土曜日の本

ヒルナギ

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010 「狼は笑う」

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 狼は笑う。

 赤い三日月のように口を開いて笑う。

 わたしはその狼に、侮蔑の嘲笑を叩き付けた。

「相変わらず趣味の悪い姿ね、シロウ」

「おれに言わせてみれば」

 狼は落ち着き払って言った。

「どのような形にでも造れる幻体をわざわざひとの姿にすることこそ、趣味が悪い。なあ、おまえも獣の姿になってみろエリカ。いかにひとの身体というものが不自然につくられたものか、理解できるよ」

 わたしは、鼻で笑う。

「あきれた変態ね、あんた。シロウあんた一人できたわけではないんでしょう」

 わたしの言葉に促されたように、二人の男女が闇のなかから歩みでる。

 ひとりは少女。

 わたしと同じ身体、同じ顔を持つ少女。

 いえ。

 わたしの身体を奪った少女といってもいい。

 そしてもうひとりは青年。

 金色に輝く髪と、青い瞳。

 甘い笑みを浮かべた顔は、天使のように美しく。

 均整のとれた身体を灰色のインバネスに包み。

「クレール」

 わたしはわたしの顔をもつ少女に語りかける。

「この裏切り者。というよりカリオストロの名を持つものを信じたわたしが馬鹿ということ?」

「エリカ」

 クレールはわたしと同じ顔を哀しげに曇らせて言った。

「なぜ、ティル・オイレンさまに逆らうの。あなたが協力してくれれば、こんなことには」

「はあ?」

 わたしの目がつりあがる。

「なんでわたしがあの道化の言うこときかなきゃいけないのよ」

「だって」

 クレールは苦しげにいった。

「あのかたは、あなたのお父様」

「ちょっと、やめてよ。虫ずが走る」

 わたしはラファエルのような笑みを浮かべる青年に向き直る。

「フェリシアン、ひさしぶりね」

 フェリシアンは甘い笑みを浮かべ囁くように語った。

「エリカ、相変わらず素敵だね君は」

「はああ??」

 わたしは頭のなかで花火が炸裂するのを感じる。

「凄くむかつく、あんたねえ」

 わたしの傍らで、日出男が抜刀した。

「なに日出男。落ち着きなよ」

「囲まれました」

 日出男は冷たく言い放つ。

 わたしは見回す。銃を手にした黒衣の兵士たち。立ち上がった影のような兵士たちは包囲の輪を閉じ終えたようだ。

 わたしが再開の会話を楽しんでいるあいだに。

 狼がもう一度口をひらく。

「なあ、最後のフォン・ヴェック。一応確認する。ティル・オイレンに協力する気はないのか?」

「あたりまえ」

 わたしは右手を掲げる。

 その手に、一枚のカードが現れた。

 黒いカード。

 わたしは叫ぶ。


「古の契約に基づき汝を召喚する。セイバー・オブ・ブラック」


 黒の剣士。

 わたしの守護者。

 彼が地上に姿を表した。

 死をその腕に携え、時を越える速度をうち従えて。


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