3 / 40
第3話「彼の名は、クリスマス」
しおりを挟む
彼の名は、クリスマス。
なぜそんな名前になったのかというと、彼はクリスマスの夜に死んだからだ。
彼は泥酔するまで飲むくせがあって、ある雪が降り積もったクリスマスの夜に酔っぱらって自宅のマンションにある階段を踏み外して亡くなった。
それでみんな「あのクリスマスの夜に死んだやつ」と言ってたけど、それが省略されて「クリスマス」って名前になったの。
でも、これには異説があって、はげ具合がジェイソン・ステイサムなみで映画エクスペンダブルズに登場するクリスマスみたいだってみんなが言ってたからというのもある。
まあ、どっちでもいいしどうでもいい。
わたしは自分で自分のことを控えめにいって天才だと思ってるし、自分より凄いと思えるひとはひとりしかいないとも思ってる。
そのたったひとりが、クリスマスだ。
わたしがはじめて彼とあったのは、とある仕事でマシン室に缶詰めにされていたときのこと。
そこはとある施設の地下五階にあるマシン室で、二重三重のセキュリティに保護された地下ダンジョンみたいなところだった。
当然携帯電話の電波なんてとどかないし、地上をミサイルで攻撃されても多分平気な場所だ。
そこで、わたしたちは追いつめられていたの。
はじめは単純なシステムのアップデイト作業だったはずなのに、想定外のトラブルが起こってシステムが起動しなくなってしまった。
なんか公安が使ってるセキュリティシステムと連動してるシステムだから、朝までに起動できないと国家レベルでの問題になるって上のひとたちは蒼くなってたの。
天才を自認するわたしですら皆目見当つかない状況で、ハッカーに何か仕込まれたんじゃあないかってみんなで話をしてた。
で、午前三時ごろもう後がない、って状況で彼に連絡がついたってわけ。
彼が登場したのは、午前四時。
例によって泥酔状態だった彼は、まともに歩けなかったから車いすに乗せられていた。
なんか得体の知れない注射(ビタミン剤ってみんな言ってたけど、絶対違う)をうたれて意識を取り戻した彼は、システムトラブルの解析をはじめる。
たったの、三分。
十人以上の専門家、いえ外でバックアップしてたひとたちをいれると三十人くらいのひとが四時間かけて解決の糸口さえ見つけられなかった問題を、彼は三分で解決した。
もうね、わたしと彼の差はいぬとひとの差ぐらいあるんじゃあないかと思ったわね。
まったく起動する気配もなかったシステムが起動し、コンソールに正常動作のメッセージが出たときマシン室に拍手が巻きおこったわ。
でも肝心の彼は、車いすで再び眠りについていたのだけど。
彼とわたしはその後始末で一緒に仕事をして、わたしは一方的に彼の弟子になったわけ。
彼にすると、いい迷惑だったのかもしれないけど、ちゃんと面倒をみてくれていた。
いつしかわたしは、彼の家によく遊びに行くようになってたの。
なにしろ彼は、自宅にハイスペックのサーバーにネットワーク機器をいろいろ接続した電脳世界を構築していたから、ものすごく遊びがいがあった。
彼の家にいくと、サイバー空間にころがる宝のやまにアクセスできたんだよね。
そんな感じでわたしは彼の家でいつも時間を忘れてこどものように、遊んでいたんだけど。
ある日、それを見つけてしまったの。
それは、一見音楽データを編集するDTM用アプリみたいなプログラムにみえた。
「ねえ、師匠。これなんなのよ」
わたしの言葉に、彼は珍しく少し困ったような顔をする。
「ああ、それをみつけられてしまったか」
彼はまるで悪事が露見した、シリアルキラーみたな表情をしている。
わたしは、彼の態度にびっくりしてソースコードを確認する。
そういえばシーケンサーやシンセサイザーのたぐいにしては、制御が複雑すぎるし精密すぎた。
彼は、うーんと唸りながら説明をはじめる。
「ゼンデギ、てあるだろ」
「ああ、グレッグ・イーガンの小説ね」
彼は、うなずく。
「そのプログラムは、ゼンデギの逆をやるんだよ」
えーっと。
ゼンデギって、確かニューロンの発火パターンをトレースして、ひとの精神をサイバーネットワーク上にアップロードするってやつだったよね。
その逆、ってことは。
まさか、サイバーネット上にある仮想人格を、ひとの脳へダウンロードするっていうこと?
