雪原のワルキューレ

ヒルナギ

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第四十六話【新宿編】

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 ブラックソウルは十分ほどで現れた。

 スタングレネードが轟音と閃光を放つ。

 棒立ちとなった警備員たちを、私と莫邪のベレッタM93Rが吐き出す9ミリ弾が打ち倒していった。グランドゼロ内部は驚くほど無防備である。

 私たちはPDAに表示されたグランドゼロ内部の見取り図を見ている月影の指示に従って、廊下を走った。ブラックソウルは後ろに続く。

 本来であれば、体内に微弱電波を発信するチップを身体に埋めこまれた人間以外が侵入した場合、廊下がシールドで閉鎖され麻酔ガスで意識を奪われるシステムとなっている。しかし、月影の投入したウィルスによってシステムがダウンしている今、あきれるほど無防備な状態になっていた。

 システムがダウンから復旧するのに、約30分はかかると見ている。ダウンから約20分経過した今、私たちは目的のポイントの目の前に来ていた。

 曲がり角がくると、莫邪がスタングレネードを放る。炸裂と同時に、M93Rを撃ちながら、角を曲がった。6連リボルバー程度の武器しか装備していない警備員たちは、ほとんど抵抗することができない。

 グランドゼロの外側には自動ライフルを装備した自衛隊員がいるが、彼らはブラックソウルが陽動のため爆破したポイントへ移動している。そのポイントには無数のトラップを仕掛けているため、入りこんだら容易には戻れない。

 後5分もすれば、グランドゼロ内部に増援部隊が到着するはずだった。その時には、私たちは目的地についているはず。

 私たちは、丸腰の月影を前後左右から囲む形で走ってゆく。最後の曲がり角についた。私はM93Rの弾倉を交換すると、莫邪がスタングレネードが放るのと同時に、そこへ飛びこむ。

 三人の警備員は、あっさり倒れた。いくら9ミリ弾とはいえ、防弾チョッキの上から被弾したとしても、肋骨にひびくらいは入る。訓練された兵士ではない警備員たちは、それで十分戦意を失った。

 警備員たちは、床に倒れうめいている。その向こうには頑丈そうな鋼鉄の扉があった。

 ブラックソウルが獣の笑みをみせ、莫邪に囁きかける。

「バーレットだ、莫邪」

「やれやれ」

 莫邪は背負っていたバーレット・アンチマテリアル・ライフルを取り出す。全長1.

5メートルはあるライフルだ。理論的には1キロ以上はなれているポイントでも狙撃できるしろものだけに、振りまわしはきかない。

 莫邪は膝射で撃つ。轟音が響き渡った。莫邪は反動をうまく流しながら、連射する。

コンクリートの壁ごと扉の錠部分が破壊された。

「ハリウッド映画みたいじゃねえか」

「勘弁してくれ」

 ブラックソウルの言葉に、莫邪は肩を竦める。

「おれはジェイソン・ステイサムじゃないんやからな」

 莫邪は倒れている警備員に近づくと、バーレットの銃床で頭を殴り意識を奪ってゆく。気を失った警備員たちからリボルバーを奪うと弾を抜いて放り投げる。そして、私たちを手招きした。

 私たちは破壊した扉を開き、その奥へ入る。そこは無人だった。エレベータが一機だけある。

 エレベータの扉は、そばに操作パネルがつけられているが、電子ロックつきの蓋に覆われていた。莫邪が漆黒の左手で強引に蓋を開く。

「じゃ、後はまかせたで」

 莫邪の言葉に頷いた月影がそのパネルに、自分の端末に繋がったケーブルを接続してゆく。月影の端末には、ハッキング用ソフトの操作画面が表示されていた。

「時間がないぞ」

 ブラックソウルが時計を見ながらつぶやく。

「後3分ほどで、システムが復旧する。そうすればここは麻酔ガスで満たされてしまう」

「うーん、ここは地下から制御されてるからちょっと難しいねえ」

 月影は暢気な調子で答える。両手は忙しくキーボードを叩いていた。

 その時、部屋に紅いランプが灯る。警告ブザーが鳴った。スピーカーから声が流れる。

『許可の無い侵入は禁止されています、20秒後に麻酔ガスが放出されます』

「おい、システムが復旧したぞ」

 ブラックソウルは、多少焦りのある声を出す。

「うーん、もうちょっと」

『10秒前』

「あれ、ここはどうだっけ?」

 月影のぽよんとした声に、ブラックソウルの目の色が変わる。

『5、4、3、2』

 エレベータのドアが開いた。

 私たちはそこに飛び込む。最後に端末を抱えた月影が入り込み、ドアが閉ざされた。

エレベータは地下に向かって動き出す。

 莫邪はブラックソウルに微笑みかけた。

「この危機一髪具合も、ハリウッド映画か?」

 ブラックソウルは苦笑した。
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