているのだろう。
「あの、」
青年がすまなそうに言った。
「すみません」
莫邪は肩を竦める。
「あいつは、ほっといていい。ややこしいから」
『ややこしいって、ちゃんと説明しろよ』
ゴスロリ人形は可憐な笑みを浮かべ、幼い少女の声でしゃべる。生きているようにすら思えた。
莫邪は、青年のほうを見ずに言った。
「相棒の月影喜多郎。以上」
『以上、て。おれは月影愁太郎。よろしくね』
人形が可愛らしく言う。青年はぺこりと頭をさげた。
「よろしくお願いします」
「って」
ブラックソウルは珍しく困った顔をしていた。
「もう少し、説明が必要だと思わないか」
莫邪はため息をつく。
「ややこしいんだよ、あいつは。あまり触れたくない」
『ややこしいとは、失礼だね』
「すみません、説明します」
喜多郎は、あまり感情を感じさせない、消え入りそうなか細い声で言った。
「あの、愁太郎は双子の兄なんです。昔、肉体を無くしたんですけど、精神は僕の心の中に残っているんです。精神だけになったんで喋れなかったんですけど、この人形を使ってしゃべれるようにしたんです」
「なるほど」
ブラックソウルはため息をついた。
「ややこしいな」
「だからゆうたやろう。とにかくそっとしておいてくれ、あいつは。それはそれとして、白人さんの傭兵かい。しかも金髪で青い目とはな」
莫邪は私を見つめる。私は苦笑した。
「珍しくないだろ、特にこの街では」
「アジア系、インド系、イスラム系というのは珍しくないけどな、純粋な白人というのは珍しい。むしろ黒人のほうが多い」
「へえ。初耳だ」
私は肩を竦める。
「それで? 白人はUSAのスパイにでも見える? 人種差別は勘弁してくれ。ちなみに言っておくが、私はアイリッシュだ。あと酒にまつわるアイリッシュジョークなら、間に合ってるよ」
ふん、と莫邪は鼻をならす。
「それでや。あらかじめ言っておくけど、おれたちは月影盗賊団、ひらたく言えば泥棒や。殺しはおれたちの仕事やない。そういうのはクォータームーンさんにおまかせする」
「アリスでいいよ」
私の言葉に莫邪は頷く。ブラックソウルが言った。
「人間だけが相手なら、そもそもあんたらには頼んでいない」
「まず説明してもらおうか」
莫邪はブラックソウルを、真っ直ぐ見る。
「おれたちに、どこから何を盗ませる気や」
「おれたちの行く先は、グランドゼロ」
ブラックソウルの言葉に、莫邪がのけぞる。
『へえ、びっくりだね。バイオテロルで汚染された中心地かい。そんなところに何があるのかな?』
ゴスロリ人形の言葉にブラックソウルが答える。
「グランドゼロ。つまりあんたが言うように生物兵器によるテロルの中心地のことだが、そもそもテロルが本当にあったと思うか?」
莫邪の後ろのOAテーブルから声がかかる。
『こっちは紹介なしですか?』
ブラックソウルは困惑したように眉をあげる。
何しろ、喋っているのが人形だからだ。
OAテーブルの前に座っている美青年。その前には身長四十センチほどの着せ替え人形が座っている。その人形は金髪で可愛らしい笑みを浮かべているが、そのスタイルは黒尽くめに白レースフリルを多用したゴスロリふうだ。
そのゴスロリ人形が喋っている。どう考えても、実際に喋っているのは美青年なのだろうが、腹話術とは少し違っていた。そのゴスロリ人形にはスピーカーが内蔵されているようだ。おそらく青年の喉に筋肉の動きを感知して声を組み立てるシステムが、埋めこまれているのだろう。
「あの、」
青年がすまなそうに言った。
「すみません」
莫邪は肩を竦める。
「あいつは、ほっといていい。ややこしいから」
『ややこしいって、ちゃんと説明しろよ』
ゴスロリ人形は可憐な笑みを浮かべ、幼い少女の声でしゃべる。生きているようにすら思えた。
莫邪は、青年のほうを見ずに言った。
「相棒の月影喜多郎。以上」
『以上、て。おれは月影愁太郎。よろしくね』
人形が可愛らしく言う。青年はぺこりと頭をさげた。
「よろしくお願いします」
「って」
ブラックソウルは珍しく困った顔をしていた。
「もう少し、説明が必要だと思わないか」
莫邪はため息をつく。
「ややこしいんだよ、あいつは。あまり触れたくない」
『ややこしいとは、失礼だね』
「すみません、説明します」
喜多郎は、あまり感情を感じさせない、消え入りそうなか細い声で言った。
「あの、愁太郎は双子の兄なんです。昔、肉体を無くしたんですけど、精神は僕の心の中に残っているんです。精神だけになったんで喋れなかったんですけど、この人形を使ってしゃべれるようにしたんです」
「なるほど」
ブラックソウルはため息をついた。
「ややこしいな」
「だからゆうたやろう。とにかくそっとしておいてくれ、あいつは。それはそれとして、白人さんの傭兵かい。しかも金髪で青い目とはな」
莫邪は私を見つめる。私は苦笑した。
「珍しくないだろ、特にこの街では」
「アジア系、インド系、イスラム系というのは珍しくないけどな、純粋な白人というのは珍しい。むしろ黒人のほうが多い」
「へえ。初耳だ」
私は肩を竦める。
「それで? 白人はUSAのスパイにでも見える? 人種差別は勘弁してくれ。ちなみに言っておくが、私はアイリッシュだ。あと酒にまつわるアイリッシュジョークなら、間に合ってるよ」
ふん、と莫邪は鼻をならす。
「それでや。あらかじめ言っておくけど、おれたちは月影盗賊団、ひらたく言えば泥棒や。殺しはおれたちの仕事やない。そういうのはクォータームーンさんにおまかせする」
「アリスでいいよ」
私の言葉に莫邪は頷く。ブラックソウルが言った。
「人間だけが相手なら、そもそもあんたらには頼んでいない」
「まず説明してもらおうか」
莫邪はブラックソウルを、真っ直ぐ見る。
「おれたちに、どこから何を盗ませる気や」
「おれたちの行く先は、グランドゼロ」
ブラックソウルの言葉に、莫邪がのけぞる。
『へえ、びっくりだね。バイオテロルで汚染された中心地かい。そんなところに何があるのかな?』
ゴスロリ人形の言葉にブラックソウルが答える。
「グランドゼロ。つまりあんたが言うように生物兵器によるテロルの中心地のことだが、そもそもテロルが本当にあったと思うか?」
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