わたしは、あきれて目を丸くした。
「そんなの、無理だよ」
「いや、ゼンデギにくらべれば、遙かに簡単だろう」
疑わしげな顔をしているわたしへ、彼は説明をこころみる。
「ひとの脳でおきているニューロンの発火パターンをトレースして、そのロジックを解析するまでは比較的簡単だろう。それは、判るよね」
彼の言葉に、わたしはうなずく。
確かに、そこは単にビッグデータの解析みたいなものだから、AIをうまく使ってできるはず。
「問題は、そのロジックを実行するプロセッサの仕組みが判らないことなんだよね」
なるほど、脳の中で何が起こっているかは調べれば判るけれど、それがどのように実現されてるかはロジックをいくら解析してもわからないってことか。
例えてみれば。
自動車を分解して、部品を調べていけばその仕組みまでは判るはず。
でも、自動車がどのように操作され、何に使われるのかっていうのはいくら部品を調べても判りっこない。
だから、脳って機械を仮想的にサイバーネットワークに実現しても、それをどうやって動かせるのかは判らないってことになる。
けれど逆に、仮想的な脳を本物の脳へダウンロードすればかってに動き出すはず。
そういうことよね。
「いやいやいや」
わたしは、首をふる。
いったいどうやって、脳へデータをダウンロードするっていうのよ。
「どうやって、脳にデータをダウンロードするかといいたいのだね」
わたしは、彼の冷静な言葉にうなずく。
彼は、出来の悪い生徒に説明する調子で、話をはじめた。
「聴覚というものは、意外と精神の奥深いところに直結しているんだ。たとえば可聴範囲を越えた領域の音は、聴いていることを意識は関知できないが、脳の神経伝達物質の分泌に影響を及ぼし鬱病などを引き起こすことが知られている」
わたしは、うなずく。
言われてみれば、そんな話もきいたことがあるような。
「つまり、聴覚というものは意識を経由せずダイレクトに脳へ作用する。有名なところでは古代ギリシャでピタゴラス教団の行っていた、音楽療法がある。これは、音楽を使って精神の深い領域をコントロールしようというものだ」
「先生、わかりました」
わたしは、手をあげる。
彼は、少し片眉をあげてわたしをうながした。
「つまり、サイバードラッグを使って、マインドコントロールするわけですね」
彼は、眉をひそめた。
「身も蓋もない言い方だけれど、そのとおりだ」
「そういうサブリミナルコントロールを、音楽や映像を使ってやるのって、法規制があったんじゃあ」
「あるよ、もちろん。でも、そういう細かいことは気にしなくてもいいんだ。公開する気はないからね」
いやいやいや。
それって、非合法の麻薬を調合してるけど、売る気はないからセーフっていうようなものじゃん。
それを細かいことっていったら、なんでもありだよなあ。
そうわたしは思ったが、彼は無邪気なのりでいってのけた。
「簡単に言うと、音楽を使って脳内にバーチャルな人格をダウンロード可能だと思ってる」
まあ、できるんだろうね。
思いっきり、法的にはアウトだけど。
やっぱり、天才というのはどこか頭のネジが飛んでると思う。
わたしも多分ひとのことは、とやかく言えないんだろうね。
「実をいえばリズムと周波数をニューロンの発火パターンとマッピングする作業は、ほぼ終わってる。人体実験をやれたらいいと、思うんだけどなあ」
わたしは、げっ、となる。
この流れだと、わたしが実験に志願するっていうのを求めてるわけだよね。
確かにおもしろそうではあるけれど 、自分がそこまで壊れたひとかは微妙なところだ。
わたしは、話を変えることにした。
「質問があります」
「なにかな」
「先生は、音楽を聴いたりするんですか?」
彼は、少しだけつまらなそうな顔をした。
つまり、今回は実験の要請を断られたと、理解したわけだ。
「まあ、聴くね。古い音楽が多いけれど」
意外な答えだと、わたしは思った。
「古いっていうのは、たとえばどんなのですか?」
「世界最古の女性音楽家といわれる、ヒルデガルド・フォン・ビンゲンとかね」
古すぎだよ、それは。
「もう少し、新しいやつだとどうですか」
彼は、少し考える。
「1940年代のベルリンでレコーディングされた、ブラームスの交響曲第四番もよく聴くよ」
へえ、と思う。
「クラシックが好きなんだ」
