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第15話「この世界で、戦って生き延びよう」
しおりを挟むわたしは、目を丸くする。
だったら、生け贄なしでもわたし帰れんじゃあないの。
マリーンは、少し眉をひそめる。
露骨に面倒くさそうな雰囲気を醸し出しているが、こっちも納得いかない感を全開にしていた。
しかたないという感じで、マリーンは口をひらく。
「魔力をもっともてっとりばやく得るのは、生け贄をささげること。でも、それ以外にも魔力を得る方法はある。たとえば」
マリーンは、教師のようにみえる表情でわたしの目をみる。
「竜族は鉱物の結晶体を燃焼させて、魔力をえる。あるいは、エルフたち。彼らは、植物、花を散らすことによって魔力を得ることができる。そして、わたしの契約している魔神」
マリーンは、傍らを指し示す。
そこには、幻影が浮かび上がる。
上半身はおんなで、下半身は巨大なウミヘビのような姿。
どうやらそれは、魔神ウェパルの幻影らしい。
「彼らは、地脈。大地に眠る古に滅んだ生き物たちの力を、吸い上げる。わたしの契約している魔神ウェパルは大地と言うより、海の底から吸い上げるのだけれど」
マリーンは、暗い目をして語っている。
「その魔力は、膨大なものとなる。ひとの命一万人くらいの魔力は軽いわね」
「だったら」
マリーンが、わたしを睨みつける。
その瞳がもつあまりの暗さに、わたしは黙った。
「魔神はむろん、なんの見返りもなく魔力を供給することはない。彼女は、魔力を提供する代償としてわたしの寿命を喰らう」
わたしは、マリーンから目をそらしてしまう。
彼女の姿の意味が、なんとなく判った。
「わたしは魔力を使うと、死が近づく。死を遠ざけるため、時間遡行の呪文を常に自分へかけている。あなたを、デルファイに帰すことはできると思う。わたしの寿命、五年くらい使えばね。そうするとわたしは今よりさらに、五歳若返るんだわ」
いや、それじゃあ、まるきり幼女になってしまうんじゃあないの。
うーん、だねそれ。
「あなたがデルファイに帰ることに、それだけの価値があるなら、そうしていいよ」
むーん、と思う。
なんでそこまでして魔導師やってるんだろうと思うけど、当然なんらかの必然性があるんだろうね。
そこに踏み込みたくはないし、彼女の寿命を使ってまで帰る意味はないと思う。
それならこの世界で、戦って生き延びよう。
わたしは、そう思った。
わたしはふと、足下にあるマザー・ロシアであったものに目をむける。
マザー・ロシアは、多分わたしと同じようにデルファイというアーカイブの世界から召喚されたんだろう。
彼女は死んだら、溶けて無くなった。
わたしもこの世界で死んだら、とけて無くなるんだろうか。
「ちがうよ」
マリーンは、冷笑的な態度に戻った。
「あなたは、生身の人間。そもそもデルファイから召喚できるのはひとりだけという、決まりがあるの。そこの身体は、作り物。人工的な人形に、ひとの記憶をダウンロードした存在。そこのランゲ・ラウフと本質的には変わらない」
「えっと、魔法で造った人形なのかな」
マリーンは、鼻で笑う。
むかつく、やつだ。
「そんなもの送り込めば、あっさりあなたに魔力を消失させられ、壊されてしまうでしょ。多分、共和国の技術で造ったものね」
「共和国?」
なんだ、そりゃ。
マリーンは、少し馬鹿にしたような目でわたしを見ながら説明する。
「一万年前、そのころひとは星船を自在にあやつるような、高度な技術を持っていた。その多くは失われたけれど、一部は秘技として受け継がれてきたのよ。その秘技を保持しているひとびとがつくったのが共和国」
「おそらく」
ディディが、わってはいる。
「クラウス公子が、共和国から金で買ったんだろうな。その兵士は四刻もあれば再生できるはずだ。逆にいえば、その四刻のあいだクラウス公子は攻めてこないだろう。我々はこんなところで話をしているより、することが色々あるはずだ」
確かに。
そのとおりだと、思う。
四刻といえば、8時間のはず。
体勢を整えるには、決して長くはない時間だ。
マリーンが、ディディに頷きかける。
「せっかくマヤが命がけでつくってくれた猶予だから、有意義に使いましょう」
めずらしくマリーンが、わたしを認めるようなことをいったので、わたしは勢いよく頷いた。
「十九号、あとはまかせる。わたしはしばらく要塞の防御魔法の復旧に専念するから」
マリーンはそう言い終えると、ディスプレイのスイッチをオフにしたように消えた。
ディディは、ベアウルフたちに指示を出しはじめる。
ベアウルフたちは二足で立ち上がると、ひとのように器用に働きはじめた。
活動を停止してるランゲ・ラウフ君も、ベアウルフが抱えて運んでいく。
ランゲ・ラウフ君は、きっとクリスマスなら修理できるだろうと思う。
ベアウルフたちがてきぱきと片づけていく屋上で、わたしはふとひとつのコンテナが残されていることに気がついた。
ハウンドクラスが一機起動されずに残ってるんだろうか。
いや、ハウンドクラスより大きなコンテナに、見える。
それは、巨人の死体を納めた棺桶のようだと思う。
「ねえ、ディディ。あれ」
わたしは、ディディの背中をつついて注意をうながす。
ディディは、怪訝な顔でわたしの指さす方をみる。
「なんだか知らないけれど、役に立つかもしれないからもってこうよ」
ディディは、あきれたように額へ皺をよせたが結局ベアウルフたちに指示をだす。
大きなコンテナをベアウルフは、二頭がかりで運んでいく。
ベアウルフは案外器用で力もあるため、ひとであれば一日がかりになりそうな作業をてきぱきと片づけていった。
マザー・ロシアに破壊された要塞内部への入り口も、修復できていた。
わたしたちは、再び要塞内部へと降りていく。
「さて、マヤ」
わたしの先に立って階段を降りていくディディは、わたしに語りかけてくる。
「そろそろ君に、この要塞が収監している囚人を紹介しようかと思う」
「え、いいよ、そんなの」
わたしは、首を振った。
「政治犯なんでしょ。きっと貴族のおっさんなんだよね」
なんだか、ややこしそうなやつと会わされそうな予感がする。
「貴族ではなく、公子だ。ジークフリート・ローゼンフェルト公子」
むう。
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これは、ラノベ的な展開がくるのだろうか。
異世界に転生して、無敵のチート能力を手に入れて、王子様と恋におちる。
これは、ラノベの王道展開ではないのか。
「ま、そこまでいうなら、会ってもいいよ。そのジークフリート公子と」
ディディは一瞬振り返ってなにかいいたげにしたが、何も言わずに階段をおりていく。
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