「いや、興味ないけど」
わたしは、むっとなる。
「ああ、ブラームスが好きなんですね」
「ブラームスはそうだな、積極的に嫌いだなあ」
わたしのあきれ顔に、彼は苦笑する。
「僕が聴いてるのは、フルトヴェングラーが指揮した演奏でね。彼の指揮した交響楽が、好きなんだよ」
わたしは、肩をすくめる。
「そんなひと、しらないけれど」
「そうだろうね」
あっさりといったそのことばに、わたしはなんとなくイラッとした。
彼は、わたしのこころの動きを気にしふうもなく、言葉を重ねる。
「フルトヴェングラーは、ナチスに協力した芸術家として知られていてアカデミックな場では誰もとりあげることがないから」
ふーんと、わたしは思う。
「ナチスなひとの音楽が、好きなんですね」
彼は、少し苦笑した。
「フルトヴェングラーがナチスかっていうと、それは違うかな。彼は、何も考えてなかっただけなんだよね。音楽が演奏できれば、それがどう利用されようと関係ないと思ってたんじゃあないかな」
「馬鹿なんですかね、そのひと」
意外にも、彼はわたしの言葉にうなずく。
「馬鹿だと思うよ。音楽馬鹿ってやつだね」
わたしは、大きくうなずく。
きっと君たちは、似てると思うな。
「先生は、何の馬鹿ですかね」
彼は、うれしそうに笑う。
「しいていうなら、本当の馬鹿ってやつだな」
ま、たぶんわたしもそれかな、と思って彼に笑みをかえした。
なぜそんな名前になったのかというと、彼はクリスマスの夜に死んだからだ。
彼は泥酔するまで飲むくせがあって、ある雪が降り積もったクリスマスの夜に酔っぱらって自宅のマンションにある階段を踏み外して亡くなった。
それでみんな「あのクリスマスの夜に死んだやつ」と言ってたけど、それが省略されて「クリスマス」って名前になったの。
でも、これには異説があって、はげ具合がジェイソン・ステイサムなみで映画エクスペンダブルズに登場するクリスマスみたいだってみんなが言ってたからというのもある。
まあ、どっちでもいいしどうでもいい。
わたしは自分で自分のことを控えめにいって天才だと思ってるし、自分より凄いと思えるひとはひとりしかいないとも思ってる。
そのたったひとりが、クリスマスだ。
わたしがはじめて彼とあったのは、とある仕事でマシン室に缶詰めにされていたときのこと。
そこはとある施設の地下五階にあるマシン室で、二重三重のセキュリティに保護された地下ダンジョンみたいなところだった。
当然携帯電話の電波なんてとどかないし、地上をミサイルで攻撃されても多分平気な場所だ。
そこで、わたしたちは追いつめられていたの。
はじめは単純なシステムのアップデイト作業だったはずなのに、想定外のトラブルが起こってシステムが起動しなくなってしまった。
なんか公安が使ってるセキュリティシステムと連動してるシステムだから、朝までに起動できないと国家レベルでの問題になるって上のひとたちは蒼くなってたの。
天才を自認するわたしですら皆目見当つかない状況で、ハッカーに何か仕込まれたんじゃあないかってみんなで話をしてた。
で、午前三時ごろもう後がない、って状況で彼に連絡がついたってわけ。
彼が登場したのは、午前四時。
例によって泥酔状態だった彼は、まともに歩けなかったから車いすに乗せられていた。
なんか得体の知れない注射(ビタミン剤ってみんな言ってたけど、絶対違う)をうたれて意識を取り戻した彼は、システムトラブルの解析をはじめる。
たったの、三分。
十人以上の専門家、いえ外でバックアップしてたひとたちをいれると三十人くらいのひとが四時間かけて解決の糸口さえ見つけられなかった問題を、彼は三分で解決した。
もうね、わたしと彼の差はいぬとひとの差ぐらいあるんじゃあないかと思ったわね。
まったく起動する気配もなかったシステムが起動し、コンソールに正常動作のメッセージが出たときマシン室に拍手が巻きおこったわ。
でも肝心の彼は、車いすで再び眠りについていたのだけど。
彼とわたしはその後始末で一緒に仕事をして、わたしは一方的に彼の弟子になったわけ。
彼にすると、いい迷惑だったのかもしれないけど、ちゃんと面倒をみてくれていた。
いつしかわたしは、彼の家によく遊びに行くようになってたの。
なにしろ彼は、自宅にハイスペックのサーバーにネットワーク機器をいろいろ接続した電脳世界を構築していたから、ものすごく遊びがいがあった。
彼の家にいくと、サイバー空間にころがる宝のやまにアクセスできたんだよね。
そんな感じでわたしは彼の家でいつも時間を忘れてこどものように、遊んでいたんだけど。
ある日、それを見つけてしまったの。
それは、一見音楽データを編集するDTM用アプリみたいなプログラムにみえた。
「ねえ、師匠。これなんなのよ」
わたしの言葉に、彼は珍しく少し困ったような顔をする。
「ああ、それをみつけられてしまったか」
彼はまるで悪事が露見した、シリアルキラーみたな表情をしている。
わたしは、彼の態度にびっくりしてソースコードを確認する。
そういえばシーケンサーやシンセサイザーのたぐいにしては、制御が複雑すぎるし精密すぎた。
彼は、うーんと唸りながら説明をはじめる。
「ゼンデギ、てあるだろ」
「ああ、グレッグ・イーガンの小説ね」
彼は、うなずく。
「そのプログラムは、ゼンデギの逆をやるんだよ」
えーっと。
ゼンデギって、確かニューロンの発火パターンをトレースして、ひとの精神をサイバーネットワーク上にアップロードするってやつだったよね。
その逆、ってことは。
まさか、サイバーネット上にある仮想人格を、ひとの脳へダウンロードするっていうこと?
わたしは、あきれて目を丸くした。
「そんなの、無理だよ」
「いや、ゼンデギにくらべれば、遙かに簡単だろう」
疑わしげな顔をしているわたしへ、彼は説明をこころみる。
「ひとの脳でおきているニューロンの発火パターンをトレースして、そのロジックを解析するまでは比較的簡単だろう。それは、判るよね」
彼の言葉に、わたしはうなずく。
確かに、そこは単にビッグデータの解析みたいなものだから、AIをうまく使ってできるはず。
「問題は、そのロジックを実行するプロセッサの仕組みが判らないことなんだよね」
なるほど、脳の中で何が起こっているかは調べれば判るけれど、それがどのように実現されてるかはロジックをいくら解析してもわからないってことか。
例えてみれば。
自動車を分解して、部品を調べていけばその仕組みまでは判るはず。
でも、自動車がどのように操作され、何に使われるのかっていうのはいくら部品を調べても判りっこない。
だから、脳って機械を仮想的にサイバーネットワークに実現しても、それをどうやって動かせるのかは判らないってことになる。
けれど逆に、仮想的な脳を本物の脳へダウンロードすればかってに動き出すはず。
そういうことよね。
「いやいやいや」
わたしは、首をふる。
いったいどうやって、脳へデータをダウンロードするっていうのよ。
「どうやって、脳にデータをダウンロードするかといいたいのだね」
わたしは、彼の冷静な言葉にうなずく。
彼は、出来の悪い生徒に説明する調子で、話をはじめた。
「聴覚というものは、意外と精神の奥深いところに直結しているんだ。たとえば可聴範囲を越えた領域の音は、聴いていることを意識は関知できないが、脳の神経伝達物質の分泌に影響を及ぼし鬱病などを引き起こすことが知られている」
わたしは、うなずく。
言われてみれば、そんな話もきいたことがあるような。
「つまり、聴覚というものは意識を経由せずダイレクトに脳へ作用する。有名なところでは古代ギリシャでピタゴラス教団の行っていた、音楽療法がある。これは、音楽を使って精神の深い領域をコントロールしようというものだ」
「先生、わかりました」
わたしは、手をあげる。
彼は、少し片眉をあげてわたしをうながした。
「つまり、サイバードラッグを使って、マインドコントロールするわけですね」
彼は、眉をひそめた。
「身も蓋もない言い方だけれど、そのとおりだ」
「そういうサブリミナルコントロールを、音楽や映像を使ってやるのって、法規制があったんじゃあ」
「あるよ、もちろん。でも、そういう細かいことは気にしなくてもいいんだ。公開する気はないからね」
いやいやいや。
それって、非合法の麻薬を調合してるけど、売る気はないからセーフっていうようなものじゃん。
それを細かいことっていったら、なんでもありだよなあ。
そうわたしは思ったが、彼は無邪気なのりでいってのけた。
「簡単に言うと、音楽を使って脳内にバーチャルな人格をダウンロード可能だと思ってる」
まあ、できるんだろうね。
思いっきり、法的にはアウトだけど。
やっぱり、天才というのはどこか頭のネジが飛んでると思う。
わたしも多分ひとのことは、とやかく言えないんだろうね。
「実をいえばリズムと周波数をニューロンの発火パターンとマッピングする作業は、ほぼ終わってる。人体実験をやれたらいいと、思うんだけどなあ」
わたしは、げっ、となる。
この流れだと、わたしが実験に志願するっていうのを求めてるわけだよね。
確かにおもしろそうではあるけれど 、自分がそこまで壊れたひとかは微妙なところだ。
わたしは、話を変えることにした。
「質問があります」
「なにかな」
「先生は、音楽を聴いたりするんですか?」
彼は、少しだけつまらなそうな顔をした。
つまり、今回は実験の要請を断られたと、理解したわけだ。
「まあ、聴くね。古い音楽が多いけれど」
意外な答えだと、わたしは思った。
「古いっていうのは、たとえばどんなのですか?」
「世界最古の女性音楽家といわれる、ヒルデガルド・フォン・ビンゲンとかね」
古すぎだよ、それは。
「もう少し、新しいやつだとどうですか」
彼は、少し考える。
「1940年代のベルリンでレコーディングされた、ブラームスの交響曲第四番もよく聴くよ」
へえ、と思う。
「クラシックが好きなんだ」
「いや、興味ないけど」
わたしは、むっとなる。
「ああ、ブラームスが好きなんですね」
「ブラームスはそうだな、積極的に嫌いだなあ」
わたしのあきれ顔に、彼は苦笑する。
「僕が聴いてるのは、フルトヴェングラーが指揮した演奏でね。彼の指揮した交響楽が、好きなんだよ」
わたしは、肩をすくめる。
「そんなひと、しらないけれど」
「そうだろうね」
あっさりといったそのことばに、わたしはなんとなくイラッとした。
彼は、わたしのこころの動きを気にしふうもなく、言葉を重ねる。
「フルトヴェングラーは、ナチスに協力した芸術家として知られていてアカデミックな場では誰もとりあげることがないから」
ふーんと、わたしは思う。
「ナチスなひとの音楽が、好きなんですね」
彼は、少し苦笑した。
「フルトヴェングラーがナチスかっていうと、それは違うかな。彼は、何も考えてなかっただけなんだよね。音楽が演奏できれば、それがどう利用されようと関係ないと思ってたんじゃあないかな」
「馬鹿なんですかね、そのひと」
意外にも、彼はわたしの言葉にうなずく。
「馬鹿だと思うよ。音楽馬鹿ってやつだね」
わたしは、大きくうなずく。
きっと君たちは、似てると思うな。
「先生は、何の馬鹿ですかね」
彼は、うれしそうに笑う。
「しいていうなら、本当の馬鹿ってやつだな」
ま、たぶんわたしもそれかな、と思って彼に笑みをかえした。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。
死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。
命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。
自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?
黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。
古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。
これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。
その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。
隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。
彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。
一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。
痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる